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2021.7.20 日本では教わらない禁断の学問

「リメンバー・パールハーバー」
アメリカ全土でこのスローガンを掲げ、第二次大戦の参戦に雪崩れ込んだ1941年。

世界中が対日本に向かっている中、実はただ一人、20年も先に起きる『東西冷戦』を予測していたアメリカの学者がいました。

その学者が語ったのは、驚くほど正確に未来を予測できた理由が“ある学問”にあるということ。

今回は、日本では教わらないその学問について書き綴っていこうと思います。

1941年12月31日…

「アメリカは、この戦争が終わったら日本と同盟を組む必要がある」

真珠湾攻撃から僅か3週間後のこと。

アメリカで行われていた学会では、怒号が飛び交っていた。

「そんな馬鹿げた提案があるか!」
「恥を知れ!」

会場にいた学者たちの怒りの矛先は、一人の男へ…
彼は、自分の研究成果の発表を終えた後、日米同盟の必要性を説いた。
この発言が物議を醸しだした。

それもそのはず。

世間では、卑怯な騙し討ちを行なった日本に対し、
「リメンバー・パールハーバー」
という掛け声とともに日米開戦へ突入。
日本に対し、憎悪の感情がピークに達している時期だった。

その風潮をものともせず、彼は日本との同盟の重要性を主張。
批判を浴びた人物の名は…

ニコラス・スパイクマン。
ジャーナリストを4年務めた後に学問の道へ。
大学に入ると、学士から博士号までをたった3年間で修了。
その後、35歳の若さで名門イェール大学の教授にまでなった学者だ。
ではなぜ、彼は日米大戦の最中、周りの学者や世間から非難を浴びるようなことを発言したのか?

実は彼には、日本との戦いを終えた後、アメリカにとって新たに脅威となる国が、この時すでに見えていた…

その国こそ、スターリン率いるソ連でした。

当時のソ連は、アメリカを筆頭とする連合国の一員であり味方の存在。
そのような状況下で、ソ連が敵になることなど誰も想定していない。

そのため、スパイクマンの主張が周囲に受け入れられることはなかった…

しかし彼は、この主張が、アメリカの未来には重要であると信じ、論文の執筆活動に勤しんだ。

この活動を通じて、一部のアメリカ上層部に彼の主張が伝わり始めた頃、彼は激務により病に冒されることになる。

死を悟った彼は、教え子たちに出来る限りの知識を残した。その中には、約80年後の未来を予測した内容も含まれていた。

そして、第二次大戦の終わりを待たずして、彼は49歳という若さで亡くなってしまう…

スパイクマンの死後、教え子たちは、彼が遺したノートや論文、他の知識人たちとの手紙のやり取りなどを基に、彼の理論をまとめた一冊の本を出版。

そして、この本が戦後の世界情勢を正確に的中させることとなる…

1945年

日本に原爆が落とされ、第二次大戦が終結。

アメリカは世界唯一の超大国になったかに思えたが、スパイクマンの予言通り、ソ連が台頭してきた。

ソ連は東ヨーロッパの国々の共産化に成功。
その影響が、どんどん東へ及んだことで、アメリカはその脅威が顕在化してきたことにはっきりと気づきだした。

そして、アメリカVSソ連による二大国の冷戦が始まったのだ。

しかし、冷戦が始まってからというもの、アメリカのその後の展開は思い通りにいかず…
朝鮮戦争では、まさかの引き分け…
一方で、ソ連は原爆・水爆実験に成功し、技術面においても破竹の勢いでアメリカに追いつき、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

このような状況下でアメリカの高官たちは、スパイクマンの言葉を思い出す。

「ソ連と対抗するために、日本と同盟を組むべきだ…」

アメリカは打倒ソ連を掲げ、国家を挙げて動き出した…

スパイクマンの主張の通り、迅速に日本と同盟を組み、1970年代には、共産主義国の中国をも味方につけて、「ソ連封じ込め戦略」を行っていった。

このアメリカの「ソ連封じ込め戦略」は、冷戦が終結する1989年まで続くことになる。
あまり知られていないが、日米同盟・米韓同盟など、アジアでの同盟の創設は、全てこの戦略の一環として行われたものであり、それはかつて、スパイクマンが提唱した理論に端を発していた。

その後、ソ連は崩壊…
アメリカは冷戦を勝ち抜くことができた。

冷戦という世界を二分する争いの土俵の上で、やっとスパイクマンの理論が陽の目を浴びることとなった。
さらに、この理論は、

将来、中国がパワーをつけ台頭してくること

その先には、インドが大国化してくること

なども予測していたことから、現在の対中政策、さらには未来のアメリカ国家戦略を考える上でのバイブルとして今も残っている…


世間から批判され、若くして亡くなった天才学者だったスパイクマンは、戦後の世界情勢の予測を極めて優れた精度で行なっており、その予測通りに世界は動いていきました。

そして、アメリカの高官たちは、彼の理論を見直し戦略を立てたことで、宿敵ソ連を倒すことができたのです。

では、なぜそんな予測ができたのでしょうか?
決して彼が預言者だったわけではありません。
スパイなど、他国から情報を貰っていたわけでもありません。

そのヒントは、名門イェール大学で彼が研究していた学問にありました。それは、

Geopolitics

彼は、支配者の学問と呼ばれる“地政学”を極めたエキスパートだったのです。

「スパイクマン」という学者の名前はもちろん、つい最近まで日本ではあまり知られていなかった地政学という学問ですが、ソ連に対抗するため、日米同盟をはじめとするアメリカの外交政策のベースとなっていたのは、彼の地政学理論でした。

そして、彼が生前に予測していたことは、ソ連の台頭だけではありませんでした。

「この先、中国が脅威となり、南シナ海・東シナ海といった周辺海域を支配しようとする」
と予測。
実際、彼の死後、77年後に現実化しています。

さらには、

当時、発展する兆しもなかったインドに関しても、
「将来、インドが大国化する可能性が高いだろう」
いう予測も残しています。

実際にインドは、2020年代に総人口で中国を抜いて世界最大になると国連が言及しており、経済力を示すGDPでも世界5位、軍事費では中国に次ぐ世界3位となっており、大国としての影響力を増しています。

しかし、もう1度言っておくと、

スパイクマンが亡くなったのは、1943年の日米大戦中。
この時代に中国やインドの発展を予測していた人は、ほとんどいなかったでしょう。

このように、世界の未来を正確に予言できていたことを考えると、いかに彼が編み出した地政学の理論が優れていたか分かるはずです。

かつてのフランス皇帝ナポレオンも
「一国の地理を理解すれば、その国の外交政策が分かる」
というセリフを残したと言われおり、揺るぎない事実を示してくれる地理は、各国の動きを知る上で必要不可欠です。

マハン、マッキンダー、そして今回紹介したスパイクマンを含めて、重要な3人の地政学者の理論を“古典地政学”といいます。

この『古典地政学』を学ぶことこそが、地政学を理解する上でポイントとなってきます。

何かを学ぶ時には、その基礎を知ることがとても重要です。
地政学を学ぶなら、その源流である古典地政学を知ると、世界情勢の見方が地図を通してクリアになるでしょう。

私も地政学を学び始めた時、書店へ行って多くの書籍を読みました。
しかし、この古典地政学に詳しく触れているものは少なく、図解だけで解説している書籍がほとんどで、根本の考え方や思考を手に入れることはできませんでした。
ですが、古典地政学をしっかり勉強し始めてから、自分で世界情勢を読み解く視点が広がっていく感覚を覚えました。
なので、皆さんが、もし地政学を学ぶのでしたら、ぜひ基礎から学んだ上で、各国の思惑や未来を考えて頂きたいと思います。

基礎を学び、土台ができてこそ、自分自身で考えることのできる視点が身につくはずです。

逆に、この基礎を知らないと、世界で起きていることの理由が見えてきません…
例えば、

一見、思いがけない決断をしていたようにも思えたトランプ前大統領の強硬な対中政策

尖閣諸島への領海侵犯を繰り返す中国の習近平の動き

北方領土返還を断固として認めないロシアのプーチンの行動

も、ただテレビで流される情報だけを観ていては、その裏側に秘められた彼らの思惑を理解することはできません。

しかし、地政学という視点を通し、それらのニュースを見ることで、
一体なぜ彼らが、そのような動きをするのか?
地政学の基礎となる理論に基づき、自分なりに仮説を立てながら各国の思惑を予想できるようになります。

そうすると、地図を通して、バチバチと国の覇権を懸けて争う“世界のパワーゲーム”が皆さんの目の前に広がってくるでしょう。

過去の歴史を分析すると、大国が大きな決断を下すときや国の存亡の危機になった時に地政学が活躍しています。
いま米中戦争が激化し、先行き不透明なこんな時代だからこそ、私たちは学問をもって危機を乗り越えていかなければならないと思います。

今、私たちに重要なことは、国の未来を一部の政治家に委ねるだけにしないことではないでしょうか。

正しく世界情勢を理解し、自ら考え、自ら声を上げていくことが日本の進むべき道を変える…

わが国では根付いていない“支配者の学問”と向き合い、日本のあるべき姿を考えてほしいと思います。

そして、地政学を司る基礎をベースに国の支配者の頭の中、日本が取るべき行動、今後世の中で起こることなど、今まで見えなかった新しい世界を見る視点を手に入れてほしいと思います。

今回も記事を最後までお読み頂きまして、有り難うございました。

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