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こんなご時世だって、東京にだって、あたたかい場所はちゃんとある。 #余韻を味わう夏の果て

都会の喧騒を背に路地をちょっと入ると、どこにでもありそうな白いドアが立ちはだかっていた。

前回ここに来た日は、凍てつくような寒い日で。
ドアを開けた瞬間に、かじかんだ手と氷が張っているのではないかと錯覚するような顔が、ふにゃふにゃととろけそうになったな。
なんてことを、遠い昔のように思い起こす。

たった半年ほど前のことなのに。

ちょっぴり緊張しながら約束の時間まであと10分であることを確かめて、そのドアを開けた。

「こんばんは」

そう一言口にすると、懐かしい顔ぶれがマスクを外してゆっくりと

「おひさしぶり。sanmariちゃん」

そう言って、迎え入れてくれた。

すっきりとした後味が印象的で
きれいなきれいなSAKEカクテル。
千代むすび酒造さんの
スパークリング日本酒『しゅわっと空』

聴覚障害のあるわたしにとって、マスクは天敵であると言っても過言ではない。音声の全てを聞き取れないわたしは、聞き取れるだけの音声を相手の口の動きを読み取りながら補完して理解している。

マスクがあると、相手の口の形を読み取ることができない。3人以上の集団の場にいるとだいたい音声2割、口の形3割、元々知っている相手の情報による想像2割くらいで話を理解している。

そんなわけだから、マスクをされたら正直お手上げ状態で。
店員さんの復唱が聞き取れなくて全てに相槌を打つもんだから、テイクアウトの注文なんか4割くらいの確率で全然違うものがやってくる。

この前なんか、みかんジュースを頼んだのに手渡されたのはすいかジュース。もはや、母音さえ合っていない。

そういうわたしの事情をよく知ってくれている彼らは、このご時世充分な距離を保ちつつもマスクを外して口の形を見せてくれる。

あぁ、わたしはここにいてもいいんだな。

マスクを外して口の形を見せてもらう。それだけで、そこに自分の居場所を見いだせるんだからすごい。

たぴもん(@tapimon)特製
『夏の果てスパイスカレー』

この日は、大好きな彼らが作り出す空間でおいしいおいしいカレーをいただく日。
毎日でも食べられるカレーだけれども、彼が愛情を込めて作ってくれるカレーは、この世で一番おいしい。

彼のカレーが食べられることはもちろん、大好きな人たちが作るこの空気なら、マスクが必須のイマだって外に踏み出せるはず。

その直感は、紛れもなく事実で。

案の定話についていけなくなったそのときも、こそっと口の形で話を捕捉してくれる。

「聞こえにくいからもう一回話してほしい」
そう言うことは、もちろんできる。
でも、話が盛り上がっているタイミングで、みんなが笑っているタイミングで、それらを遮ってしまったらと思うと、つい尻込みしてしまう。

それでも。
彼らは話の途中でも必要だと思ったタイミングで、必要なだけの情報をシェアしてくれる。
それが、どれだけ安心感につながるか。

彼の作るカレーは相変わらず美味しくて、彼らのいるその空気はカレーのスパイスのようにじんわりとあったかかった。

大好きな人たちの
はたらくうしろ姿。

こんなご時世だって、東京にだって、あたたかい場所はちゃんとある。

この大好きな人たちとの時間が、これからもずっとずっと続いていってほしい。そう願いながら、ほろ酔い気分で家路に着いた。

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