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過重労働対策における産業医との付き合い方その2

事例

人事部員の朝倉から依頼を受け、産業医の佐々木は長時間労働を行ったBさんと面談を行っていた.

佐々木「100時間以上も残業しているんですか・・・そうですか。それは大変ですね」

Bさん「そうなんです、最近は眠れていないし、もう限界です。産業医から残業制限をかけていただくことはできないでしょうか」

佐々木「(たしか、健康の問題が発生している場合には産業医は就業制限をかけれるんだったな)分かりました。私から企業側に言っておきますね」

《Bさんとの面談を終了する》

朝倉「面談お疲れ様でした。いつもありがとうございます。」

佐々木「そうですね、ナインエス株式会社さんは、本当に残業が多いですよね。」

朝倉「うちは小さい会社ですし、そんなに人を雇えませんからね」

佐々木「そうですよね。そんな簡単には人を増やすことはできませんよね。それはさておき、今日面談したBさんのことでお伝えしたいことがあります」

朝倉「どうされました?」

佐々木「実は、毎月のように100時間くらいの残業があるそうで、睡眠障害も出ているので残業制限が必要です」

朝倉「え!?残業制限?」

佐々木「そうです、健康障害が起きている以上は、残業させたら危ないですよ」

朝倉「残業制限と言われても・・・どう対応したらよいのでしょう!?」

佐々木「それは会社として考えていただかないと・・・」

事例の解説

過重労働面談の結果として、産業医が残業制限が必要と判断した、という状況です。残業制限が出された経験がない朝倉さんは、佐々木産業医の言葉に、びっくりしてしまいました。人事担当者は、過重労働のこのような産業医の意見に対して、どのように対応すればいいのでしょうか?

過重労働面談の産業医のトリセツ

このような事例に対しては、人事担当者の方々には次のような対応を行うことをお勧めいたします。

1 .産業医の意見を書類に残す
2. 次回の面談を設定する
3.状況を整理し、産業医と情報を共有する

これらを一つずつ、説明していきます。

1. 産業医の意見を書類に残す

産業医と「残業制限」について、具体的に一月当たり何時間までとするのかを話し合いましょう。残業制限としては、例えば以下のような考え方があります。健康状態の深刻さ次第で、残業時間の制限レベルは変わってきます。

残業制限の考え方

法令に準じる
法令では一月当たり100時間まで上限となっています。そのため、一月当たり100時間以上の残業は禁止するというものです。(当たり前と言えば当たり前なのですが)

36協定に準じる
企業で定めた36協定に残業の上限が設定されています。一般的には、特別条項の上限も設けられていると思いますので、それらの時間を用いて、例えば、一月当たり80時間まで、60時間まで、45時間までとして残業を制限するというものです。

夜間の残業を制限する
睡眠時間を確保するためには、夜間に及ぶ残業の制限が必要です。例えば、20時以降の残業、22時以降の残業を制限するというものです。

朝の残業を制限する
早出の残業時間によって体調を崩している場合には、朝の残業の制限が必要です。例えば、朝7時前以前、8時以前の残業を制限するというものです。
補足)早出による残業で体調を崩すケースは多くありませんが、上司や部署が早出をする慣習があったり、清掃の名目で早出が半分強制されているケースもあります。

残業を完全に制限=禁止する
体調が非常に悪い場合には、残業を完全に制限する必要があります。もしくは10時間まで、20時間まで、30時間までと細かく指定することもあります。

過重労働面談の書式

厚生労働省のホームページから以下の書式がダウンロード可能ですので、産業医の意見書はこちらを利用するとよいでしょう。

2. 次回の面談を設定する 

残業制限をかける場合は、必ず次回の面談日程を設定し、制限がかけっぱなしにならないことが大切です。1ヶ月毎なのか、2ヶ月毎にするのかを産業医と話し合います。また、次回の面談の際には、職場の上司も面談に同席することで、具体的に対策を話し合ったり、情報を効率的に共有することができます。

3. 状況を整理し、情報を共有する。

長時間労働によって就業制限が必要なった状況について整理が必要です。産業医は短い面談時間かつ、本人からの情報だけで判断をせざるをえないこともありますので、職場の上司にも確認をして、これまでの残業状況や、どのようなことで残業が増えてしまっているのか、今後の残業の見込み、職場での状況(勤怠やパフォーマンス、周囲への影響など)を確認することが大切です。これらの情報を産業医と共有すると、次回の面談のためにも役立ちます。

なお、過重労働面談で重要なことは、前回の記事でも説明したように、「過重労働面談はそれ単独では過重労働対策にはならない」ということです。過重労働が起きないような職場にしていくことが本質的な対策になりますので、ご留意ください。

前回の記事「過重労働対策における産業医との付き合い方」もご参照ください。

本事例のその後・・・

佐々木産業医「睡眠時間は少なくとも確保していただきたいので、まずは、ナインエス株式会社さんの36協定の特別条項に準じて、こちらの意見書でお願いいたします。

また別の記事で、この事例がその後どうなっていくのか説明していきたいと思いますので、ぜひご期待ください。


本記事担当:@fightingSANGYOI

記事は、産業医のトリセツプロジェクトのメンバーで作成・チェックし公開しております。メンバーは以下の通りです。
@hidenori_peaks, @fightingSANGYOI, @ta2norik, @mepdaw19, @tszk_283, @norimaru_n, @ohpforsme, @djbboytt, @NorimitsuNishi1
現役の人事担当者からもアドバイスをいただいております。

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