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SCENE5:「石」【メイキングオブ『ワンダーら』】

●シーン概略

少し大きめな石を拾ってきた同居人。それは意味も思い入れもない、ただの石。


◎石の由来

これまでモチーフだテーマだと言ってきたが、ここにきて石という「アイテム」が登場する。
石には2つ由来があり、ひとつはこれもまた『2017』にて象徴的に扱っていたこと。当時はアイテムより上段の「テーマ扱い」(要はそこに意味や含みをたくさん持たせたもの)だったが、本作においては超・具象のものとして召喚した。つまり作品にとっても「ただの石」以上でも以下でもないということ。
2つ目は、『断片的なものの社会学』(著:岸政彦/朝日出版社)という本。これは『2017』より後になって知ったのだが、もう私が求めていたことそのもののような本で、なんなら本作は「マンガ版『断片的なものの社会学』をつくろう」と思って描いた節すらある。そんなこの本の冒頭に、まさに「ただの石」が象徴的に登場するのだ。

◎アンチ感動ポルノ

シーン「」でも書いた、”なにかのための、なにかなどない”という主張がここにもある。石は石。上に挙げた『断片的なものの社会学』も、かなり平たく書けばそのことを通底して言っていて、そして私はそこにいちばん感銘を受けていた。
”なにかのための、なにかなどない”というのは私が考えた言い方だが……これは「感動ポルノ」の対義語と捉えるとちょうどいい。私の中のアンチ感動ポルノが表出した定義だ。
このシーケンスも「犬」と同じく横軸を担っている。横軸にはこの”なにかのための、なにかなどない”ということのバリエーションを散らしているのかもしれない。この「石」のシーンはその筆頭、タイトルロールだ。つまり本作『ワンダーら』自体が、この石の存在とニアリーイコールなのである。

◎参照作家なし

本シーンには参照作家はいない。というか実はこのシーンは、「石」こそ用いているものの、元々もう少しボリュームがあり且つなんだかしゃらくさいことを言っている全然違うシーンだった。そのしゃらくささが作画直前に鼻について、丸々ボツにして「石」を使った全く違うシーケンスとして急遽仕上げることにした。そういった時間的な問題も含め、参照作家を立てずに感覚でネームをつくった。
強いて言えば阿部共実氏だろうか…。だが阿部共実氏はこの後でもっと露骨に参照したシーンがあるので、その残り香で描いたシーンといえるかもしれない。

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