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【短編小説】音の鳴るラー油

音の鳴るラー油を買った。


振ってみる。


リンリンリン


シャンシャンシャン


どうやら中のスパイスが鳴っているらしい。


リンリンリン


シャンシャンシャン


なんだか涼し気な音色だ。


せっかくだから今日の夕飯は餃子にしよう。


ジュー

ジュワ

パチパチパチ


焼けた匂いが漂ってきた。


お皿に盛り、タレを準備する。


ラー油はたらしても音が鳴る。

リンリンリン

シャンシャンシャン

ポトポトポト

ハラハラハラ


さあさあいよいよ実食だ。


カリッ

リーン

ジュワ

シャーン


カリッジュワ

リーンシャーン

カリッジュワ

リーンシャーン


なんだか楽しくなってきた。

噛めば噛むほど口の中で踊りだす。


カリッジュワ

リーンシャーン

カリッジュワ

リーンシャーン


しばらく食べ進めていると少しずつやかましくなってきた。


カリッジュワ

リーンシャーン

カリッジュワ

リーンシャーン


噛むたび骨を伝って脳に響く


カリッジュワ

リーンシャーン

カリッジュワ

リーンシャーン


さっさとご飯を食べ終えて、早く静かになりたくなった。


リーン…シャーン…


まだどこかで鳴っている。


リーン…シャーン…


早く静かにしてくれ。


リーン…シャーン…


しばらく経っても静かにならない。

もういいとにかく寝てしまおう。


シャカシャカシャカシャカ

グチュグチュ

ペッ


寝る前の歯磨きを済ませると、音は一切なくなった。

窓の外を走るバイク。救急車のサイレン。

毎日聞こえる日常が、また耳に入ってきた。


なんだか少し寂しいような、孤独がわずかに襲ってきた。


ラー油の瓶を手に取り、ほんの少し振ってみた。


リンリンリン

シャンシャンシャン


これくらいがちょうどいい。


寂しい夜はこれで乗り切ろう。

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