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麻しん、インフルエンザ、そしてコロナ(JES通信【vol.165】2023.6.13.ドクター米沢のミニコラムより)

●麻しん(はしか)について

1)麻しんの感染報道
 ニュースでお聞きになったかと思いますが、5月に関東圏内で麻しんの感染が相次いで確認されており、過去2回のワクチン接種歴がないか感染したことがない場合は予防接種を検討してほしいと厚生労働大臣が呼びかけました(資料1)。6月1日現在、全国で11例の報告があり、昨年の全報告6例をすでに上回っています。
 50代以上の方は子どもの頃にかなりの方がかかっていて、何だ、はしかか、くらいにしか思わないかもしれません。一方、若い方は幼児期に2回ワクチンを接種しているので、はしかと言われてもピンとこないでしょう。
 
2)麻しんは軽視できません
 しかし2019年には世界で20万人以上が麻しんで亡くなっており、第二次世界大戦前の日本では年間1万人の子どもが亡くなっていたそうです(資料2)。感染した子どもの3割に中耳炎、肺炎、脳炎などの合併症が起こり、さらに麻しんが治ったと思っても2~10年後に、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重い脳障害を起こす病気です(資料3)。発展途上国での麻しんの死亡率は3~6%で、大きな流行になると30%にまで急増する可能性もあるようです。
 
3)ワクチンがよく効きます
 麻しんには治療薬がないのですが、ワクチンが非常によく効きます。麻しんの免疫を持った人が人口の95%を超えていれば流行は起こらないとされ、日本は2015年に「麻しん排除国」と認定されました。しかし世界的にはまだ流行している地域があるので、海外との往来が増えるにつれ、麻しんが持ち込まれる可能性が高まります。今回もインドからの帰国者がきっかけでした。2021年度の国立感染症研究所の調査では、日本の抗体保有率は96.6%ですが(資料4)、コロナ禍で幼児の麻しんワクチン接種率が低下し、1歳時のワクチン接種率は93.5%と12年ぶりに95%を割っており、子どもへの流行が心配されます。また30代以上の大人が罹患しても重症化のリスクがあると言われており、厚生労働大臣が注意喚起した次第です。

●季節外れのインフルエンザ?

 インフルエンザの流行にも驚かれているのではないでしょうか。宮崎や大分の高校では500人規模のメガクラスターが発生しています。なぜこの時期に?という新聞の見出しがありますが、もともと子どものインフルエンザワクチン接種率は低く、さらにコロナ禍でまったく流行せずインフルエンザへの免疫が低下していた状況で感染対策を緩めたのですから、流行するのも不思議ではありません。さらに小児科外来ではRSウイルス、アデノウイルス、溶連菌、ノロウイルスなどの感染症が一気に流行っているという話も聞きます。これまでの徹底した感染対策が急激に緩和されたことで、コロナ以外の感染症のリスクも高まっています。お子さん含め、体調の変化には充分注意してください。

●コロナはどうなったか

1)すでに第9波?
 さてコロナです。先月のJES通信コラムで、5月中旬に次の感染のピークが来る可能性があるとお伝えしましたが(資料5)、実際には5月後半になっても推計値は増加傾向にあります(資料6)。みなさんは身近で感染の話、あるいは発熱、咽頭痛など体調不良の話を聞くことは増えましたでしょうか。それとも、もはや「コロナ」やそれに類似した症状が話題に上ること自体が減ってきているでしょうか。
 
2)発熱外来の様子が変わってきた
 現在、発熱外来受診者の半分以上がコロナのようです。感染の場は会食が多いとのこと。あとはライブやサッカーの応援でのクラスターの報告が出ていますね。学級閉鎖も増えました。こういった状況は今までの感染拡大期と同様なのですが、以前の診察風景と異なるのは、

・もう5類なんだからこんなに具合悪くなるはずがない
・コロナってもう終わったんですよね?
・コロナの人っているんですか?
・コロナと診断されると私が仕事に行けなくなる
・ちょっと疲れて熱が出ただけですよね?

などと患者さんがおっしゃるのだそうです。
 2023年2月のJES通信で「トラの名前をネコに変えてもトラはトラ」というコラムを書きました(資料7)。デルタ株に比べれば確かにコロナは弱毒化しました。しかし感染力は逆に強くなって、致死率と感染力のかけ算が反映される死者数は、わが国だけで昨年1年間で47,635人に上りました(資料8、10頁)。インフルエンザの死者数は例年約3,000人、関連死を含めても1万人くらいですから、まだまだコロナの方が重大な病気です。2011年の東日本大震災の死者・行方不明者が2万人弱であることを考えると、いまだ大きな災害の渦中にいると理解できるのではないでしょうか。

●無症状でも感染させるコロナの厄介さ

 感染対策上、コロナの厄介なことの一つは、発熱や咳などの症状が現れる前から感染力があることです。発症前、つまり感染の自覚がまったくない元気な状態でもウイルスを吐き出していて、他人にうつしてしまうのです。
もう一つ厄介なことは、重症から軽症・無症状まで、症状が幅広いことです。これだけ世界中で騒がれたわけですから、とても重い病気というイメージを持たれる方が多いと思いますが、症状の軽い人や何も症状が出ない人の方が圧倒的に多いのです。
 さらに無症状の人からも感染します。感染後もずっと無症状の人、つまり自分が感染したと気づかない人が2~5割いると言われています。何も症状がない人からも感染が広がる可能性があるわけです。
自分が感染していることに気づかない人が感染を広めるリスクを減らす最も効果的な方法が、三密(密閉、密集、密接)を避け、みんながマスクをつけることでした(ユニバーサルマスク)。感染対策が緩和された現在は、ウイルスを持った人が以前より出歩いていますので、ウイルスを吸い込む機会は増えていると認識した方がいいでしょう。

●ハイブリッド免疫を目指すことになりそうです

 麻しんワクチンなら2回接種すれば99%の確率で一生感染しないのですが、残念ながら新型コロナワクチンの感染予防効果は3ヶ月くらいなので、ワクチンを接種しても感染は起こります。ワクチンを接種した人が感染すると、ワクチン接種だけの人よりも強力な免疫「ハイブリッド免疫」を得られます(資料9)。現状では、「ワクチンを接種した上で軽くかかる」と最も強い免疫ができそうなのですが、医者の立場からはかかった方がよいとはとても言えないですし、意図して軽くかかるのも難しい。症状が軽くても後遺症が出る可能性があり心配です。できることと言えば、ウイルスを大量に吸い込む可能性が高い「三密」を避け、日常生活の中で無理のない感染対策を続けていると、いつかはかかるだろうが軽く済むかもしれない、ということになるでしょうか。何ともあやふやな話で申し訳ありません。
 おそらくこの1年で多くの方が感染します。大部分の方は軽症で済むと思いますが、持病や高齢の親との同居など、抱えるリスクに応じて行動を選択していただければ幸いです。 

資料

1)https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000299441.html
2)https://news.yahoo.co.jp/byline/horimukaikenta/20201115-00207915
3)https://news.yahoo.co.jp/byline/horimukaikenta/20200504-00176635
4)https://www.yomiuri.co.jp/national/20230530-OYT1T50141/
5)https://note.com/sangyo_dialogue/n/n8ebabe2456e3
6)https://moderna-epi-report.jp/
7)https://note.com/sangyo_dialogue/n/n55eddc612cd8?magazine_key=mc75a0c66547f
8)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/kekka.pdf
9)https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid02aMGsCcKYkuaBPkkj9qQ4Qcn3EbzEKvxGBAjNuYRYrvxJpxPpa1fS4MsKoJpw3MNgl&id=100003403973006

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