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よろしく親不孝-1

「今日からここがお前の家な」

あのセリフから12年も経ったと思うとすっかり大人になったもんだ

12年前俺は地元の一個上の先輩のコネで三下ヤクザの子分だった

とは言っても当時の俺は構成員って訳でもないしただのパシリみたいな存在だったんだ、「何時に起こせ」「あれ買ってこい」「これ行ってこい」そんな毎日だった。

当時、俺はちっさい地元で不良に憧れてた、当時の年齢は15歳、誰もが一回はグレたい年頃、俺はまさにその厨二病真っ盛りだった。

喧嘩が強い訳でもないのにファッションや髪型だけは一丁前だったから

それだけで何故か一個上、二個上の先輩にも恐れられた、ただの虚勢張ったクソガキだったと思う。実際喧嘩なんてしようもんなら秒で俺が倒れる自信がある。

そんなある日中学3年生で不登校になりながら遊び呆けるのも飽きてきて俺は仲の良い一個上の先輩

仮名で三好(みよし)先輩
に俺でも出来る仕事があるのか聞いたんだ。

薫:「高校とか行くつもりもないし16になったらそのまま仕事する予定なんすけど三好くんのツテで今からでも出来る仕事ってないんすかね」

学校も行かずに毎日遊んでたら中学生にだって金の限界もある

それに家族とはほぼ絶縁状態で帰る家は三好の実家だった当然だが俺に金の宛てなんて訳がなかったんだよな。

三好:「仕事ならいくらでも紹介出来るけどそれは俺の姉貴が中坊の頃からお世話になってる“コレモン”なんだよ」

なんて言いながら三好は自分の口元を親指で頬までなぞったんだ

そのジェスチャーで俺はすぐに先方がヤクザだと分かった、正直それ言われた瞬間から昔から好奇心旺盛だった俺は飛びついた

薫:「ヤクザでもなんでもいいんで紹介して欲しいっす三好くん!!」

三好:「お前怖くねぇの?俺も多少は絡みはあるから知ってるけど、普段は確かにめちゃめちゃ優しいんだけど、この間居酒屋で揉めた時なんて鏡月でキレさした相手の頭何回もぶん殴って血だらけにしてたぞ」

そんな事言いながら三好はレゲエ色のちっさいテーブルの上に置いてある空き瓶の鏡月で俺の事を軽く小突いてきた。

でも不思議と何も怖くなかった、礼儀に忠実な俺なら向かう所敵無しとさえ思っていた。今思えばヤクザなんてカタギの人間にはシノギ、金の事しか考えてないなんて分かりきってんのに悪の道に進む事がかっこいいと思ってしまった俺の当時の厨二病を今では本気で馬鹿だと思う

薫:「俺なら大丈夫っす!だから是非紹介してください金さえもらえりゃなんでもいいんで!!」

そんなくだらない会話をしながらポケットから赤マルのソフトを取り出してイキがって無理して買った7,000円くらいのダッセェzippoで火をつけた

三好「そこまで腹据わってんならいいけどな、じゃあ今からその人に電話してやるからちょっと静かにしとけよ」

そう言うと三好はプリクラとストラップで覆われたガラケーでそのヤクザらしき男に電話をかけた

三好:「もしもし、お疲れ様です今時間大丈夫ですか?……はい、ちょっとご相談なんですけど、僕の後輩が今まだ中3なんですけど仕事を探してて“和希“(かずき)さん(仮名)なら何かあるんじゃないかと思いまして掛けさせて頂きました…はい!はい!あ、いいんですか!?…はい!はい!分かりました!それでは今からソイツ連れて向かいますのでよろしくお願いします…はい!では失礼します!」

三好が誰かに敬語を使うのを俺はそこで初めて見た、この三好と言う人物、これが地元でもトップクラスの不良で喧嘩も強い頭もキレる、更に顔も中性的なイケメンでどんな相手にもタメ口で対等に話す。それはそれは生き様もかっこいい先輩で俺はこんな男になりたいといつも憧れを抱いていた。そんな男が俺の前で初めて敬語で喋るの見て俺は改めてこれから本物のヤクザに会うんだ、と武者震いを起こしていた。

三好:「聞いてて分かったと思うけど今話つけて俺らがよく行くいつもの居酒屋の“かすり”で飲んでてお前の事連れてこいって言ってくれたから早く支度しろよ、俺も立ち会ってやるから、あと頼むからお前は何も喋らないでくれ!聞かれた事だけ答えりゃいいから!!」

薫:「分かりましたじゃあ大人しくしていますね!!うわああ本当にヤクザと会えるんだめちゃめちゃ怖いっす!!」

なんて浮かれながらそそくさと俺は支度を済ませた。地元から離れたどっかの不良から窃盗した原付ZXを直結しながら2人乗りで俺は居酒屋“かすり”にへとハンドルを切ってアクセルを捻った。

その当時も今ぐらいの寒さだったかな、当時の地元の空気とアスファルトの匂いが今日この頃新宿でまた鼻につきやがる。

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