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サムちゃんのショートショート17【人類の祖】

 その日、僕はスクールから自宅へ向かっている最中だった。道の脇から、そいつは突然飛び出してきたのだ。
『☆※○△●◇~~~!!』
 僕は仰天した。飛び出してきたのはそれまで見たことがないような奇怪な生き物だった。
 そいつは手足が2本ずつあって、両手をユサユサと振りながら二足歩行で動き回っている。顔には目が2つ。鼻が1つ。口が1つ。へその穴に肛門と性器が1つずつ。
 あっ、そうだ!思い出した、この特徴。確かスクールのライブラリで見たことがある。旧時代に栄えたと言われている新人類の元になった生き物。こいつは、こいつは・・・!
「人類の、祖だ!」
 そうだ、人類の祖。野生の個体はほぼ絶滅して今は自然区で数個体を保護しているって聞いたけど、まさか野生化してるのがいるなんて。
 どうする?どうする?確か人類の祖はとてもずるくて、抜け目がなくて、意地汚い生き物だって書いてあった。こんなのと関わりになるのはごめんだ。なにをされるか堪ったもんじゃない。
 しかし、そんなことを考えている最中も、人類の祖は謎の奇声を発しながら僕の周りをグルグルと回り続けている。
 何が苦手なんだっけ。確か、100度以上の高温やマイナス30度以下の低温には耐性はなかったと思うけど。あー、こんな日に限ってヒートブレイザーや絶対零度放射器を持っていないなんて。どうすれば、どうすれば・・・

 そんな時。28時ちょうどに行われる、気温調整用ソーラーフレアの照射時間になった。灼熱の光が街を通過していく。光熱を浴びた人類の祖は、
「✕✕✕✕☆●☆♫✕✕~~!!!」
と雄叫びを上げると苦しみ悶え、この場から走り去っていった。
 まったく、とんだ災難だったと、僕は胸をなでおろした。

 クタクタになりながら帰宅をすると、愛犬のチャッピーが僕の元に飛び込んできた。
 84本ある舌で僕の乗っている浮遊カプセルをペロペロと舐め回し、24本ある尻尾をぶんぶんと嬉しそうに振り回した。
「よしよし、チャッピー。今日はひどい目にあったよ。あいつ、2足歩行で動きながら手をブラブラさせるんだよ。怖いったらありゃしないよ」
 カプセルに接続されているロボットアームで愛犬の、粘液でベチョベチョの額を撫でてやる。
「銀河暦も今年で5149年になるのに、まさかあんな旧時代の野生個体がいるなんてねぇ。あした、先生に報告しないとね」
 チャッピーは僕の4つの眼を見つめながら8つある発音器官で「ニャーゴ!」と返事をした。

この投げ銭で家を買う予定です。 よろしくお願いします。