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【短編小説】とけた牛乳





牛乳が溶けていた。






目を疑った。




瞼をこすってもう一度見ても、


やっぱり牛乳が溶けていた。



牛乳がなんなのかわかっている。料理に入れるとまろやかになるアレだ。

形状は液体。溶けるというのは固体に対して使う言葉。牛乳にはふさわしくない。



しかしながら目の前の牛乳は溶けていると言わざるをえなかった。



試しに口に入れてみようか。

胃の中で空気が踊るのを感じつつもそれに吸い寄せられる体を止められなかった。



牛乳は無味だった。



腐敗していたら酸化した匂いはするはずだし、きっと吐き出したくなるだろう。


しかしその牛乳は無味だったのだ。例えるなら水溶き片栗粉のような、味があるともないとも言えない液体だった。





なぜか自分の体はこれを牛乳だと言った。





一度体に入ってしまえばもう自分のものだった。

残りの溶けた牛乳も自分の子のように愛おしかった。




この子を守らなきゃ。

そう思って残りの牛乳を全て飲み干した。





胃の中に入っていく牛乳が自分のおへそから弾けだしたのがわかった。



どうして。私はあなたを守りたかったのに。





その牛乳は風船に入った空気のように自分から夜空へと飛び立った。





天空で揺らめくその白が自分のことのように誇らしかった。




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