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SCENE:3「犬」【メイキングオブ『ワンダーら』】

●シーン概略

「まだ」という名前の犬。「海①」「餅①」がそれぞれ縦軸を担うシーケンスだったのに対し、初めて登場する純然たる横軸である。そして、過去作からマジでまんま持ってきたシーン。


◎なにかのための、なにかなどない

上記の通り、過去に作った劇のシーンを一語一句そのまま使用した。今回の〈それ以外のもの〉というテーマ性にシンデレラフィットしたからだ。
「未だ」、もっとわかりやすく言うと「名前はない」という名前、みたいなことである。さらに、まだら模様じゃないのにまだら模様という由来を持っている。
生命につけられる名前は基本的に願いや思いが込められた”祈り”である。そして一方名付けられた側には、その”祈り”に応える権利も応えない権利も両方存在する。誰かに納得されるための名前ではないし、誰かに納得されるための命ではないからだ。この「まだ」という犬も、この命名を気に入っているとは限らない。
〈それ以外のもの〉というテーマと背中合わせにある、"なにかのための、なにかなどない"といった主張が本作においては幾度も顔を出す。その1回目。

◎いしいひさいち

このシーンのネーム参照元は、いしいひさいち氏である。『のんちゃん』の絵などを見れば誰しも一度は目にしているはず。ジブリの『となりの山田くん』の原作の人だ。
私はいしいひさいち氏が自費出版した『ROCA:吉川ロカ ストーリーライブ』を読み、深すぎる衝撃を受けた。簡素な線で描かれた恐ろしいほど克明な情感。と、ギャグ。入江亜季氏とは全く違う角度で「マンガでこんなことできるのか」と思わされた。だが本シーンにおいて、その感慨は含ませられていない。表層だけをさらってしまったという反省がある。
一方で、演劇からマンガへのそのままの転用という意味では、本作中では最もうまくいっていると思う。いしいひさいち氏の作風がそれに適していたのかもしれないし、元々の台本がそもそもマンガ的だったのかもしれない。セリフや間のテンポ感を、紙面でまあまあ再現することができたと感じている。

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