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夢幻回航 26回 酎ハイ呑兵衛

クラウドが護衛を頼まれたアイドルの名前は、当然芸名だが、希星良 咲妃という女性アイドルだった。
この希星良はいわゆる地下アイドルで、表のそれとは全然違った世界で人気のアイドルだった。

世機は希星良咲妃の名前を知らなかったが、沙都子は吉住猶からそのアイドルの名前を聞いて、一度歌を聴いたことがあった。

吉住猶は彼女のファンだったのだ。こんな所でその名前が出てくるとは不思議な縁、沙都子はそう思ったが、口にはしなかった。

クラウドはかまわずに話し始めた。

「小林氏の弟は小林健吾という名前だったな」世機は思い出すように言った。
健吾氏のことについてはまだ、完全に調べては居なかったが、これと言ったあやしい点もなかったはずだが?

世機はクラウドの顔をじっと見据えている。
クラウドの方はフッとため息をついて、「わかった、話すよ」と、諦め混じりの表情で話し始めた。

「希星良咲妃は本名を里神咲妃と言って里神翔子の妹だよ」クラウドは、世機や沙都子にとっても意外な名前を口にした。よりによって里神翔子の身内が絡んでいたとは。しかも、里神翔子の妹はアイドルだって?姉とは偉い違いだな、と沙都子は思った。世機の方はというと、姉の里神翔子も美人の類いにカテゴライズされるから、さもあらんと、みように納得していた。

沙都子は世機の態度を察して、弁慶の泣き所に一発鋭い蹴りを入れたが、世機はするりと躱して見せた、沙都子は舌打ちをした。

事情を察して、二人の関係を感じ取ったクラウドは、苦笑交じりに続けた。

「里神咲妃も、フリーの術者でした。姉ほど有名ではなかったのですが、なかなかの人気だったようで、アイドル活動の傍らに、政財界の大物などから大金をせしめて呪殺を請け負っていたようです」
「ありがちね。兄弟で術者ってのは」
沙都子は自分の境遇とも照らし合わせて言ったが、何の感慨もなかった。それだけ普通のことなのだ。この業界では。

「それと小林さんの弟はどうつながる」世機は気になったので、単刀直入に聞いてみた。
「小林健吾さんは、誰かの呪殺を依頼していたようです。その呪殺相手が誰なのか、そこまで詳しいことはわかっていません」クラウドは本当に正直に知っている限りのことを話してくれたようである。

世機は少し考え込んで、「兄を呪殺対象にしたと言うことは考えられないかな」と言ったが、クラウドはそれを否定した。

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