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5類移行を踏まえて(JES通信【vol.164】2023.5.10.ドクター米沢のミニコラムより)

●新型コロナは「5類感染症」に分類を変更

 4月27日、新型コロナウイルス感染症は5月8日から5類感染症に位置づけることが厚生労働大臣から正式に発表されました(資料1資料2)。これによると、国内ではオミクロン株の亜系統であるXBB系統が増えつつあるものの、重症度が上昇していることを示す知見は国内外で確認されていないこと、感染状況は足元で増加傾向となっているが、病床使用率や重症病床使用率は全国的に低い水準にあることから、感染症法の「5類感染症」に位置づけたとしています。これによって今後の対応は表1のようになります。

表1 5類移行後の対応について

(1)発生動向の把握
・患者の発生動向は定点医療機関による報告(筆者補足:週単位の集計)
・血清疫学調査(抗体保有率調査)、下水サーベイランス研究等は継続
 
(2)医療提供体制
・幅広い医療機関による自律的な対応に移行
・都道府県毎に移行計画を策定
 
(3)新型コロナウイルス感染症の患者等への対応
・入院措置・勧告、外出自粛要請といった私権制限がなくなる
・医療費の一部自己負担が生じる(筆者補足:負担率1~3割)
・外出を控えるかどうかは「発症後5日間」を参考に個人で判断
 
(4)基本的な感染対策
・マスクの着用をはじめとする基本的な感染対策は、個人や事業者の判断に
 委ねる
・そのための情報提供は引き続き行う
・感染対策は、感染対策上の必要性に加え、経済的・社会的合理性や、持続
 可能性の観点も考慮して検討すること
 
(5)新型コロナワクチン
・特例臨時接種として引き続き自己負担なく接種を実施

 5類への移行の方針が発表されたのは2023年1月20日で、2月のJES通信コラムでこの問題を取り上げましたが(資料3)、今回の正式決定を受け、改めて懸念点を取り上げます。

●流行予測

 今まで新規感染者数が毎日発表されていましたが、今後は季節性インフルエンザと同じく、定点医療機関(全国約5,000箇所)からの週1回の報告になります。しかし週1回の報告では流行の把握が遅れる可能性があるため、下水サーベイランスを取り入れるようです。これはすでに札幌市や仙台市など一部の自治体が行っているのですが(資料4)、下水に含まれる微量のウイルスRNAを検出し流行を察知するものです。グラフを見ていただけばわかるように、かなり正確に感染者数を反映していることがわかります。
 
 今後の感染者数の把握は自治体によって異なるようです。東京都は4月28日に最後のモニタリング会議を開きましたが、今後もモニタリング項目を限定して専門家による分析を続けるようです(資料5)。感染者が多い東京都の動向が把握できると、医療体制の準備や高齢者施設の対策、個人の行動の選択(感染者が増えたから人ごみは避けよう、など)の助けになります。抗体保有率調査が続けられるのも朗報です。感染しやすい人の割合を把握することで、感染対策を調整できるからです。

 今後の流行については名古屋工業大学の平田氏らが予測を出しています(資料6)。これによると第9波のピークが5月中旬、第10波のピークが8月下旬と考えられています。過去3年、ゴールデンウィーク明けに感染者数が増えることはわかっています。そのタイミングで感染者数の発表が週1回に変更されるので実態把握が遅れますが、政府の決定ですので仕方ありません。

●医療提供体制

 1月20日の5類移行の発表を聞いた時は、発熱外来は減るかもしれないと述べました(資料3)。政府の意向を受け、新たに発熱外来を始めると宣言している医療機関がある一方、赤字を出してまで続けられないと発熱外来を終了したりコロナ病棟を閉鎖する医療機関もあるようです。医療体制は自治体によってかなり差があります。感染対策の緩和で罹患者が増大することも予想されますので、あらかじめ受診できる医療機関を探しておくことをお勧めします。

●療養期間が7日から5日に短縮

 各社の衛生委員会でもっとも話題になるのが、療養・待機期間の短縮です(資料2資料7)。オミクロン以降、ワクチン接種済の方が感染した場合は、1日だけ微熱が出たとかだるかったというように軽症で済むことが圧倒的に増えています。それなのに7日間も休まなければいけないのか?という声はよく聞きました。こういった声や米国英国などが5日間を採用していること(資料7の5ページ)、そして国立感染症研究所の調査で感染性のウイルスが5日経過後は大きく減少する(資料7の4ページ右のグラフ)というのが根拠のようです。
 
 しかし私は同じ資料の左のグラフが気になります。5日を過ぎても、それなりのウイルス量を排出している方が少なからずいるからです。資料2にも書かれているように、ウイルスの排出期間は個人差があります。一律に6日目から出社し、しかもマスクをしなければ、職場で感染を広げるリスクが高まるわけです。療養期間とは自身の療養に加え、「他人にうつさない」ための待機期間でもあるのです。
 
 そこで、以前から繰り返し取り上げている抗原検査キットが活きてくるわけです(資料8資料9)。2日間連続で陰性が確認できれば療養を解除してもいいのではないでしょうか。極端な話ですが、微熱が出て検査したら陽性だったため自宅療養(0日目)。翌日は熱も下がり症状はなく検査したら陰性。さらに翌々日(感染後2日目)の検査も陰性であれば、その日からの出社もありという考え方もできます。この場合、念のため5日目まで検査を続ければ万全です。これも、「基本的な感染対策は個人の判断に委ねる」とされるあり方の一つです。自宅にキットをいくつか常備するなど、科学を上手に使い、「自分は他人にうつす可能性が低い」と自信をもって社会生活を回していただければと思います。 

●ワクチンについて

 5月8日以降、高齢者など重症化リスクの高い人は年2回(5月からと9月から)、それ以外の5歳以上の人は年1回(9月から)、自己負担なく接種することができます。
 
 3月末にロイターが配信した、「WHO、コロナワクチン接種勧告を改定/健康な子どもは必ずしも必要なし」(資料10)というニュースにビックリした方も少なくないのではないかと思います。結論から申し上げるとこのタイトルは不正確です。WHOの発表は資料11をご覧ください。WHOは、「感染やワクチンによって高いレベルでの免疫ができている地域」に対する勧告であると断っています(日本はまだ既感染者が4割、ワクチン3回接種者が7割なので「高いレベルでの免疫」には当てはまりません)。その上で、リスクが高い群、中等度の群、低い群に分け、高齢者や基礎疾患があるリスクの高い群には6ヶ月から12ヶ月後の追加接種を推奨し、中等度のリスクの群には3回接種までを推奨し、基礎疾患のない生後6ヶ月から17歳の低リスク群については、費用対効果などを踏まえ各国/地域で判断、という内容です。途上国の子どもにとってはコロナより「はしか」のワクチンの方が重要であったりするので、地域の事情を考慮せよということなのです。

●英国の動向から考える

 日本はこれからどのような方向に向かっていくのでしょうか。日本の既感染率は約4割ですが、これは英国の2022年2月の状況にあたる(つまり1年遅れで追いかけている)と忽那氏は述べています(資料12)。多くの人が感染した欧米では、もう正確な調査が行われなくなっているようなのですが、英国は精度の高いデータ収集を続けているので(資料13)、今後日本で何が起こる可能性があるのか参考になります。資料14の8ページのグラフを見ると、英国は2022年1月に死亡者数のピークを迎え、その後は徐々に下がっていることがわかります。これが日本の昨冬の第8波に当たるのか、これから来る第9波か第10波に当てはまるのかはわからないのですが、今年後半か来年以降には感染者数も死者数もかなり減少することが期待されます。

 しかし資料13によると英国の住民の約2%が常に感染している状態が続いており(エンデミックな状態)、日本も来年にはそういった定常状態に向かう可能性があります。最近の英国やカナダの報道では(資料15資料16)、long COVID(コロナ後遺症)によって労働者や経済活動に無視できない影響が出ていることが示されています。

●WH0が緊急事態の終了を宣言

 この原稿を執筆中の5月5日、WHOから重大な発表がありました(資料17)。2020年1月30日に発表した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を終了するとしたのです。死亡率が大きく低下したので、今後は各国が他の感染症とともに対処していく時期が来たということです。パンデミックからエンデミックに移行した、という宣言と捉えてもいいでしょう。

 しかし同時に、今でも3分に1人のペースで死者が出ており、何百万人もの人が後遺症の影響を受けているなど、このウイルスの脅威が終わったわけでないので、今回の知らせを理由に警戒を緩め、構築したシステムを解体したり、人々にコロナは心配ないというメッセージを送るのは最悪のことだとコメントしています。5類移行が今後の私たちの職業生活・社会生活にどのような影響を及ぼしていくのか、引き続き注視していかねばならないと考えています。

リンク

1)https://www.mhlw.go.jp/content/001091810.pdf
2)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
3)https://note.com/sangyo_dialogue/n/n55eddc612cd8?magazine_key=mc75a0c66547f
4)https://www.city.sapporo.jp/gesui/surveillance.html
5)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230428/amp/k10014052521000.html
6)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084526.pdf
7)https://corona.go.jp/news/pdf/medical_treatment_20230414.pdf
8)https://note.com/sangyo_dialogue/n/nbebf20635e84?magazine_key=mc75a0c66547f
9)https://note.com/sangyo_dialogue/n/n5372d24bcf05?magazine_key=mc75a0c66547f
10)https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-who-idJPKBN2VU1GQ
11)https://www.who.int/news/item/28-03-2023-sage-updates-covid-19-vaccination-guidance
12)https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20230319-00341710
13)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001088929.pdf
14)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001088930.pdf
15)https://www.reuters.com/world/uk/uk-sees-record-sickness-zero-productivity-growth-2022-2023-04-26/
16)https://www.insurancebusinessmag.com/ca/news/breaking-news/new-report-warns-long-covid-could-be-mass-disabling-event-439109.aspx
17)https://twitter.com/WHO/status/1654477139620638722?s=20

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