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霊感のある友達の隣で寝たら、

私には本当に霊感がない。
しかし幽霊の存在はめちゃくちゃ信じている。なぜかと言われれば説明はできないんだけど。ついでに宇宙人の存在も信じている。だって宇宙はあんなに広いのだ。どれくらい広いか知らないけど。とにかく、計り知れないほど大きな空間に地球上の生物しかいないなんてありえないと思う。

話が逸れてしまった。とにかく、幽霊の存在は信じてるくせに1ミリも霊感がないので、私にとって幽霊は、なんというか別世界の存在なのだ。いや、別世界には違いないんだけど、交わることのない存在というか。見ることも感じることもないんだろうなあ、という思いがある。

しかし友達に1人、本当に霊感のある人がいる。仮にレイちゃんとしよう。私は今まで霊感のある人に出会ったことがなかった。思い返してみれば、小さい頃白い服を着た女の人を見たことがあるとか、金縛りにあって人の顔が浮かんでたことがあるとか、そういう心霊現象に遭遇した話は聞いたことがあるんだけど、幽霊よく見ます!色々感じます!みたいな人には会ったことがなかった。

しかしレイちゃんはレベルが違う。彼女曰く、幽霊、というよりこの世のものではない存在の気配を感じることを、ある程度大きくなるまで普通のことだと思っていたらしい。幽霊を見るのが日常茶飯事だという。だからレイちゃんとしては自分に霊感があることより、周りの人に霊感がないことの方が驚きだったらしい。

さっきも書いた通り、私は幽霊には縁のない人間なので、怪談を聞いてもイマイチ怖いとは思わないタイプだった。話としては怖いんだけど、「もしかしたら自分の近くにもいるかも」とゾッとするような感覚がまるでないのだ。なので心霊現象の体験談とかも他人事に思えてしまって、心の底から怖いと思ったことがあまりなかった。

そんな私だが、サークルの合宿でレイちゃんの話を聞いた時にはかなり恐怖を感じた。内容は今まで聞いてきたものと大差なかった。人が立てるはずのない高さの窓に顔が映っていたとか、話をしていたはずなのに振り返ったら誰もいなかったとか、金縛りにあって隣に女の人がいたとか。じゃあ何が怖いかって、確実に“それ”がいたと分かることだ。

誰かの心霊現象の体験談を聞いてる時って、もちろん怖いなあと思うこともあるんだけど、それと同時に「それって気のせいじゃない?」と思ってしまう部分もある。自分に霊感がないからかもしれないけど、本当にそんなことがあるのか疑ってしまう気持ちがどうしても残ってしまうのだ。だからイマイチ怖さも感じなかった。

しかしレイちゃんの話は違う。彼女は私たちを怖がらせたいからといって話を大袈裟にしたり、嘘をついたりするタイプではない。それどころか日常の話をするのと同じトーンで心霊現象の話を繰り広げてくる。「ベランダにカラスが止まっててさあ」みたいなテンションで「窓の外見たら人の顔があってさあ」とか言う。しかもエピソードの量が半端ない。だからなのか、レイちゃんの話はどうも「気のせいじゃない?」とは思えなかった。これは本当にあったことなんだろうな、と納得してしまうのだ。

レイちゃんの話を聞いていると、いくら霊感がなさすぎる私でも、なんだか幽霊の存在を身近に感じてしまうわけだ。友達の友達にはなんとなく親近感を感じるのと同じ原理なのかもしれない。だからこそレイちゃんの話は今までにないほど怖かった。

しかもレイちゃんの中には「取り憑く」という概念があるらしい。肩に乗ってるのが見えるだとかそういうことはないんだけど、「この人の近くにいるの、なんか嫌だな」という感覚を抱くことがたまにあるらしい。そういう人の近くではうまく眠れないという。よりにもよって合宿中にその話をしてきたのだ。

しかし、その後ゲームやら何やらで楽しんで、いざ眠ろうという雰囲気になって、みんなそんなことはすっかり忘れてしまっていた。いや、覚えている人もいたのかもしれない。そういう人はちゃっかりレイちゃんから離れた場所を確保していたのかも。とにかくレイちゃんが端に寝て、私がその隣に眠る、という体制が自然とできあがっていた。私は何も考えず眠りについた。

もちろんその夜はぐっすり眠ることができた。朝、誰かのアラームが鳴ってなんとなく目が覚めて、のろのろ起き上がったりしていると、隣のレイちゃんと目が合った。「おはよー」と2人とも寝ぼけたまま挨拶をした。

それからみんなの支度が終わって、「昨日何時に寝た?」みたいな会話が始まった。誰かがレイちゃんに「大丈夫?ちゃんと寝れた?」と聞いた。そこで私も昨日のことを思い出した。そういえば隣で寝たんだった。私も「どうだった?」と聞いた。

この時はさすがに緊張した。もしレイちゃんがうまく眠れていなかったら自分に霊が憑いている可能性があるということになる。そうなればこれから「霊が憑いているかもしれない」と思いながら過ごさなければいけないのだ。それは同じ部屋に寝ていた全員に当てはまる。みんなが真剣な表情でレイちゃんを見ていた。

しかし、レイちゃんはとてもスッキリとした顔で「さんばんの隣、超寝やすかった!」と言ってきた。うまく眠れないどころかとんでもなく快眠だったらしい。「寝れた、じゃなくて寝やすかった」という。それはそれで何かありそうでちょっと怖いけど、「全然寝れなかった」とか言われるよりはマシだと思った。ひとまず、私たちが寝ていた部屋に霊がいなかったことが分かったのだ。多分みんなホッとしていた。

こうして、やはり私は幽霊とは縁のない人間だということがレイちゃんによって証明されたのだった。記事的にも、話のネタ的にも、これで私に霊が憑いていた方が面白かったかもしれないがそうはいかなかった。調子に乗ってレイちゃんに「今度みんなで心霊スポット行こう」と提案したら、結構本気で怒られた。

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