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邦楽大好き恋愛経験ナシ男が、映画「ふりふら」を観てきた。

僕は大学2年のハタチで、彼女はいない。今まで出来たこともない。女友達と呼べる人も人生のなかで片手で数えられるほど。恋愛ベタで、ギラギラした青春からは程遠い人生を歩んできた。そんなこんなで、僕は恋愛ドラマや恋愛映画に大して全く興味関心を抱かないどころか無理して避けてきた。

そんな僕の無駄に尖った観念をぶち壊すニュースが数ヶ月前に目に飛び込んできた。実写映画「思い、思われ、ふり、ふられ」の主題歌にOfficial髭男dismが起用された。僕にとってOfficial髭男dismは特別な存在だ。それだけでも心弾んだのだが、アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」の主題歌にBUMP OF CHICKENが起用された。BUMP OF CHICKENも、Official髭男dismと双璧をなす程の特別な存在だ。


3年前、映画「君の膵臓をたべたい」が公開された。劇場には足を運ばなかったが、DVDをレンタルする機会があった。その時の目当ては、これまたバンプとヒゲダンに並ぶ好きなアーティストであるMr.Childrenだった。映画の内容は全く興味なかった。正直、冒頭は全く観なかった。今考えれば、キミスイに対して非常に申し訳ないことをしたとも思う。

そんなこんなでいよいよミスチルが流れる。主題歌himawariが流れる。そう心構えした瞬間に耳に飛び込んできたのはhimawariとは全く違う音色の曲だった。そう、僕は実写版君の膵臓をたべたいではなくアニメ版君の膵臓をたべたいを借りていたのだ。アニメ版の主題歌はsumikaの春夏秋冬だった。これはしくじった。ろくに内容も見ずに即買いしてしまったと後悔した。そうやって色々考えているうちにも流れ続けていたsumikaの音楽に、気づけば興味をそそられていた。なんだ、こっちの主題歌も悪くはない。そこからしばらくsumikaの曲も聴くようになった。


という経験がある。僕の大好きなBUMP OF CHICKENとOfficial髭男dismが、公開日と監督とキャストは違えど同じ原作漫画の映画の主題歌を担当する。BUMP OF CHICKENの「Gravity」目当てに映画を観た人が、Official髭男dismの「115万キロのフィルム」の方の映画にも興味をそそられ観る。実写版の方のふりふらを見ようとして間違えてアニメ版を見てしまい、聴く予定のなかったBUMP OF CHICKENを聴く。そんな相乗効果が生まれるのではないかとウキウキした。そして何より、おなじ「ふりふら」を視聴したあとに聴く藤原基央の音楽と藤原聡の音楽を聴き比べてみたいという好奇心にただただ掻き立てられた。

とここまで舞い上がってしまったが、よくよく考えれば僕は今から恋愛映画を観に行こうとしている。しかも一人で(数少ない女友達を誘ったがあっさり断られたので諦めたという小噺は無かったことにする)。冴えない大学生がとぼとぼと一人で恋愛映画を観るなんぞ言語道断だ。それでも、バンプとヒゲダンの誘惑には勝てなかった。


当日。何を血迷ったのか僕は、「あくまで主題歌を聴きに来てるんですよ映画には興味ありませんよ」というスタンスを誇示するためにBUMP OF CHICKENのツアーTシャツを着て劇場に出かけた。当初はアニメふりふらの方だけ観るつもりだったが、友達がドタキャンをするなどしてその後の予定が無くなったなどして同じ日に実写ふりふらも観てしまうことにした。映画ダブルヘッダーだ。僕は映画通ではないので1日に何本も映画を観ることがスタンダードなのか異端なのかは知る由もないが、少なくとも映画慣れしていない僕にはキツかったです。



僕は原作の「思い、思われ、ふり、ふられ」を読んだことはない。作者の咲坂伊緒さんの他作品を見たこともない。何なら冒頭でも述べたように恋愛系のありとあらゆる作品を見たことがない。
そんな僕が人生で初めて観た恋愛映画。そして立て続けに観たもうひとつの恋愛映画。率直な感想から言うと、とても感動した。

何度も述べるようで鬱陶しいかもしれないが、僕は恋愛下手の非リアコミュ障童〇お兄さんなので、脚本やストーリーを評価できる立場ではないし、評価できるような知識も説得力もない。ただひとつ恋愛下手お兄さんの立場から述べるとしたら「映画みたいな恋とか言うことあるけどまさに映画みたいな恋でしたね」である。


そんなことより僕が注目したのは、両作品の微妙な差異と、それによる主題歌の効果だ。例によって事細かなネタバレは割愛させていただくが、基本的な起承転結はどちらも同じで、アニメの方がストーリーがより肉付けされており初見でも分かりやすく、実写の方はストーリーにあまり入り込めなかった分、登場人物それぞれの心情描写や表情が色濃く切り取られていたように感じた。


そして主題歌の方にも注目したい。実写版主題歌の「115万キロのフィルム」は、日常の愛を鮮やかに切り取る、新時代のJPOPの旗手・ヒゲダンの真骨頂のような曲で、コテコテのラブソングである。対してアニメ版主題歌の「Gravity」は、直接的な恋愛描写がなく、今を生きる「僕」と大切な「君」の間に生まれるノスタルジックな風景を独自のリリックで綴った、これぞBUMP OF CHICKEN、ジス・イズ・バンブオブチキンといった曲である。

曲だけ分析するとこうなるのだが、面白いことに、映画を見終わったあとに流れてくる両曲は、普段イヤホンから流れてくるものとは真逆の性質を持っていた。
まず先に観たアニメ版ふりふら。ストーリー全体を通して特に感じた第一印象は「なかなか言い出せず、すれ違い続けた感情がついに結ばれた」というものだった。とてもとても長い期間くすぶり続けて、少なくとも自分自身も上映時間の105分待ち焦がれ、やっと形になったエンディングを迎えた。アニメーションらしく、これでもかと華やかにペイントされた映像に釘付けになった。そして流れるGravity。
[見つけた言葉いくつ 繋げたって遠ざかる 今一番伝えたい想いが 胸の中声を上げる]
[今日が明日 昨日になって 誰かが忘れたって
今君がここにいる事を 僕は忘れないから]
のフレーズは、ただただ胸にズシリとのしかかった。バンプの楽曲は、単に恋人対恋人とか親対子供のような具体的なシーンを描かず、あらゆる人対人における喜怒哀楽をベースに描かれるものが大半で、実際に本人たちが公認するBUMP OF CHICKENのラブソングは僅かに3曲しかない。
Gravityもその類の楽曲なはずだったが、今回ばかりはGravityの歌詞と主人公4人それぞれの心理が綺麗に重なったようだった。ただただ真っ直ぐに君が好きだと、伝えようとしているGravityがそこにはあった。スタッフロールの途中には、これは正真正銘のラブソングであると確信した。


次に観た実写版ふりふら。こちらも最終的にはなんとか結ばれるのだが、それよりも「思い通りにならないもどかしい人生の中で、限られた今日を大切にしよう」という主人公たちの切実な思いを感じた。役者さんがとびきりの笑顔を、時に涙を見せるというアニメーションにはないリアルな映像が僕の心を揺さぶった。そして流れる115万キロのフィルム。
昔学校の国語の授業で、「この物語で、作者が一番読者に伝えたい一文に線を引きなさい」という問題が出題されたことがある。ちなみに僕はこの系統の問題を外したことがない。そんなことは置いといて、この115万キロのフィルムの「作者が一番伝えたい一文」は、僕は
[苗字がひとつになった日も 何ひとつ代わり映えのない日も 愛しい日々尊い日々 逃さないように忘れないように焼き付けていくよ]
の部分であると考える。いち結婚ソングとして、一番結婚という行事に踏み込んだ上記の一文がこの曲においての本意のようなものである。と、普段イヤホンで聴くぶんには思っていた。
しかし、エンドロールで流れてくる115万キロのフィルムでなぜか鮮明に脳裏にこびりついた歌詞があった。それが
[クランクアップがいつなのか 僕らには決められない]
の一文。今は愛する人と結ばれて幸せでも、その日々がいつ終わるかは分からない。そこで、ただ終わらせるのを食い止めるばかりではなく、それまで過ごせたことにまず感謝をしよう。というような、ヒゲダンお得意のラブソングの範疇を超えた、広い意味での「愛」を歌う曲に聴こえた。
現実の世界線であれば、ビレッ〇ヴァンガードの入口で売られてる「ラブソング特集」みたいなCDに量産型ラブソングとともにギューギュー詰めに収録されるような様相の115万キロのフィルムが、ふりふらとセットで聴くことで、どちらかというとBUMP OF CHICKENの曲に近いような、恋人や友達や家族、そして自分自身という存在を含めた広い意味での「愛」に満ちた楽曲だと思えた。


BUMP OF CHICKENとOfficial髭男dism。彼らのバンドサウンドや、彼らが影響を受けたミュージシャン、彼らのファン層、そしてボーカル「藤原」の漢字の読み方さえ、何もかもが違う2組のアーティスト。僕の大好きな彼らの楽曲が「思い、思われ、ふり、ふられ」という素晴らしいフィルターに通されることで、全くの別物に変化する。という、特異にして貴重すぎる体験をすることが出来た。また、今まで敬遠してきた恋愛映画だったが、今回の二作品は純粋な恋愛だけでなく、友情や家族との絆もしっかりスポットライトを当てていて、独り身の僕でも非常に楽しめた。大好きで毎日聴いているような楽曲でも、こうやって新たな見方が出来ることがあるということで、恋愛映画も実は悪いもんじゃないなと思えた。
そして何より、こうやって深い考察が出来たのは、あの時アニメふりふら後の予定をドタキャンして映画ダブルヘッダーをする機会をくれたともだちくんのおかげなのかもしれない。
BUMP OF CHICKEN、Official髭男dism、ふりふらキャスト、ふりふら制作陣、そしてK.F.くんに惜しみない感謝を贈りたい。






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