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ロシアのクルマ産業3/6

代表的な自動車メーカーГАЗ(GAZ/ガズ)について。
 
正式名称は「Горьковский Автозавод(=ゴーリキー自動車工場)」。現存するロシアの自動車会社で最も古い。1932年、ニジニ・ノヴゴロドにて創業。1932~1990年まで、ニジニ・ノヴゴロド市はゴーリキー(※1)と呼ばれていた。社名はこの街の呼び名に由来する。
 
米国の自動車会社Ford(フォード)との提携で自動車の大量生産を行った。最初の自動車モデルは、Ford(フォード)車の図面を基に若干の変更を行った。ГАЗ(GAZ/ガズ)は小型車やトラック、小型バスの製造の他、緊急車両および軍事用車両の改造も行った。
 
大祖国戦争(※2)が始まる前(1941年まで)、ГАЗ(GAZ/ガズ)の小型車はソ連時代最も普及した車両だった。大祖国戦争中(1941~1945年)、工場では軍事関連のみを扱った。戦後、小型車とトラックの生産を開始し、同時に他国向けに自社製車両を輸出し始めた。市民向け交通車両の他に、四輪駆動車や軍用車両も生産した。
 
※1:この地で生まれた文学者マクシム・ゴーリキーにちなみ、ソ連時代はこう呼ばれた。
※2:ロシアをはじめ、いくつかの旧ソビエト連邦諸国で使われる用語。日本では、第二次世界大戦のこと。
 
ソ連時代最も普及していたトラックモデル一覧
ГАЗ-51
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:GAZ-51_Żółkiew_2008_(cropped).jpg
ГАЗ-52
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Vychegodsky_(05).JPG
ГАЗ-53
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:GAZ-53_Dushanbe.jpg
 
小型車は、政府機関、警察、医療関係やタクシーなどで広く使われた。
 
最も有名なモデル一覧
ГАЗ-13「Чайка/Chaika(=カモメ)」→政府官僚/高官用車両
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:GAZ-13_Chaika_at_the_Oldtimer_Expo_2007.jpg
ГАЗ-14「Чайка/Chaika(=カモメ)」→政府官僚/高官用車両
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Чайка_Humo_Arena.jpg
 
ГАЗ-М-20「Победа/ Pobeda(=勝利)」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:GAZ-M-20_%22Pobeda%22_on_CMSh_in_Lahti,_Finland.jpg
 
ГАЗ-21「Волга/ Volga(=ヴォルガ(※3))」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:GAZ-21_(1st_generation)_%22Volga%22_in_Moscow_(left_front_view).jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:ГАИ_ГАЗ-21_г_Бикин_Хабаровский_край.JPG
ГАЗ-24「Волга/ Volga(=ヴォルガ(※3))」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Scaldia_Wolga_1977.JPG
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Wolga_GAZ_24-10_1.jpg
 
※3:ロシア西部を流れる、ヨーロッパ最大の川の名。
 
ソ連崩壊後、90年代の危機を背景に、ГАЗ(GAZ/ガズ)社は小型車の近代化で遅れを取った。また、大型トラックの需要も減少した。しかし、小規模ビジネスの成長により小型商用車(LCV)の需要が大きく伸びた。この期間の同社の大きな成功は、LCV「ГАЗель/GAZelle(=ガゼル(※4))」の発表だった。小型車やマイクロバスには「ГАЗель/GAZelle(=ガゼル)」のシャーシが採用され、中小企業で非常に人気となった。また、救急車や警察車両、公共サービスにも広く使用された。マイクロバスは、公共の交通機関向けに量産車として刷新—すなわち、路線タクシー/乗合タクシーの基礎となり、俗に「маршрутка/marshrutka(マルシュルートカ)」と呼ばれた。路線タクシー/乗合タクシーはソ連時代、規模は小さいながらもまだ存在していた。しかし90年代、ロシアの一部の都市では、ほとんどが通常の都市バスに取って変わった。
 
※4:ウシ科ガゼル属の動物。
 
「ГАЗель/GAZelle(=ガゼル)」の様々な車両モデル
路線タクシー/乗合タクシー
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:GAZel%27.JPG
救急車
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reanimobile_SEMAR-3234.JPG
消防車
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Газель_пожарная_машина-сзади.jpg
トラック
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Газель_фургон.jpg
 
時系列でみる近年の動向
2000年代初頭、LCVの普及を踏まえ、ГАЗ(GAZ/ガズ)はLCVと中型トラックの生産に特化し始め、一方で小型車の生産は最小化した。
2005年、LCV・小型車・旅客バス・自動車部品の生産工場は、ГАЗ(GAZ/ガズ)グループ自動車ホールディングスの一部となった。しかし、ホールディングス売上高の半分以上はГАЗ(GAZ/ガズ)が占めた。
2006年、小型車生産の再開を試みた。設備はDaimler(ダイムラー)社で購入。
2006~2009年、ГАЗ(GAZ/ガズ)グループは、英国の会社LDVグループを所有し、商用バン「Maxus/マクサス」を製造した。
2008~2010年、Volga Siber(ヴォルガ・シベル)を少量生産したが、人気とはならず生産中止。
2012年~、Skoda(シュコダ)社、Volkswagen(フォルクスワーゲン)社、General Motors(ゼネラルモーターズ)社との提携により、Skoda(シュコダ)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Chevrolet(シボレー)の小型車モデルをいくつか生産。
2013年~、Daimler(ダイムラー)社との提携でLCV「Mercedes-Benz Sprinter(メルセデス・ベンツ・スプリンター)」を製造。
2019年、ГАЗ(GAZ/ガズ)グループは自社での製造車両を世界45ヵ国へ輸出。同社の重要な進出地域をアジア、中東、南米、東欧とした。
2022年、Ford(フォード)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、トヨタ、三菱、Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は、ロシア全土での生産を中止、新車とオリジナルのスペア部品の輸入も停止した。Peugeot(プジョー)とCitroen(シトロエン)は生産を縮小。ГАЗ(GAZ/ガズ)グループは、残された設備でLCV部門でのシェア拡大を計画した。
 
2022年は、51,996台を生産した。同年10月初め、電気自動車「ГАЗель e-NN/ GAZelle e-NN(ガゼルe-NN)」の生産を開始した。一部のマイクロバス、ライトバン、ライトバン・コンビ、平台トラックには電気モーターが搭載されている。
 
現在のところ、ГАЗ(GAZ/ガズ)社のLCV生産は、ロシア市場でのLCV売上高第1位である。2022年、38,000台のLCVを販売した(この市場部門では、総売上の約50%)。最も人気のLCVモデルは「ГАЗель Next/Gazelle Next(ガゼル ネクスト)」で、約21,000台を販売した(2022年に販売されたLCV全モデルの約27%)。
 
LCV市場でГАЗ(GAZ/ガズ)は走行距離でもリードし、2023年第一四半期、LCV総売上の41%を占め、最も人気のモデルはГАЗель Бизнес/Gazelle Business(ガゼルビジネス)」だった。
 
引用元:
https://ru.wikipedia.org/wiki/Горьковский_автомобильный_завод
https://ru.wikipedia.org/wiki/Газель_(автомобиль)
https://www.autonews.ru/news/5c6673d39a79478aadd12e2a
https://spec-technika.ru/2022/12/rossijskij-rynok-lcv-legok-na-podem/
https://auto.vercity.ru/statistics/production/marks/gaz/
https://www.autostat.ru/press-releases/53560/
https://www.autostat.ru/infographics/54791/

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