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コロナ後遺症は無視できない問題です(JES通信【vol.166】2023.7.10.ドクター米沢のミニコラムより)


●コロナは第9波へ

 6月26日、新型コロナ対策にあたる政府分科会の尾身茂会長は、岸田総理大臣と面会したあと、「第9波が始まっている可能性がある」と述べました(資料1)。沖縄では6月半ばには医療逼迫が起こり始め、29日の琉球新報は、「沖縄県のコロナ患者数、1週間に9000人超が感染か 昨年以上の流行規模 医療体制の維持が危機的状況に」と報じています(資料2)。都道府県ごとの定点把握データを見ると(資料3)、5類に移行した5月中旬以降、各地で感染者は増え続けており、沖縄の状況が全国に波及していくのか、注視する必要があると思います。

●後遺症による経済的損失が徐々に明らかに

 コロナの5類移行にはさまざまな理由がありますが、最も大きなものは、さまざまな感染対策によって低迷した経済の立て直しでしょう。第一生命経済研究所はコロナ5類移行による経済浮揚効果は4.2兆円と予測していますし(資料4)、5類移行から1ヶ月が経った6月8日の日経新聞には、「コロナ5類後1カ月、消費回復一段と」といった見出しの記事が出ています(資料5)。
 
 しかし、一足早く感染対策の緩和に舵を切った海外では、必ずしも思惑通りには進んでいないようです。たとえば2023年5月のThe Conversationという専門誌は、2023年末までに米国が被るパンデミックの経済被害は1,900兆円であり、911テロの経済被害の20倍に達すると推定しています。これまでの推計では早期の死亡や後遺症による仕事の喪失などコロナ関連の膨大な経済的コストを見積もっていなかったというのです(資料6)。米国CDCは、後遺症に罹患している人の18%が1年以上職場に戻ることができず、米国経済に悪影響を及ぼすというNYSIF(ニューヨーク州保険基金)の報告を引用し懸念を示しています(資料7のスライド12)。
 
 英国では健康上の理由で仕事ができない人が過去最多の250万人に達しているそうです(日本なら500万人に相当)。また現在働いている人の13人に1人が長期間の病気に患っていて、労働者のスキルが失われ長期的な成長に影響を及ぼす可能性があるとしています(資料8)。
スペインでも200万人がコロナ後遺症に苦しんでおり、そのうち60万人は3年以上苦しんでいます。職場におけるこの病気の影響は深刻で、27%が病気休暇をとり、19%が多くの制限を抱えて働いており、10%が職を失ったとのことです(資料9)。

●後遺症の具体例

 WHOは後遺症を「post COVID-19 condition」と呼び、「SARSCoV-2に罹患した人に見られ、少なくとも2カ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの」としています。症状としては、倦怠感、息切れ、頭痛、脱毛、筋力低下、ブレインフォグ、記憶力低下、睡眠障害など様々な症状が出現し、仕事や日常生活に支障が生まれることがあります。我が国では「罹患後症状」と呼ばれています。後遺症については1年前の本コラム(資料10)で詳しく取り上げました。
 
 1年前はまだ一部の人の話だったかもしれませんが、第7波、第8波で多数の感染者が出て、徐々に後遺症が注目されるようになりました。2023年6月の東京新聞では後遺症の連載が組まれています(資料11)。後遺症の当事者でもある神谷記者は、10日間の療養を経て職場復帰後、強い疲労感・倦怠感、めまい、手足のしびれなどに襲われ、重たい血液が体中を流れるような感じがしたそうです。リハビリのためのウォーキングから帰ると玄関で座り込み、そのまま朝まで寝てしまったこともあるそうで、感染から2年たっても嗅覚・味覚障害が完治していないそうです(資料12)。
 やはり後遺症の当事者である出田記者の場合は、職場復帰半月後、寝不足でもないのに高速道路を運転中にまぶたが落ちてきて、「これはおかしい!」と気づいたとのこと。「一気におばあさんになったようだ」と思ったそうです。朝の出勤時からとにかくしんどく、駅の階段を一気に上がれない。夕方から夜は吐き気が込み上げ異様にだるい。目を開けているのも、言葉を発するのもおっくうになるそうで、コロナ感染から1年経った今も徹夜明けのような疲労感、倦怠感に悩まされています(資料13)。
 
 東京新聞に掲載された方々は、感染時の症状が入院するほど重かったわけではありません。それでもこのように後遺症が続く場合があるのです。人によっては後遺症と気づかず、原因不明の体調不良に悩み続ける方もあるでしょう。すでに述べたように、感染から1年経っても1割以上が後遺症を抱える可能性があります。現在、感染対策が緩和し感染者が増え続けていることを考えると、今後みなさんの大切な同僚が後遺症のために長期に職場を離脱することになるかもしれないのです。

●感染回復後3ヶ月は無理をしない

 後遺症の発生メカニズムはまだまだ研究途上です。ウイルスに感染した組織(特に肺)への直接的な障害、微量なウイルスによる持続感染、ウイルス感染後の免疫調節不全による炎症の進行,ウイルス感染による血液凝固能亢進と血栓症による血管損傷・虚血などがあげられていますし(資料14の10頁)、最近では感染が細胞老化を引き起こし、慢性の炎症が持続することで後遺症を起こすのではないかという説も出てきました(資料15)。高齢者がコロナに感染し回復しても、急速に老衰が進んだように亡くなるという話をいくつも聞いており、この現象が関係しているのかもしれません。
 
 感染前のワクチン接種は後遺症発生を30%減らすことができるというのが世界のコンセンサスになってきているのですが(資料16)、その他に我々にできることとして大事ではないかと思っているのが、感染から回復しても3ヶ月くらいは無理をしないということです。
 これは英国の報告ですが、コロナ感染の1、2週間の間に血管が詰まる病気の頻度が著しく増え、心筋梗塞が約15倍、虚血性脳卒中が約20倍、肺塞栓が約30倍、深部静脈血栓症が約15倍、発症しやすくなるのです(資料17)。この心臓・脳血管疾患と先ほどの急速な老衰が、資料6で言及された「早期の死亡」の実態ではないかと考えています。
 コロナが軽症で済んでも、夜遅くまで残業するとか、なまった体を鍛えようとジムでハードな筋トレをするようなことは控えましょう。資料17のグラフを見ていただければわかるように、3ヶ月くらいは無理のない生活を送ることをお勧めします。

●東京都の後遺症リーフレット

 後遺症について、東京都からわかりやすい資料が出ています(資料18)。感染から時間が経ってから症状が出た場合、その症状が後遺症によるものだと気づかない人もいるかもしれません。こういった資料を社内に周知していただき、後遺症の被害を受けている方が適切な医療につながるように願っております。

資料のリンク
1) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230626/k10014109381000.html
2) https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1737473.html
3) https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/
4) https://www.sankei.com/article/20230503-467QOE5XAFI6RIF67LVEHT7YAI/
5) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC02C1Z0S3A600C2000000/
6) https://theconversation.com/covid-19s-total-cost-to-the-economy-in-us-will-reach-14-trillion-by-end-of-2023-new-research-205379
7) https://emergency.cdc.gov/coca/calls/2023/callinfo_061523.asp
8) https://www.bbc.com/news/business-65625529
9) https://www.infobae.com/espana/2023/06/16/impacto-brutal-de-la-covid-persistente-el-10-de-afectados-ha-perdido-el-empleo/
10) https://note.com/sangyo_dialogue/n/n7967e027f248?magazine_key=mc75a0c66547f
11) https://www.tokyo-np.co.jp/article/255285
12) https://www.tokyo-np.co.jp/article/255284
13) https://www.tokyo-np.co.jp/article/255925
14) https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf
15) https://biken.yawaraka-science.com/clum/detail/13
16) https://www.yalemedicine.org/news/long-covid-symptoms
17) https://m.facebook.com/photo.php?fbid=5329927023797377&id=100003403973006&set=a.294405390682924&eav=AfaBKLbPzm0AetwWT4ITnV4_vZJANywLwpktjjhZEBdSwuZJY3o57QwRdyWOQ_O8aYc&paipv=0&source=57
18)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/corona_portal/link/kouisyou.html

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