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「下午のまち銭湯」第十一湯~北千住【金の湯】

銭湯は昼下がりに行くに限る

北千住の銭湯事情

今年6月、東京銭湯ファンを激震が襲った。北千住「大黒湯」廃業。コレはちょっとした事件である。

大黒湯のような伝統的な銭湯は年々廃業の道に突き進んでいるのは事実だ。しかしあの大黒湯だ。人呼んで「KING  OF  SENTO」。東京銭湯の王が陥落。時代の波は最も簡単に東京銭湯の顔を飲み込み流して行ってしまった。これが銭湯の宿命なのか。

他の銭湯のようにリノベーションデザイナーズ銭湯として生き残る道もあったように思える。これだけ名のある銭湯だ。募れば有志の支援ももらえたろう。しかしそうはしなかったところに大黒湯なりの意地みたいのをぼくは感じもした。大黒湯はあのままの状態で終わりを迎えたんだ。銭湯は銭湯のままに

一つの大きな柱をなくした北千住の銭湯。そこはかつて東京銭湯のメッカと呼ばれた場所。割と動じない。もう一つの横綱「キングオブ縁側」ことタカラ湯は健在だ。このタカラ湯が大黒湯がいなくなった「キングオブ銭湯」に座るという形でこれからはいくのかなと勝手にぼくは思ったりするのだ。メディアの露出も近年はこちらの方が多かったような気もするし。

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他の銭湯はどうだろう?大黒湯とタカラ湯は比較的に近い場所にあったのだけれどもその同じエリアにまだ銭湯がある。金の湯。今回はこの銭湯に訪問してみる。

場所は本当にタカラ湯の目と鼻の先。この銭湯は位置的に北千住二大銭湯と客の奪い合いをしなくてはならない過酷な状況下にあったわけだ。これは期待せずにはいられない。

昼の北千住

この街は誘惑が多い。

駅を出て駅前通りをずいッと進む。アーケド街の一角に「いせや」という和菓子屋が目に入る。そこで塩大福を買ってそのまま脇の商店街を歩いてゆくしばらく行くと「たからや」という和菓子屋があってここでどら焼きを買う。も少し進む先の角を曲がるのだけどここに「かどや」という団子やがあってここでみたらし団子を買う。

気づくと両手いっぱいに和スイーツがたんまり。銭湯訪問に来たのに和菓子屋巡りになってしまった。

「かどや」の角を文字通り曲がるとそのまままっすぐ行くと通り沿いにその銭湯がある。ちなみにタカラ湯もほぼ同じ場所にある。そのままタカラ湯に行っちゃってもいい。

金の湯に着いた。

金の湯

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大黒湯やタカラ湯は威風堂々としたいかにもな銭湯なので存在感が半端ない。しかしこの銭湯はその二つに比べるとだいぶ地味。ともすれば周りの住宅に紛れて気付けないほど。

入口横には選挙ポスターがところ狭しと貼ってある。街銭湯でよく見る光景。

暖簾をくぐり中に入る。

中に入ると外の殺風景な感じとは打って変わって、魅惑の銭湯空間が広がっていた。まずは松竹錠の下駄箱がお出迎え。斜めに差し込むタイプ。靴を入れると左側にカウンター風のフロント番台がある。その奥にはゆったりくつろげるロビーがある。白壁がとてもきれい。

480円を払い脱衣場へ向かう。中に入ると高い天井の下に不思議な形の吊り照明があった。どことなく洋風で銭湯には合わない感じ。中壁に洗面台がありその上の部分は瓦造りの細工がしてあって良い雰囲気を演出している。

脱衣してタオル片手に浴場へ。

かららら~

引き戸を開けて入場。

おお。良い

外観は二大銭湯ほどではないけれど中に入ってしまえば同じ。北千住の銭湯らしい、王道の作り

正面にで~んと富士のペンキ絵。下にはナカジマサイン。絵の下に浴槽が二つ並列している。入り口横にサウナ室があってその向こうに水風呂がある。天井は青ペンキのドーム。天窓から十分に光が差し込み白いタイルの浴場をまぶしく照らしている。

からんは縦にずらっと26個ケロリン桶を持って壁柄のカランにGO。

開店直後の速い時間だけどかなりの人がいる。すぐ近くにタカラ湯があるのに凄いなと思っていたら、となりのおじさんたちが「今日はなんでこんな時間ににひとがいっぱいいるんだ?」「夜雨予報だからじゃないか?」と会話していたので普段はもう少し空いているんだと思う。

因みにこの夜雨が降りそうな昼下がりというのはどこの銭湯でも混む傾向にある。みんな考えることは一緒で傘を差しながら銭湯に来たくない。

浴槽に向かう。右側の浴槽が主浴槽の白湯ゾーン。中央で二つに分かれていて右側が深風呂使用になっている。まずは向かって左側部に入る。

しゃぽん・・・

足を入れる。なかなかの温度だ。北千住の銭湯はどこも熱めバイブラ仕様になっている。熱めのお湯でゴボゴボやられると一気に体温が上昇してくる。あぁ~と思わず喉が鳴る。後ろのタイルに目をやるとポップなイラストが描かれている。上のペンキ絵とのアンバランスさがいい味を出している。

いったん湯船から上がり、左側の浴槽へ。こっちは薬湯。これが寝湯仕様になっていてだら~ッと横になりながら入れる。こっちも温度高目でバイブラ仕様。こりゃ~いいわ~。

全身がいい感じにあったまってきたのでそのまま水風呂へ。水温計は19℃だけど、熱めのお湯からなのでもっと冷たく感じる。クっ~・・・しみる。

身体が一気に冷えたのですかさずまた主浴槽へ。今度は右半分部の深風呂へ。こっちは座湯のジェットバス。冷たいとこから一気に温湯になったことで皮膚の表面をしびれが覆う。そこに攻撃的なジェットが腰を強烈に刺激してくる。

ふと気になっていたことがある。入口の横。サウナ室と反対の側に扉がある。そこに露天風呂と書かれている。浴場に入ってかれこれ20分は立ったがその間誰一人としてその扉を開けていない。

こんなに人がいるのに。どうすべきか・・・誰一人入らないということがあり得るんだろうか?閉鎖中なんだろうか?でも注意書きのようなものは書いていない。常連はみんな知っているのであえて書いていないのだろうか。

扉の前まで来た。向こう側は見えない。ドアノブがついている。ここを掴んで回すべきか・・・もし鍵がかかっていたら・・・ちょっと恥ずかしい。

ええい!思い切って開けてみる。

ガチャ・・・

普通にあいた。たまたま誰も入らなかっただけ。

露天風呂は小ぶりで定員は三人も入ったらキツキツといった具合。しっかりとした岩風呂使用で周りの装飾も岩と竹で雰囲気を出している。完全露天ではなくアクリル製の屋根がついているがクリアなものなので青空をしっかりみることができる。

中に浸かってみるとしっかりとした熱いお湯で安心だ。誰もいないので貸切のような感じで浸かっていると後から2人ほど露天に入りにきて一気に満員になった。さらにその後もう1人入ってきたが満員なのでそのまま出て行ってしまった。不思議なものだ。20分誰も入らなかったのに僕が意を決して入ると続けざまに満員になる。こんなもんなんだなぁ。 

じっくり露天に浸った後はもう一度水風呂に入って最後はジェットバスで締め。脱衣場に戻り服を着て外に出る。そのまま駅まで行こうかと思ったけど…そうだ…

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大黒湯に行ってみる。まだ取り壊されずそのまま。暖簾はかかっていないけど今でも営業していそうな雰囲気。不思議だ。あれだけ堂々としていた…ともすれば感動的ですらあった「王」の雰囲気が今はない。どこにでもあるふつうの銭湯。

夕暮れ時、近所の人が桶を片手に集う所…かつての大黒湯で日常的に見られたであろう風景。ああ、これが本当の大黒湯なのかもしれないな…王などと呼ばれることなく近所の社交場として人々の生活の一部だった銭湯。

北千住。かつて東京銭湯のメッカと呼ばれた場所。かつて王と呼ばれる風呂があった・・・ここは銭湯の街。

銭湯の詳細


『金の湯』[所在地]東京都 足立区 千住柳町[最寄り駅] 北千住駅から徒歩15分

[営業時間] 15:00~24:00[定休日]火曜[入浴料]480円[ サウナ]880円(入浴料金480円+サウナ400円)

[ドライヤー]20円

※備え付けシャンプー、ボディソープあります









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