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「ただしい人類滅亡計画」読書感想文

あなたは人類滅亡を願ったことがあるだろうか。


私はある。大いにある。特にストレスが溜まっているとより考えてしまう。人類って居なくなった方がいいんじゃないかと。人類滅亡は人類にとって、地球にとって「善い事」なのではないかと。

最近こんな本を読んだ。

『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』

品田遊が書いた小説だ。品田遊はダ・ヴィンチ・恐山としても活動を行っておりWebメディア『オモコロ』でライターとしてもYouTube出演者としても活動している。そんな彼の職業の1つが小説家。つまり小説家としての名前が「品田遊」だと言い換えることも出来るだろう。

さて、この本のテーマは「人類を滅亡させるか否か。」魔王様が10人の異なる思想を持った人間を集め議論させるという内容であり、その本文のほとんどが会話文である。地の文がないため会話を聞いて自分も議論に参加している気になることが出来るのだ。また、反出生主義をはじめ利己主義、自由主義など様々な思想をわかりやすく、とっかかりを持たせる形で表現しているため哲学の入門書としても最適だと感じた。

前置きが長くなったが私なりの感想を述べてみたいと思う。この本を読んでいて奇妙な心の動きが起こった。

私は反出生主義者なのか、と感じ始めたのだ。

それもそのはず。この小説内で語られる反出生主義には論理的説得力がある。人類は愚かだ、だから滅亡すべきといった生ぬるい考えでは無い。道徳的に出生は悪であるから人類は皆出生を取りやめるべきと描かれているのだ。これに私の「遺伝子を残したくない」という気持ちが合わさってしまったのだから大変である。私は常々自分の遺伝子を残したくないと主張している。

世の中に不幸があると分かっていて新たに不幸を感じるかもしれない個体を増やすことに抵抗があるからだ。

具体的に言うと私のような忘れっぽく大雑把で薄情な人間は幸せを感じにくいのではないかということ。様々な理由で若者に負担がかかることが分かっている世の中に産み落とすことは罪ではないかということ。根源にあるのは幸せに育てる自信が無いこと。まあこのような理由から「自分の」子供を産むことに抵抗があるのだ。まあ自分だけが痛い思いをしてパートナーの遺伝子を残す手伝いをすることに抵抗があるというのもあるけれど……結局は自分勝手な理由である。こんな私の思想と反出生主義が結びつくとどうだろうか。それ見たことか!人類が増えることはやはり悪なのだ!と触れて回りたくなる。「過去に大きな不幸を感じた人間が今の生活が幸せだからってこれからもずっと幸せだ、もしくは過去も幸せだったと思い込み、不幸を感じるであろう人間を増やすことは罪じゃないのか?」そんな考えが頭を駆け巡るのだ。

しかしどうだろう。これは私の身勝手な考えを正当化するために「道徳的」「人道的」行為であると主張してはいないか。そんな疑問を持ちながら読み進めていくと後半になってグレーが発言を始めた。そこでやっと(私にとって)あたりまえの気付くことが出来たのだ。

私が私なりの考えを持っているように人には人の考えがある、と。

私は子供が大好きだ。それは理屈で説明ができない。可愛いから。あどけない表情にどうしても庇護欲を感じてしまうから。この子達が未来を作っていくかと思うとワクワクする。その反面、noteで「日々抱いている不安を幸福で誤魔化して生き長らえていることに罪悪感を感じている」「生きさせられている。理不尽に。」と述べたりしている。

でも、今回この小説を読んで「いいのだ」と感じた。「矛盾を抱え、罪悪感を感じながら生きていてもいいのだ」ということだ。つまり、私が理不尽に生かされていると感じていることも、幸福で不幸を誤魔化して人生を送っていることも、悪いことかもしれないけど、いいんだ、肯定していい。悪いことはしてはいけないけれど、悪いことはしてもいい。私達はそれぞれが実存であり自分の軸で考えてそれを達成することを他人がとやかく言う権利はない、いやとやかく言う権利もある、つまり正しいことも間違っていることも本質的には無い、そう言えるのである。

この考えに至ることが出来たので、私は「子供が好きな反出生主義者」にならずに済んだ。みんな違ってみんないいとはよく言ったものだ。よく考えたら下記のnoteで信じられるのは自分の感覚だけ、と述べているのにも関わらず、よくいけしゃあしゃあと出生は悪いことなのでは?等と言えたものだ。(触れ回ってはいないけれど)

ストレスが溜まって、やることが溜まって、お金もなくなった時に思わず人類滅亡を願ってしまう。でもそんな時があってもいい。本気で人類滅亡を願ってもいいし出生を賞賛し自らの遺伝子を残すことももちろんいい。

生きさせられていると感じながら、私は今日も生きていく。ポジティブに生きられない罪悪感は時に感じるかもしれない。でも、それでいいのだ。

それで、いいのだ。


考えを変えさせられそうになった後自分の原点に立ち返ることが出来た不思議な本であった。反出生主義の道徳的な主張、そしてグレーという登場人物の発言が気になった方はぜひ読んでみて欲しい。きっと自分がどんな主義主張を抱いているのか考えるきっかけになると思う。


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