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2022.7.10 世界で輝く日本の中小企業【全文無料(投げ銭記事)】

「日本企業がグローバル化に遅れた」
という主張は間違っていたのか?

今回はその証拠に、日本独自の強みを生かして世界トップシェアを誇る中小企業の数々を紹介したいと思います。

『小さな世界一企業』1000社

経済産業省の内部資料によると、日本には世界シェアトップの中小企業が100社以上あるといいます。

さらに、政府系金融機関が把握している世界トップレベルの技術を持つ企業を含めると、1000社を超えるという推計もあります。

例えば、

7月9日の記事でご紹介した、瀬戸大橋やスカイツリーなどで使われている『絶対ゆるまないネジ』を開発したハードロック工業。

100万分の1gの歯車を作った樹研工業。

痛くない注射針を開発した岡野工業。

近年は、エレクトロニクス分野ではソニーやパナソニックなどが、一時ほどの存在感を失い、アップルやサムスンなどにお株を奪われたように見えますが、これらの外国企業も部品レベルでは多くの日本企業に頼っています。

自動車分野は、トヨタやホンダを代表に日本企業が世界をリードしていますが、それも日本の優れた自動車部品メーカーの力による所が大きく、逆に、欧米メーカーが日系部品メーカーを使って追い上げを図っています。

航空機分野では、ようやくホンダジェットや三菱のMRJが登場しつつありますが、話題のボーイング787は日本企業の分担比率が35%にも達します。

エレクトロニクス、自動車、航空機などは、売上げ規模も大きいので大企業でないと取り組めませんが、グローバル化の時代には部品や材料を供給する中小企業が世界のマーケットで勝負できますし、かつ本格的な技術革新は部品材料から生ずるものが多くあります。

こういう意味で、日本に1000社もの世界トップレベルの中小企業が存在するという点は、我が国の財産です。

以降は、いくつかの小さな世界企業を取り上げて、それがどのように誕生し、成長したのか見てみたいと思います。

歯医者さんの照明が替わっていた

昔の歯医者さんが頭に付けていた丸い鏡を覚えているでしょうか?

額帯反射鏡またはヘッドミラーと言って、患者の口内に丸い鏡で光を当てながら患部を観察します。

鏡の中心に穴が開いていて、そこから覗く格好で使う事もできます。

この鏡がいつの間にか無くなって、最近ではデスクライトのような照明で患者の口の中を照らします。

単なる照明器具と思ったら大間違い。
デンタルミラーと呼ばれ、次のような3つの革新的な機能があります。

まず第1に、医者の手や手術器具の影があまり出ない。

ライトは特殊な反射鏡で光を送りますが、鏡の表面に細かい湾曲がたくさんあり、いろいろな角度から光が差し込むので影ができにくい。

昔のヘッドミラーを頭につけていたのは、医者が頭の位置や角度を変えて、光の当て方を細かく調整していたのです。

このデンタルミラーによって、医者はそんな事は気にせずに治療に集中できるようになりました。

第2に熱が出ない。

治療中に歯茎から出血することがありますが、熱は治療の大敵です。
LED照明にしても、ある程度の熱が出ます。

このデンタルミラーは光のみを反射して熱は送りません。

第3に自然光を再現。

これにより動脈と静脈を見分けたり、人工の歯を入れるときに、他の歯と白さを合わせることができます。

こんなすごい機能があれば、歯医者さんが一斉にデンタルミラーを採用したのも当然でしょう。

また歯科医だけでなく、一般の外科手術にもこの技術が使われています。

手術のレベルアップに多大な貢献をしているものと思われます。

このデンタルミラーを開発したのが、千葉県柏市に本社を置く従業員約300名の中企業である『岡本硝子』で、この分野では世界シェア7割強を持ちます。

その他にもパソコン画面を投影するプロジェクター用の反射鏡など、光学分野では幅広い製品ラインを展開しています。

職人と技術開発と

岡本硝子は、1928(昭和3)年、現岡本毅社長の実父によって設立されました。

創業の翌年には、海軍から船舶用照明灯と信号ガラスの工場に指定されます。

戦後、海軍は無くなりましたが、造船所で使う色ガラスでトップシェアを取ったり、高速道路の水銀灯を一手に引き受けたこともありました。

一大転機となったのは、商品ディスプレー用の照明機器メーカーから、デパートなどの高級ファッション用品の展示用に、自然で鮮やかな色が出せないかという依頼を受けた事でした。

精度の高い硬質ガラスで湾曲した反射鏡を作る技術が高く評価されての依頼でしたが、簡単には進みませんでした。

ガラス自体の精密な成形は、熟練工が腕を振るいます。

この道一筋の熟練工になると、手で触れただけでガラスの微妙な具合が分かり、
「今日のガラスは機嫌が悪い」
などと言います。

湾曲したガラスの表面に特殊な膜をつければ、色々な光を出せることは分かっていましたが、膜のバラツキが大きすぎて使い物になりませんでした。

「問題は膜にある」として、従来外部に頼っていた表面処理膜の技術開発を自社で行うことにします。

苦労の末に、お椀状に湾曲した反射鏡の内側に均一に膜をつける技術を開発したのです。

岡本硝子の成功要因は、ひとえに照明にこだわり続けた点にあるのでしょう。

そして、顧客の求める照明を追求する事によって、ガラス成形の職人を育て、表面処理膜の技術を開発していきました。

同社の一途さこそ、世界トップシェアをもたらした原動力です。

超小型ベアリングでの世界一

もう一つ、昔の歯医者で思い出すのは、キーンと恐ろしい音を立てて歯を削る医療機器です。

その音と共に、刃先が口の中で激しく回転して歯をゴリゴリ削るので、これで“歯医者は苦手”という人も少なくありませんでした。

それが、最近の切削器具は音も静かになり、歯に激しい振動を与えることもほとんどなくなりました。

昔は1分間に数万回転でしたが、今は28万回転に上がり、それだけ歯を滑らかに切削できるようになりました。

この進歩を実現したのがベアリング(軸受け)の改良です。

高速で回転する刃とそれを支えるホルダーの間に、小さな鋼球が円周状に並んで入れられており、それが刃の回転を支えつつ回転時の摩擦を小さくします。

これが改良されたベアリング(軸受け)です。

鋼球が真円に近く、その大きさが揃っているほど、摩擦が少なくなって高速回転が可能となり振動や音も減少します。

そして、外径が6mm以下の超小型ベアリングのトップメーカーこそが、『NSKマイクロプレシジョン』です。

最近では外径2mm、内径0.6mmの世界一小さなベアリングの量産技術を確立しました。

その部品はナノ(100万分の1mm)単位の加工精度で製造されます。

この超精密加工を可能にしているのが、自社で開発した加工機械で、その設計、製作、さらには運転にも、この道数十年のベテランが携わっています。

完全自動に近い設備ですが、海外に持っていっても、国内のような超高精度の製品はできません。

一筋の道

同社の前身は、1949(昭和24)年に設立された『石井鋼球』で、ボールペンの先端部に入れる鋼球の生産を始めました。

1951(昭和26)年には、ミニチュア・ベアリング(超小型玉軸受け)の需要が将来伸びる時代が来ることを見越して研究開発、生産販売を開始します。

自動車、ハードディスク、ディスクプレーヤーなど、回転部を持つ製品は多く、それらには全てベアリングが使われます。

大手ベアリング会社が、大型から小型まで幅広い製品開発をするのに対し、同社は小型に特化することで研究開発費を押さえつつ、世界最先端の技術を深掘りしてきました。

1961(昭和36)年、日本精工と資本、技術販売の提携を結び、その資本系列には入りましたが、現在も創業者の子息が社長を勤め、独自の経営を維持して、子会社というよりパートナーの関係になっています。

高い技術を必要としない製品は海外生産に移しましたが、極小ベアリングの生産は国内に限定して、社員500人規模の中企業となっています。


同社の成功要因も、鋼球の生産から始め、それを応用して市場の求める極小ベアリング一筋に職人を育て、技術を深掘りしてきたからでしょう。

スクリューで国内で7割、世界で3割弱のシェア

船舶用プロペラ、すなわちスクリューの製作で国内で7割、世界で3割弱のシェアを持つのが、従業員約400人のナカシマプロペラです。

ベアリングと同様、高性能のスクリューは泡や波を少なくすることで、エネルギー効率を良くします。

ナカシマのスクリューは発展途上国の製品より割高ですが、節約できるエネルギー代で1,2年の航海で元が取れてしまいます。

また、音や振動が少ないので、1ヶ月船上で暮らす船員にとってもストレスが多くありません。

こうした高性能のスクリューを作るには、10m近くある大きなプロペラの翼を、100分の1mm単位で研削していく技術が必要です。

僅か数mmの誤差でも、泡が発生したり振動が大きくなったりします。

精度上、最も大事な研削作業は、この道数十年の熟練工が行います。

手の感触を頼りに、100分の1mmレベルの正確さで削っていく作業で、コンピュータ制御の機械でもできません。
だから外国企業も真似できません。

また、スクリューは船の設計に合わせて、千差万別の設計と製作が必要です。

中島社長は、
「100万通りの要求に100万通りのプロペラでお応えします」
と語ります。

どんな顧客のどんな要求にも応じるという徹底した顧客第一主義を貫いています。

「まだまだ中国や韓国には負けない」
と、中島基善会長は言っていますが、どんなスクリューも設計・製作する専門技術と熟練技能には、何年経っても追いつけないでしょう。

「プロペラに生きる」という一途な姿勢

ナカシマプロペラの前身は、中島会長の祖父である中島善一が岡山で1926(大正15)年に設立した『中島鋳造所』です。

善一は、当時、まだ帆船が多かった漁船がエンジン付きの船に替わると予想して、安価な漁船用プロペラの製造・販売に乗り出しました。

妻の松子は乳飲み子を背負って、瀬戸内海の漁師町でプロペラを売り歩いたといいます。

戦時中は軍の要請で上陸用舟艇のプロペラを開発し、その製造を一手に引き受けましたが、終戦間際の大空襲で工場は全焼し、敗戦によって軍からの需要はゼロとなりました。

しかし、プロペラメーカーとしての再起を決意し、旧海軍のプロペラ設計者を雇い入れて技術の向上を図りました。

漁船用以外の大型プロペラにも進出し、専門メーカーとしての地位を確立していきます。

高度成長時代には、日本の造船業界が世界トップを占め、ナカシマも国内第2位まで登りつめましたが、どうしても抜けなかったのが神戸製鋼所のプロペラ部門でした。

しかし、1970年代以降、日本の造船業界は韓国の追い上げで激しい不況に追い込まれ、神戸製鋼所はプロペラ事業から撤退します。

他にいくつも事業部門を持っている大企業だからこそできる決断ですが、プロペラ一筋のナカシマには他に道はありません。

中島会長はこう語ります。

<私の会社はプロペラの専門会社で、どんな不況でも撤退することはできない。
ここで生きるしか、ここで頑張るしかなかった。
そんな「プロペラに生きる」という一途な姿勢が、世界トップシェアを取れた最大の理由でしょう。>

その一途の姿勢で、コンピュータ制御の大型翼面加工機などの先端機器を取り入れ、先端技術と熟練技能の組合せで、大型プロペラの精密加工に挑戦していきました。

それが今日の世界トップシェアの原動力となったのです。

『小さな世界一企業』の共通点

反射鏡、極小ベアリング、大型スクリューの3つの分野で、小さな世界一企業を紹介しました。

グローバル化の時代には、このような他社の真似のできない技術を持つ中小企業が、世界の大企業に部品や材料を売り込めるのです。

この3つの企業に共通するのは以下の点です。

1.一つの事業分野に一途に徹する

2.その分野で顧客のどんな要求にも応えようと挑戦する

3.そのために長期的に技術を開発し、技能を深める

こうした姿勢をとるには、色々な事業分野に取り組む大企業よりも、一つの分野に集中する中小企業の方が向いています。

また、長期的に技術開発や技能の深掘りに取り組む事は、終身雇用制度が根強く残っている日本企業ならではの得意技です。

我が国には創業100年を超える『長寿企業』が10万社以上あります。

世代から世代へと一つの事業を継承していく一途さは、我が国の国民性であり、それが『長寿企業』にも『小さな世界一企業』にも現れています。


こうした『小さな世界一企業』が、日本にはたくさんあります。

世界を制した中小企業には、船舶用冷凍庫で世界シェア8割の『前川製作所』、高級猟銃での世界的メーカー『ミロク』、サッカーのワールドカップなどで審判が使う笛を一手に引き受けている従業員わずか5人の零細企業『野田鶴声かくせい社』など、元気な世界一企業がたくさんあります。

こういった『小さな世界一企業』が多数あることは、我が国の誇りであり、また強みです。

中小企業は日本の雇用の88%を占めます。
全国津々浦々の中小企業が、それぞれの事業分野で『小さな世界一企業』を目指すことが、精神的にも物質的にも豊かな国作りにつながっていくでしょう。

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