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終わりのない終着地点


夜のサンティアゴ大聖堂

何度も訪れているサンティアゴ大聖堂を夜見るのは初めてだった。

毎年、初詣にここを訪れるのだが、夜に見た記憶がなかった。何故なら、いつも日帰りで帰るか、1泊しても雨だったり、美味しい食事がメインになってしまい、この夜の美しさを今まで見ることなく過ごしてきた。

ライトアップされた大聖堂を眺め、息を飲んだ。日中には感じなかった、細部まで丁寧に作られた彫刻がより鮮明に見え、月の明かりが上から照らすその様を呆然と眺めていた。何かに取り憑かれてるかのように、不思議とずっと見ていられた。

サンティアゴ大聖堂 裏側

ここは、スペインの巡礼路の終着地点。世界中から巡礼者がこの大聖堂を目指してやってくる。もちろん観光客も多く訪れる場所でもある。

大聖堂の中には、イエスの12人の使徒の1人聖ヤコブ(サンティアゴ:スペイン語)が祀られており、様々なお願いをしにやってくる人達で賑わっているのだ。

国籍も性別も、出身地もバラバラな人達の一期一会。一緒に食事をしたり、時には励まし合ったりしながら、また翌日から自分たちのペースで同じ道を同じ場所に向かって歩く旅が巡礼である。

巡礼路にある小さな村

今年の2月、巡礼を終えた姉夫婦に会うためにサンティアゴ・デ・コンポステーラを訪れた。待ち合わせのバルに向かうと、姉夫婦の隣りにマヨルカ島から来た女性が1人立っていた。彼らが巡礼で知り合った女性だった。
子供が3人いるシングルマザーの彼女は、子育てと仕事に疲れ、母親に10日間だけ子供をみてて欲しいと頼み、巡礼にやってきたそう。久しぶりに味わった1人だけの時間と、子供をおいてきた事への罪悪感、様々な思いを持って歩いてきた10日間。最後に聖ヤコブに何を願ったのか?本人のみ知る所である。

銀色の支柱の中に鎮座する聖ヤコブ像

とはいえ、聖ヤコブに祈りを捧げると願いが叶うと良く聞くのも事実である。

ある人は、結婚して2ヶ月後に最愛の人を亡くしてしまい、途方にくれた末、巡礼を決意。傷心ではあったが、巡礼で出会った人達に救われた人もいる。不妊で悩んでいた夫婦が巡礼後に、子供を授かったという話も聞いた。

願いとは裏腹に、それぞれの思いを持って単身で歩き始めたものの、途中で出会った人が生涯のパートナーに変わった人も沢山知っている。

これまに出会った巡礼者にサンティアゴ・デ・コンポステーラの話を聞くと、驚くほど誰も詳しくは教えてくれない。何故なら彼らの記憶の中には、終着地点よりも、巡礼中の様々な出来事やはっとするような壮大な景色、楽しかった巡礼宿での記憶が強く残っているからだ。そして、到着した翌日には殆どの人が帰路についてしまうのだ。

巡礼者達は、帰路につく前に仲間たちと無事に到着できた事、出会えたことに祝杯をあげる

サンティアゴ大聖堂へと続くレストランが立ち並ぶ細い道

訪れた人達がまず頼むのが、
ガリシア名物のタコ料理:Pulpo a la Gallega

ガリシア名物 Pulpo a la Gallega

海鮮が美味しく特にムール貝の肉厚なこと!奥のベルベレーチョと呼ばれる貝も小さいながら味が濃厚で美味しい。海の香りが口から鼻へ抜けていく。

ムール貝(手前)とベルベレーチョ(奥)

ビールとも合うが、ワインも有名なので是非ガリシアに伝わるハラ(ピッチャー)とタサ(器)で飲んでみて欲しい。

ガリシア伝統の器で飲む白ワイン

ガリシアの美味しい料理に舌鼓をうちながら、巡礼の思い出を語りあい盛り上がる。

巡礼が大好きな友人から言われた言葉が今でも印象に残っている。
「大切な事は終える事ではない、それまでの過程が大切なんだ」

巡礼の貝殻のマーク

そうだ。時間をかけることで人と人との密接な繋がりができ、忘れられない思い出となる。その人達と見た景色は、旅行で訪れた景色とは違うだろう。
回り道をしてもいい、寄り道してもいい、立ち止まってもいい。
時折、迷ったり、考え込んだり、周りを見渡す時間があってもいいのだ。
最後にたどり着ける場所があるのだから。

ここは、終着地点であり、新しい生活へのスタート地点でもある。
一度巡礼を経験した人は、また巡礼がしたくなる。同じ道を歩く人、別の道を歩く人、何度でも歩きたくなってしまう。そしてまた、ここへ戻ってきたくなる聖ヤコブの魔法がかかった不思議な場所なのである。








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