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大企業のDXプロジェクトで社内普及に苦しんでいるいる人へのお話

DXブームの昨今、どこの会社もDXにチャレンジがなされている。

一方で、DXがすべて成功しているわけではない。DXを取り組むにあたっての課題としては、新システムの良し悪し以前に人や文化といった面が課題感として挙げられている。

DX推進の担当者は新システム、あるいは技術や考え方を社内普及するために四苦八苦しているのではないだろうか。

出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2022年5月)」

外資やベンチャーと比較してDXが苦手と言われがちなJTCの中や外からこういったDXプロジェクトを見る・進める中で、「社内普及」という観点で学んだことを書く。

【対象読者】
 会社の中でDXプロジェクトの推進担当者で社内普及に悩んでいる人
【書いていること】
 普及対象者を層別したときの、それぞれのアプローチ方法


新しいものに対する人のスタンスの違い

社内普及という観点では、DXプロジェクトで導入される新システムを使う人のことを考える必要がある。

エヴェリット・ロジャースによって提唱されたイノベーター理論では、消費者の新製品に対する行動を5種類に分類している。
イノベーター理論は社内普及のことは指しておらず、新製品等での市場の普及について述べているが、消費者を同僚と見立て、これを元に社内普及について考える。

  1. イノベーター(Innovator)

  2. アーリーアダプター(Early Adopters)

  3. アーリーマジョリティー(Early Majority)

  4. レイトマジョリティー(Late Majority)

  5. ラガート(Laggards)

1.イノベーター

全体の2.5%程度存在するとされる。情報感度が高くいち早く新システムを活用したいと考えている層。

DXやAI活用推進の一人目の担当者となりがち。
大企業においても1事業部に一人か二人か程度の存在。

【判別方法】
自発的にプライベートの時間の多くを捧げ、睡眠時間を削り、参考書を買い込み、社外のコミュニティに参入し、カフェインを過剰摂取しがち。時間と命と金を捧げ、ライフワークとして関連する技術や情報の収集する人間。
導入されるシステムに関する技術や情報を得ることを純粋に楽しんでいるか、そうしなければならないと考えているタイプ。

2.アーリーアダプター

全体の13.5%を占める。流行に敏感な層。

勉強会等を開催した際に、自発的に集まってきて最後まで完遂でき、新しいシステムを使いこなせる層。

DXやAI活用推進チームメンバーとして配属されがち
大企業において1事業部で10名くらいか

【判別方法】
自己啓発としてプライベートでも一定の時間や資金を関連する技術や情報の収集に投じている。一方で、ここに関連する分野が純粋に好きかというとそうではなく、キャリアアップのために参入しているパターンがある。資格勉強など規定された勉強方法で満足することが多い。(データサインエンスの資格やクラウドの資格など)

3.アーリーマジョリティ

全体の34%を占める。既に広まっているものに乗り遅れないように動く層。

勉強会等を開催した際に自発的に参加し、新しいシステムを動かせるレベルまでは行ける層。

DXプロジェクトの協力者を募集する際に、手を挙げて協力してくれる。

【判別方法】
業務時間内での学習のみで技術やツールの習得をしたいと考えている。何か自分の業務にメリットがあれば良いと考えているので、業務内での活動に関しては協力的。

4.レイトマジョリティ

全体の34%を占める。懐疑的な層。

勉強会に参加はしない。研修を受けて必要最低限の知識を備えることができる。

DXプロジェクトを行う際に、業務としてであれば協力してくれる。

【判別方法】
新しい技術やツールを導入することで自分の業務が変えられることに抵抗感を持つが、自分の業務に新しい労力が発生しない限りは傍観してくれる。
業務としてであれば協力してくれる

5.ラガード

全体の16%を占める。反対派。

【判別方法】
新しい技術やツールを導入することで自分の業務が変えられることに抵抗感を持つことが多い。場合によっては妨害してくることもある。

アーリーアダプターとアーリーマジョリティの溝(キャズム)

社内普及という観点ではイノベーターやアーリーアダプターについては特に述べることはない。
1担当者のボトムアップ活動でも社内で勉強会の開催でも行えば勝手に始まるだろうし、経営・管理職層の後ろ盾があればより多くの部署に告知され、単純に告知された数が多いことで、より多くのイノベーターやアーリーアダプターが集まるであろう。

問題は、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの溝である。
大体100人ぐらいの部署に普及するとして10人程度までは有志が集まるがそれ以降の普及が厳しくなるようなイメージを持っている。

アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間の溝はキャズム理論と呼ばれ、ここを超えることの難易度が高いことが一般に知られている。

キャズムの超え方

キャズムの超え方として、マーケティング的なアプローチと組織論的なアプローチの2面から述べる。

ここでは、イノベーターやアーリーアダプターがDXプロジェクトの推進・導入チームに在籍しており、アーリーマジョリティ以降は導入されるシステムや技術のユーザーという想定である。

1.アーリーマジョリティにフォーカスする(マーケ的アプローチ)

キャズムを超えようとしている段階の社内普及を行う中で、レイトマジョリティやラガードが相手であればより労力を使うことになる。アーリーマジョリティを探し出し、そこにフォーカスすることで余計な労力を使わないようにする。

2.早期の成果創出と宣伝(組織論的アプローチ)

キャズムを超えようとしている段階では、アーリーマジョリティは善意の協力者である。自分の本業務があるにもかかわらず、本当に役に立つか定かでないような技術やツールについて時間を捻出して協力してくれている存在だ。しかし、その善意も成果なしには1年も2年も続くようなものではない。

2年後に使えるかもしれないシステムのために善意で協力し続けられる人は多くない。

これを防ぐには小さくてもよいので早期に成果を創出して協力する価値があることを感じてもらう事である。そしてそれを頻繁かつ広範に成果を社内に告知し、社内全体のモチベーションを上げていくことが必要である。

成果の見せ方のパターンとしては例えば、AI活用のプロジェクトであったとしても、協力してくれるアーリーマジョリティの業務を詳しくヒアリングして、データの整理整形し、簡単な可視化やこれらの自動化といった前段階ですら十分便利という事を示すパターンがある。最終ゴールに行く前の前段階でも十分に効果があるという事を示す。

3.ユーザビリティを意識する(マーケ的アプローチ)

アーリーマジョリティ以降はイノベーターやアーリーアダプターと異なり、学習コストに対する抵抗が大きい。
DXで新しいシステムを導入する際には、「簡単に使える」「直感的に使える」「エクセルで動かせる」「今のシステムと全く変わらない使い勝手や機能」といった声が上がる。
社内のお手製のシステムなどを作っている場合には、ユーザービリティの壁に当たる。
単一機能しか有さない簡単なアプリ程度のものであればよいが、多機能化するごとにUIが複雑になり、普及難易度が跳ね上がる。
デザイナー(画面だけでなくユーザー体験を考えてくれるUI/UXデザイナー)の力を借りる必要がある。

4.ターゲットをさらに絞る(マーケ的アプローチ)

プロジェクトの売りを一点に絞る、そこに興味を持ってもらえる人に対してアプローチをかけていく方法。
これがうまくいったら次の売りを作り、次のターゲットを探す。
これを繰り返し、少しずつシェアを広げていく。

レイトマジョリティへの対応

アーリーマジョリティから普及活動をしたいとはいえ、社内普及に場合には普及対象の数が市場と比較して多くないことから、レイトマジョリティへの普及を早期に実施せざるを得ない場合がある。

アーリーマジョリティまではDXプロジェクトに興味があり、その「魅力」や「効果」を伝えることで自発的に協力してくれる層であった。

一方でレイトマジョリティ層は、業務上やらなければならないため協力する程度のモチベーションであり、「魅力」をいくら伝えたところであまり意味はない。こちらに関しては「抵抗」をどの程度除くかに比重を置く必要がある。

ロレン・ノードグレン、デイヴィッド・ションタルの「「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由, (2023年)」では変化を嫌う人に対しては下記の4つの抵抗があることを述べている

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1.惰性
2.労力
3.感情
4.心理的反発

「惰性」の乗り越え方

旧来のシステムから新しいシステムに乗り越えるには「惰性」による抵抗が発生する。
これには「慣れ」で対処する。

小さくても頻繁に広範にプロジェクトの成果を社内に告知することは、新システムに対する「惰性」を緩和し、新システムへ慣れ親しんだ気持ちになれるため、レイトマジョリティ層にも有効である。

成果については逆に小さいところから始めたほうが、レイトマジョリティ層にとっても身近な内容となり「惰性」を緩和しやすい。

また、「伝達者をレイトマジョリティ層の人間にとって好ましい人にする」という手段もある。DXプロジェクト推進部門が企画部で、システムユーザーが製品開発部門の場合、企画部が製品開発部門に新システムの説明を行うのではなく、製品開発部門のレイトマジョリティの人と仲がいい、製品開発部門のアーリーアダプターの人から説明を行ってもらうなどである。

こういった体制が組めないのであれば、飲み会とまでは言わないまでも雑談等で仲良くなれるように開発部門に通うなどすることが望ましい。
「慣れ」が重要とは言ってもオンラインMTGで業務用件だけを話す会を繰り返していても経験上、「惰性」に対しては効果はないようだ。

「労力」の乗り越え方

レイトマジョリティは新しいシステムや技術を勉強することをイノベーター等と比較して嫌う。よって、「労力」という観点により気を遣う必要がある。

ノードグレンらは労力には、「苦労」と「茫漠感」の2つの側面を持つと述べている。
・「苦労」 :目標達成に必要な作業量
・「茫漠感」:目標達成の方法を知っているかどうか
この側面でDXプロジェクトにおける対策を考えた。

「労力」に関しては、新システムのユーザビリティを極力高め、レイトマジョリティに苦労を掛けさせないことを考える必要がある。
これはシステムそのものの画面デザインだけでなく使用に際しての手続き等も含む。例えば、社内システムを利用する際に上司の承認が必要と言われれば、モチベーションを下げることこの上ないだろう。

「茫漠感」に関しては、ロードマップを作り、いつ・何をすればよいかを明確化する。低労力で済ませるには考えずに指示待ちが楽なのだ。

「感情」の乗り越え方

「AIで生産性を向上!」といった話になると、「人は不要になるのでは?」という感情的な抵抗を招くことがある。
新卒や入社数年程度の若手からすると、便利なツールが出来たぐらいの気持ちだが、その道数十年の職人的な人材からすると自身の根幹を揺るがしかねないものである。

こういった場合には、その感情の原因を特定し、何とかするしかないという所である。
その恐怖を招かないような見せ方をするなど個別の対応が求められる。

「心理的反発」の乗り越え方

プロジェクトを進めるにあたってレイトマジョリティに行動を依頼・強制すること等により、プロジェクトの実施内容とは無関係に、進め方等から反発を招くことがある。

この対応方法の一つとして、ノードグレンらは「”イエス”を引き出す質問をする」という事を挙げている。
イエスと答えさせ続けることによって、一体感を醸成したり、ノーと言いにくくさせるようなテクニック的なものだ。

これは影響力の武器で述べられているような「コミットメントと一貫性」に近く、こういったテクニックで何とか反発を和らげることが担当者には求められる。

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最後に

DXやAI、業務改善などいくつかのプロジェクトの推進を行う中で、イノベーターやアーリーアダプターといった各層が、お互いの感覚の違いですれ違いが起きている場面を見てきた。

本noteが読者の方々のDXプロジェクトを加速するきっかけになれば嬉しい。

そしてこのnoteをシェアしていただけるともっと嬉しい笑
これからも継続してこういった発信を続けていくモチベーションになります


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