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『悪人』 / 吉田修一 | 九州舞台のあるある小説

吉田修一の小説は『パークライフ』が1番好きだけど、『横道世之介』でなんとなく漫画的、読みやすい小説だな〜という印象の作家になった。よく映画化する作家というか…『横道世之介』の映画がすごくよかったのを覚えてる。

『悪人』も映画の前によんでおこう、九州が舞台ならより楽しめそうだし、みたいな気持ちで読み始める。
福岡人である自分には、いきなり久留米、福岡間の西鉄電車料金とJR九州の電車料金の差みたいなローカルネタに驚かされた。作者はたしか長崎の人のはず。わかってらっしゃる感がいきなりあって、書き手として信頼できると感じた。

ストーリーは三瀬峠に女性の死体があり、犯人は誰?という一見ミステリーっぽい作りだけど、どちらかといえば犯人、被害者、その家族友人なんかの悪気のない悪意がやたらと描写されるんで、誰が本当に悪人なのか、と思わされる作り。まさにタイトル通りな話だと思う。
多少ミスリードはあれど、すぐ犯人はわかるし、ミステリーに重きは置いてない。

この作品の魅力の一つは陰湿さだと感じた。九州の田舎の高齢者が、悪意なく若者に寄りかかる描写や、若者の関係もマウントの取り合いのようだし…SNSがまだ全然な時代だから、その若者のマウントも、昔ながらの陰湿さで、いや〜な気分にさせてくれる。そんな陰湿さが積もり積もって、被害者は被害者になって、加害者は加害者になったことがわかる構造は面白い。

あとは福岡人としては方言が強すぎると感じた。もちろんこれくらいの感じの方言で話す人はいるけど、天神とかで遊ぶ人でこの感じは、いくら田舎から来てもないんじゃないかな、と違和感を覚えた。
時代もあるかもな、当時は有り得たかもだけど、今読むと古さを感じる。とはいえその古さが陰湿さを加速させてる側面もあるか…
陰湿とばかり言ってるけど、映画版のキャストはやたら豪華でびっくりした。

相当地味めなビジュアルで考えてたから、どれだけこのいや〜な感じを再現できてるかけっこう興味がある…

あともう一つの魅力は、単純に知ってる場所がたくさん出てくること・・・これは九州人、福岡人オンリーな話だとは思うけど。福岡人的には知ってる場所に死体があり、様々な事件が起こる。あんまり九州が舞台の小説って読んでないから、知っている場所が出てくる小説って、ある意味映画よりリアルに映像が浮かぶことがわかって不思議な体験だった。小説はなかなかボリュームがあるんで、没入感もあるし。

ということで、九州の小ネタを挟みつつ、陰湿な人間模様が繰り広げられるので、陰湿な話が読みたい福岡人に特におすすめです!



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