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まるちゃんの成立(1/3章)/小説 #創作大賞2024
1.
記念すべき誕生は、地元球団のオリックスバッファローズが優勝した一九九六年のクリスマスだった。駅に勢いある旗が立った年の瀬、こたつのうえでぼくはうまれた。ゆりちゃんとお母さんが、ふたりでぼくを作ってくれた。
ぼくは、温州ミカンくらいの大きさの、きいろいあみぐるみだ。生物体系にくみこまれていない、ただのあみぐるみで、ゆりちゃんは「まるちゃん」と呼んでいる。
誕生の方法はかんたんだっ
まるちゃんの成立(2/3章)/小説 #創作大賞2024
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4.
単純な素材で構成され、簡単な作法で描けてしまうようなぼくだけれど、ときおり見習い哲学者のようにかんがえてしまう。昔、ゆりちゃんのリュックに入っていっしょに大学の授業を受けていて、そうなった。物の存在について語る講義は、よくわからないということだけがわかったのだが、かんがえることは楽しいと気づいた。
ぼくは、どこからきたのか。どこへいくのか。ど
まるちゃんの成立(3/3章)/小説 #創作大賞2024
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7.
二〇一七年春、ゆりちゃんは東京へ溶けこみ、人の多いところへぼくをつれていった。おそらくぼくへの教育であり、自分への訓練だった。ふたりきりで、この先本当にだいじょうぶなのかと、ぼくを連れてすごす効果を試しているようだった。
勢いで決めた転職先には、初勤務の日まで一か月半時間があった。それまでは平日の昼間から、東京駅か