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せいてんのへきれき

4.母


右脳と左脳という言い方をすれば左脳は理性的に100%理解している。
その上でこれから自分や家族に起きる事、これから先何をすべきなのかを
しっかりと考えている。
右脳はそれを受け入れ切れていなかった。
これは夢に違いない、私にそんなことが起こるはずがない
むしろそんな風に考えることで私を護ろうとしているかのように

この感覚はあの時と似ている

半年前の2月2日、
電話が鳴った。
日本の兄からだった。

珍しいなぁと思いつつ
『どうした?』と電話を取る。

すると腹から絞り出すような、でも叫ぶような声で兄が言った。
『おかんが倒れた、あかん!!』
ほんの数秒時間がとまった。
兄の言葉がスローモーションのようだった。

お母ちゃんが倒れた?! 
心臓が悪かったから、日本は寒いし、それが原因にちがいない。
倒れて病院に運ばれたのか?じゃあ私は日本帰って看病しなきゃ。

あかん? 
あかんて....そんな深刻な状況? でも生きてるんでしょ?
お父ちゃんの3回忌に一緒にお墓立てるって言ったから死ぬわけないでしょ?お母ちゃんはまだ死なないはずだよ。
兄ちゃんどうなってんの?

たった数秒の時の中で私はこれだけのことを考えていた。
しかし兄の様子から母が今深刻な状況であることだけははっきりと
理解できた。

『わかった、とにかくお母ちゃんを頼む。』

それからすぐに
手当たり次第あたりにあったものをスーツケースに詰め込んでLAXへ向かった。
日曜の夕方だったために旅行会社も航空会社も連絡がつかない。
もう空港カウンターで直接交渉するしかなかった。

その夜の深夜便に乗れないという選択肢は私にはなかった
なんとしてもそれに乗って、
明日の朝、母の元にいる自分しか想像できなかった。



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