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月が泣くとき

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書き溜めた詩を まとめています。
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#詩作

午後の金木犀

ふと鼻をかすめる
金木犀の香り

その刹那
幼かった自分と 重なり合う

体育館裏の 湿った土を
上履きで 踏みしめて
金木犀の小さな花を
一緒に つまんで 採った
あの子は
どうしているだろう

ポプリにするといいよって
あの子は 言った

すぐに 消えてしまう
金木犀の香りが
生きなければならないと
思わせてくれた

そんな やわらかな 午後を思い出す

ひとりぼっち

毎年夏休みに 帰省する祖母の家は
じりじりと暑い暑い 京都の街で

夜明けに目覚めると
私は ひとりぼっちだった

障子越しにもれる朝の光と
遠くでないている からすの声と
すぐそばで眠っている母と祖母

私は ひとりぼっちだと思った

もう 帰らなくていいんだ
学校の運動場も
体育館裏の 金木犀の木も
廊下の白い点線も

ピアノのお稽古も

もう 帰れないかもしれない

何回も電車を乗り継いで 

もっとみる

ある夏の日の夜明け

夜が明けた
けぶるような 真夏の暑さに
ふと 目が覚めて

わたしは

よるべなく 真顔になる

朝焼けの
今日のはじまりの合図を

随分とながい間
忘れていた

どうしても かなわない
世界が 目覚める瞬間のうつくしさ

今日は
誰にも会いたくないけど

誰かに会いたい
#詩 #詩作#ポエム#つぶやき

金色にたゆむ

金色にたゆむ
それは
夕方が来て
夜が来て
闇が来て
黒いこねこのような
そんなとき

とても 安心することに 気が付いて
わたしは 事あるごとに それを せがんだ

聞き分けのない子でごめんなさい

いつだって気がつけば
私は
安心を 欲しがってた

ブルサにて

いつか 朽ちようとも
普遍は
変わらなく私のそばにあり
ただ 過ごすことのたいくつと 素敵は
時々 空虚をみる

トルコ ブルサにて

宇宙のかおり

宇宙の 香りが
微かに した

あの人の
足跡をたどって
ここまで きた

扉を開けた時の
苔むしたような

宇宙の 香りが
微かに した

風化

日没に
冬のおわりを 告げる 匂いが
目前をかすむ

ざわざわと くすぐったいような

包み込むあなたは
とても 柔らかく突き刺す春の日の 風だった

漁港にて

遠く遠くの
大きな大陸の端の
小さな漁港で

わたしは
船に揺られている

うみねこのなく声と
潮騒だけ

船を降りたら

きっとアイスクリームを食べよう
とびきり大きいのを
とびきり甘いのを
とびきり色鮮やかなのを

3つ食べよう

楽しくなるとそれでいいんだ

ときおり 意味を考える

それは
とてつもなく 無意味なこと

無題

ここで
待つしか すべがない

約束は 果たされないことを
私は 知っている

それでも
ここで
待つしか すべがない

心細くて 泣いてしまいたい

いつものように
ひとりだけど

映画のワンシーンみたい

じりじりと つま先が雨に濡れて
冷たくなっても

それでも
ここで
待つしか すべがない

いつものように
ひとりだけど

砂のひとつぶ

あっという間に
指先から
流れていった

わたしは
大地を踏みしめて
誰かの代弁者なのだと
思い込んでいる

あっという間に
指先を伝って
流れていった

ある場所

さかなが はねたときみたいに
何かが 奥ではじけた

左手に持った
コーラの空き缶が重い

私を ある場所へ
私の ある場所へ
生ぬるい風が
吹いている

このままでいいけど
このままではいられない
#詩 #詩を書く#詩作#ポエム

無題

こんなふうに笑ったことなんてなかった
って、あなたは

ありきたりな言葉で
私を まどわせる

遠すぎるあなたは
どんなにそばにいたところで
距離をはからずにいられない私を
さらってゆくことを
いつだってできるからと 
余裕ぶった笑みで
押し返す

さよならを 何度経験すれば 
あなたに 触れられるんだろう
#詩 #詩を書く#詩作#ポエム

沈む

日が長くなって
一日の終わりが 遠いとき

ざわざわする鼓動を
飲みこむでもなく 飲みこんで

臆することなく
意気込むことなく

この 蒼い時間を
過ごせるように
わたしは なりたい
#詩 #詩を書く#詩作#ポエム

青い匂い

苔むした 青い匂いが

近くで 談笑する
見知らぬ初老のあの人を
つかまえようとした

未来は
夢うつつで
柔らかいままだ
#詩 #詩作#詩を書く#ポエム