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亜熱帯のさなか

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書いた詩を ここにまとめています。 若いころに書いた詩なんかも、織り交ぜながら 記憶を どこかに メモするように 細々と 書いています。
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2023年3月の記事一覧

蛇革の財布

蛇革の
ガラガラとした
少し乾燥した
横長な

古い財布が

むかし
家にあって

それは
うちの インテリアに
全然 似合ってなくて

とても孤独で

だけど わたしが
気がついたときには

もう うちに在って

お母さんは

お家のお金を入れておく大切なお財布やから秘密やで、と言って

取っておきの 隠し場所に
いつも 隠していた

蛇なんよ、と言って 触らせてもら

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夢うつつ

遠くなって行く意識
深くて
浅い眠りに
夜通し やるせなくなって

軒先に 垂れる
雨音が

ぽつりぽつりと

音が 混じり合う
優しい 調べ

なのに わたしは

取り入れ忘れた
洗濯物を 思っている
ベッドに もぐりこみながら

ただただ
独りで過ごす時間の
長いことに
圧倒されている
#詩 #詩作#詩を書く#ポエム#記憶#孤独

サーカスを観に行った、あなたと

サーカスを見た

少ししたら
泣きたくなってきて
こっそりとわたしは泣いたのだった

あなたは
ピエロをみて
少し驚いた顔をして
それから笑った

あなたは
空中ブランコをみて 足をばたつかせて喜んだ

あなたは初めて見るライオンに興奮して体中汗ばんだ

あなたの
小さくて 暖かい手が
わたしの手を
にぎりしめている

わたしは

あなたを
確かに 産んだのだ、と

サーカスの

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あなたが 傍にいた記憶と
郷愁を胸にいだいて

熱帯夜を 泳ぐ 魚、七色のうろこの

わたしは
そんな イメージをみる

あなたにだけ
わかってもらえれば それでよかった
#詩 #詩作#詩を書く#ポエム

懺悔

ピンクのクレヨンと
おもちゃの宝石と
それから

何が 好きだったろうか
幼かったわたしは

あなたが好きだったのは
缶コーヒーと
ビーフジャーキー

知ってる

同じ時代を生きた
わたしたち

生きる早さは
あなたの方がずっと早かったけれど

仕方のないことだけど

あなたがどんどん
薄くなって
消える

色褪せてゆく

あなたを想うことを
少しずつ 少しずつ
忘れてしまって

わたしは
その刹

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有りし日

君が ためらいがちに つぶやく
有りし日

まるで
めぐりめぐって
水面をぬう小さな魚みたいだ

許してくれない
恋とは そういうものだ

遠くの方で
雷鳴がとどろいて

わたしは
君の次のひとことを
無言で 急かせる

ひと雨きそうだね、だなんて
君は 場を取り繕うけど

今日 私たちが
別れても

夕立で
洗濯物が 濡れてしまわないか

そんな 心配ばかりしているわたしは
本当に 冷たい

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無題

視線の先まで
あなたで埋め尽くされている

象になった気分

夕焼け空に
浮かべた 散文詩

暮れゆく ゆきずりの日々さえも
あなたで埋め尽くされている

幸せとは
そういうもの

積み重ねて
盛り上がって
衰退して

旅路の終着駅を捜して

あなたで
埋め尽くされている幸せ

約束をしよう

明日も明後日も
#詩 #詩作#詩を書く#ポエム

果実と貴方

かぶりついた果実の
甘い香り

なるべく 歩幅を貴方に合わせて
並んで歩く私たち

かぶりついた果実の
優しい香り

ベタベタに口もとを
光らせて

くしゃっとした笑みをくれる貴方

どうか
これからの貴方には
穏やかな日々だけが
あるように、と

わたしは
少しだけ力を込めて
貴方を抱きしめる

肩ごしに
かぶりついた果実の
甘い香りが
鼻をかすって

心許ない
情景が夢をみさせる
#詩 #詩を

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河原にて

寄せ集まる 小石が
流るる河原

ゆるゆるゆる

それを つかもうと試みる
小さいもみじの様な掌

ぱしゃぱしゃぱしゃ

おぼつかない
つま先に跳ねる水滴

きらきらきら

今日という日が
あなたを
少しずつ 形成してゆく

惜しみない愛を食べて

もぐもぐもぐ

わたしの腕の中に
溶け込んでゆく
#詩 #詩作#詩を書く#ポエム

無題

ソファに
ごろりと横たわって

真新しい気持ちとは
うらはらに

身体は
だらりと
力が抜けたままで

均等を保てない

時折 思い出す
使い古した言葉で
つづった 詩の一節を

かすれた声で
小さく ひとりごちる

日が ずいぶんと
短くなった

いよいよ 秋は到来したのだ
#詩 #詩を書く#ポエム#記憶

本当はずっと向こうにある

あの山に登ろう
砂の山に

しゃんとした気持ちで

真新しい気持ちを
持ったなら

あの山に登ろう

公園の とある地点から見える
小さな教会の
赤い三角屋根にある
白い十字架を目指して

息巻いて
はやる気持ちを抑えて

あの山に登ろう

決心したのも つかの間

にわか雨に降られて
うちひしがれて
家に帰る

冷たくなった身体に
少し熱めのシャワーをかける

僕は いつも こんなだったんだ

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初冬に降る雨

つやつやと光る
レモンドロップを
あなたにもらって

それは
雨のひとつぶに似ている

あの時でも
充分に あなたは
老いてみえたけど

あなたは あの時よりも
更に 年老いた
#詩 #詩作#詩を書く#記憶

形跡

有形のものより
もっともっと
限りなく有形で

だからといって

もっともっと
果てしなく無形で

残る記憶を形成する
うつむいた
あなたの横顔

白い吐息
鏡の橋を渡る

イメージでしか あえない
はがゆさ

生きている証
#詩 #詩を書く#詩作#生きる#形跡#鏡の橋