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  • メイキングオブ『ワンダーら』

    『ワンダーら』の解説、製作覚え書き

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おわりに【メイキングオブ『ワンダーら』】

長かった…。 関西コミティアが5月12日で、今この文章を書き終えた(メモに書き貯めている)のが5月29日になったところなので、2週間とちょっと…。 これだけ解説があるということは、「マンガとして描き切れていない」という逆説がバッキバキに成立していまっているので(しかもド級に野暮だし)、語義矛盾街道を爆走していて正直辛かった。 が、何度も出てきた『2017』にしても、私はこれまでつくってきた作品すべてでこれだけの解説の文量を書く自信(?)がある。作品だけでどこまで伝わるを度外

    • SCENE17:「川③/海②」【メイキングオブ『ワンダーら』】

      ●シーン概略 「川」の彼らが辿り着いた先は。 ◎ラストシーンのマジック 「海」のシーンで全体をサンドイッチするというのは最も初めから決めていた。というかそもそもの「海①」もそうなる前提でつくった。 シーンが大方出揃って、そろそろ順番を編むかと考えたとき、「この川の連中、海はまだかなってずっと海目指してるじゃん……じゃあ海に辿り着かなきゃじゃん!」となる。 そもそも「川」は『2017』の転用であるが、その原典での3人は最後まで海に辿り着かずに終わっている(その時はあくまで

      • SCENE16:「餅③」【メイキングオブ『ワンダーら』】

        ●シーン概略 とうとう月に到達した「餅」の2人。しかし、月餅しか売ってない。 ◎月餅 ウォレスは「月はチーズでできている」と決め打ちで月に向かったけど、本当はチーズでできていなかったらどうするつもりだったんだろう…?という野暮な疑問から、月に餅がなかったら?という「ウォレスとグルミット」のif世界のつもりで考えた。そして月餅に辿り着く。 月餅しか売っていない、というオチは「餅①」を書いた時には思いついていなかった。本当にここの2人と同じく、①のタイミングでは「月でウサギ

        • SCENE15:「文鎮」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 書道教室が舞台のショートショート。左手を添えられない。 ◎平熱のマイノリティ このシーンは我ながら読むとドキッとするが、どうだろうか。そういう意図も込みで挿入している。 ダウン症の妹のこと「はじめに」はで書いたが、その日常というか当たり前感を描くこともいつかやりたかったことである。『2017』の次作として『2018(仮称)』を上演した際、少しだけそれを試してみたけれども、不完全燃焼だった。またマイノリティ……障害者を平熱で登場させるというのは『映像研には手

        おわりに【メイキングオブ『ワンダーら』】

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        • メイキングオブ『ワンダーら』
          19本

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          SCENE14:「裸」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 世界一の博物館を裸で歩きたいとのたまう女。 ◎裸の魂で話せよ 「命単体に歴史なんてない」このシーンはこのセリフが全てだ。そしてこれもまた”なにかのための、なにかなどない”の言い換えであると言える。 人間は途方もない歴史を作り上げてきたし、地球はさらに途方もない年月の上にある。学校でも習うし、DNAもそう言っている。が、しかし。今ここにある命単体は──命と呼べるものは──あくまで母の胎内で細胞が結合して以降の足跡しか持ち得ない。マクロとミクロの話。 「おばけ

          SCENE14:「裸」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE13:「迷子」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 「墓」の空気をぶち壊す迷子、見参。 ◎我彷徨う、故に我あり このシーンの台本には、以上のセリフしか書かれていなかった。こんなこと迷子が言ってたら面白いなあと思ったので、迷子に言わせた。そしてただとびきりのギャグシーンとして昇華した。本作中で数少ない、このページだけシングルカットしても成立しそうなシーンである。 「我彷徨う、故に我あり」このセンテンス自体は、私の実感であり、だからこそ私のペンネームとなった。生活における様々な寄る辺のない感覚がはじめ不安でしか

          SCENE13:「迷子」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE12:「墓」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 石を墓に見立てて墓参りをする少女と、それを見る少女。 ◎墓参り このシーンこそ『2017』において最初に「石」を扱ったシーンである。 そもそも『2017』という作品自体が、私自身が墓参りをしている時に感じたものを出発点としていた。石に向かって手を合わせている、その対象が居なければ私はここに存在しない。それは母方の祖父のお墓だったのだが、その祖父は私が生まれるより前に亡くなっているので、余計に「石」を挟んだ先に縁なるものを感じてしまったのだった。 そこから転

          SCENE12:「墓」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE11:「川②」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 そしてしりとりで「川」につながる。 ◎偶然の産物 実は、前シーン「花」とつなげるために「花がきれいだな」と言わせたわけではない。台本を書いた時点、つまり構成を考えるより前の段階からこのセリフで始まっていた。単純に「三途」を思わせるための花で、おそらく「花」のシーンがなければスムーズにそう連想できていただろう。しりとりがうまくいきすぎた例。 それにしても、「川①」のほうで「ああ、眠い」と言わせてしまったもんだから、ついついB (眠い奴)に進行を頼ってしまう。

          SCENE11:「川②」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE10:「花」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 「プロコンジョウ 仕事の雰囲気」という番組のインタビューを受ける花屋。 ◎怒りの花屋 「花を育てる」という素敵っぽい行動と、その動機が噛み合っていないとしたら? このシーンもまた”なにかのための、なにかなどない”を前提としている。この場面を思いついた時点では、当人には意外と切実な経緯がある設定にしていたが、しゃらくさいのでそれを表出させない選択をした。おかげで物凄くトンチキなことを言う人物みたいになってしまったけれど、それこそ他者の納得のために彼は行動して

          SCENE10:「花」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE9:「餅②」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 ようやく折り返し地点、そして「餅」の2人が再登場する。彼らはロケットを製造する。 ◎リフレイン やはり同じ登場人物が現れるだけで、”縦軸”を感じて安心する。このリフレインによる効果は演劇から学んだところが大きい。ただのシーンの羅列から一気になにかを感じやすくなる(はず)。 この「餅」一連の展開上の都合もあるが、「ここで一度顔を出してもらって、読み手の気を引いてください」と彼らにオファーしたような感じでもある。 ◎突然出来上がるロケット 「ウォレスとグル

          SCENE9:「餅②」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE8:「工場見学」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 干し芋工場の見学に来た子供たちの、質問コーナー。 ◎何気に突破口 本作において、明確に〈それ以外のもの〉について触れられるシーン。実は〈海〉の次に具体的に思いついたのがこのシーンである。 『2017』転用や種々のモチーフの想像こそついていたが、それをどういった塩梅で、またどういった温度感で設えていくべきかに割とずっと悩んでいた。このシーンを思いついたのが、その突破口となった。まさに「あるはずなのに見えていない〈それ以外〉」について問うというやりとり。やりた

          SCENE8:「工場見学」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE7:「星」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 ごっちんを待ちながら、死んだらどうなるかをだらだら喋るヤンキー…ギャル?の2人。 ◎考えるヤンキー このシーンも『2017』から転用している。台本自体は本作仕様にだいぶと書き直してるが、おおまかには変わらず「哲学するヤンキー」を描くためのシーンであった。『2017』当時は、死んだらどうなるかと問われたヤンキーは「数字になんだよ」と答えていた。今回それが「星」になったことにはさして意味はない。よくそう言うし、このギャルもそれを聞いたことがあったんだろう。 『

          SCENE7:「星」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE6:「おばけ」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 新入社員に、墓場で肝試しをさせる先輩社員。 ◎私が嫌悪するもの 「思考停止は社会人のたしなみだぜ?」このシーンはこのセリフから始まった。 「ワンダー構想」がはっきりと形を成すより前、作品のテーマを探る中で”私は今なにをもっとも嫌悪しているのか”を確かめていた。そのときに思い浮かんだセンテンスがこれだった。つまりは、本当は存在する〈それ以外のもの〉‪─‬‪─それは他者と足並みを揃えることでこぼれ落ちる自分自身の気持ちかもしれない‪─‬‪─‬‬を黙殺すること。

          SCENE6:「おばけ」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE5:「石」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 少し大きめな石を拾ってきた同居人。それは意味も思い入れもない、ただの石。 ◎石の由来 これまでモチーフだテーマだと言ってきたが、ここにきて石という「アイテム」が登場する。 石には2つ由来があり、ひとつはこれもまた『2017』にて象徴的に扱っていたこと。当時はアイテムより上段の「テーマ扱い」(要はそこに意味や含みをたくさん持たせたもの)だったが、本作においては超・具象のものとして召喚した。つまり作品にとっても「ただの石」以上でも以下でもないということ。 2つ

          SCENE5:「石」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE4:「川①」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 「まだ」というワードからしりとり式に展開する、本作においていちばんわかりにくいセリフの応酬をするシーン。これは「川」です。意図して河原も岸も描いていない。手抜きではありません! ◎『2017』 前シーンの「犬」がそうだったように、「はじめに」で”過去に劇でつくったシーンを流用した部分も幾つかある”と書いたがこのシーンもそう。というかこの「川」を登場させた「2017年につくった劇作品」からは流用したシーンが本作には多い。今後頻出するため「2017年につくった

          SCENE4:「川①」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          SCENE:3「犬」【メイキングオブ『ワンダーら』】

          ●シーン概略 「まだ」という名前の犬。「海①」「餅①」がそれぞれ縦軸を担うシーケンスだったのに対し、初めて登場する純然たる横軸である。そして、過去作からマジでまんま持ってきたシーン。 ◎なにかのための、なにかなどない 上記の通り、過去に作った劇のシーンを一語一句そのまま使用した。今回の〈それ以外のもの〉というテーマ性にシンデレラフィットしたからだ。 「未だ」、もっとわかりやすく言うと「名前はない」という名前、みたいなことである。さらに、まだら模様じゃないのにまだら模様と

          SCENE:3「犬」【メイキングオブ『ワンダーら』】