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今まさに自殺しようとしている人に出会ったら

デブで陰気な思春期を送った僕は、いわゆる「大学デビュー」というヤツで、色恋沙汰に関わるのが少々遅かった。といっても性に興味がなかった訳ではない。
たとえば、真面目そーな、文学の世界では、恋愛にまったく触れない作品を探すのが難しいくらいだ。
ネクラな文学少年でも、そんなもんに触れれば、関心を持たないというのは「ないなぁ」
ただ恥ずかしくてない振りしてるだけ。

さて、僕は妄想を膨らませ、やや頭でっかちな状態で、遅れてきた思春期に突入する。
妄想するのは自由だけど、恋愛には相手というものがあって、僕もそこらへんの現実感覚は失ってはいなかったので、基本「イケそうなところからイク」というオーソドックスなやり方でデビューした。

そのうち自信をつけて「イキたいところにイク」というスタイルに変化していくのだが、その境界期に想定問答集の樹形図作りに凝った。
デートで、自分がこう話したらこう返すであろうという、相手の反応の選択肢を想定、選択肢ごとに自分はどう対応するか。それを延々と書いて行くのである。A4ノートにギッシリ書いてデートに持参したこともあった。
なんだか会話や対応に詰まったら、トイレに行ってノートを読み返す。
「自分の自分による自分のためのデートマニュアル」
みたいなもんだ。ちょっと特殊なのは、女の子の人間性によってマニュアルが根本的に違ってくるので、一冊のノートは、ある特定の女性に対して書かれたもので、普遍的なマニュアルではなく、女性毎に一冊のノートになっていた。
ストーカー云々の当世では、かなりヤバメの内容だといえる。

もちろん人生には想定外の出来事もあるから、マニュアルが全てではない。
結局、僕のデートマニュアルが一番役にたったのは、そのノートをデート中にポロっと落として、意中の女性にそれを読まれ、
「そんなにわたしのこと好きなの?」
というところから恋愛が成就した事なのだ。

それでも、色んな状態下で「自分がこうするべき」という指針があれば「備えあれば憂いなし」というものだ。

それでタイトルにあるように「もし今にも自殺しそうな人に出会ったらどうするか」という事柄において、何と声をかけるか、僕は指針を決めている。

「死ぬ前に何が食べたい?買ってくるけど」

これである。買ってくる間に死なれてもバツが悪いので、もちろん出前だ。まあ富士の樹海なんかではUberEATSも来てくれないだろうし、そもそも電波が繋がらないだろうから、そんな事も考えて、山に行く時は必要以上の食料を持って行くようにしている。

「残念。それはないけど、カップ麺あるから、死ぬ前に食べない?」

これが、予備的な台詞だ。

食事をしながら死ぬ事を考えるのは、なかなか難しいので、なんか食べてもらいながら話しを聞いて、それでも自殺したいなら止めない。それが自分の限界だと思う。

「宝くじ当たったらどうしよう」的な、幸せな妄想も良かろうが、時には困った事態を想定して、妄想を膨らませるのも、大人の作法というものだ。

あっ!

「腹減ってないんだけど」

と、言われたらどうしよう。まだまだ妄想が足りんね。

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