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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
心の在り処はどこでしょう?
長い歴史の中でも、これはなかなかの難問です。
心が故に美しくなることもあれば、
それが故につらく苦しくなることもある。
心のあり、なしは、人間性が問われる題材です。
今回は、心に関するお薬です。
では、今日もお薬箱を開けてみましょう。

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「心を消す薬」

実に極端な考え方ですが、
背信の徒、逆賊、裏切り者。
これらを出さないためには、
心がなく、ただ忠実に動く者がよい。
末は、高い税を課しても文句を言わず、
ただ、ただ働き続ける国民にするなど、
とんでもない発想ですが、
どうやら、ほんとうに、
そんな命令を出した皇帝がいたようです。
中国は、宋の時代。
980年のことです。

「宋学では語句の解釈のような「瑣末な」問題には拘らず、
この世界を司る天理の解明を追求する」

古い学問から、広い世界に目を向けた文化や、
科学にも目が開かれようとしていました。
しかし、たた、争いの種は尽きず、
宮廷では、あらゆる陰謀が渦巻いていたのです。
北栄の初代皇帝、趙匡胤(ちょう きょういん)は、
人心の乱れを憂い、また、不安に苛まれていました。
そして、宮廷医であり、薬師でもあった、
博識、博学の阿経殷(あきょういん)から、
人心は、病によって乱れ、悪に染まると注進を受け、
その病を直ちに治す薬を調剤するように命じました。
心に効く薬とは?
現代で言うところの、向精神薬などでしょうか?
いえ、そうではありません。
阿経殷は、心の存在を消すことで、
余計な辛さや苦しみなく、
皇帝に仕える人間を作ろうとしたのです。
果たして、そのような薬は調剤可能なのか?
そして、心がなくなるということは、
どういうことになってしまうのか?
目に見えないものが、消えたかどうかなど、
どうすればわかるのでしょう?
阿経殷は、心の存在を確かめるために、
78の設問を用意しました。
その設問に合格した者は、
薬の効果が表れている証拠としたのです。
5年の歳月を有し、
1000人以上の被検体の生命を奪い、
ようやく完成しました。
78の設問にも合格した者は、
わずかでも、7人はいたと記録に残されています。
その7人のうちの1人は、
なんと、皇帝の嫡子であったとのこと。
言われるままに学び、
言われるままに鍛錬し、
すべては、なすがままであったそうです。
阿経殷は、皇帝より長く生きたのですが、
経緯は定かではありませんが、
次代の皇帝から処刑されたそうです。
この調剤法は、100冊もの資料となり、
なぜか、ペルシャの王宮の書庫で、
発見されました。
では、調剤料をご紹介しましょう。

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「心を消す薬」処方

霊猫香・・・・・・・・・・・小碗一杯
海狸香・・・・・・・・・・・小碗一杯
龍涎香・・・・・・・・・・・小碗一杯
丁香・・・・・・・・・・・・小碗一杯
伽羅香・・・・・・・・・・・拳大一個
薔薇水・・・・・・・・・・・小碗一杯
蛇の脳石・・・・・・・・・・一個
厚朴・・・・・・・・・・・・樹皮一枚
忍冬の葉・・・・・・・・・・十枚
天麻の根塊・・・・・・・・・二個
連翹の実・・・・・・・・・・十二個
麻黄の地上茎・・・・・・・・十本
刺五加の根茎・・・・・・・・掌分
猪苓の菌核・・・・・・・・・五個
毒蝇伞・・・・・・・・・・・・・二本

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諸注意
香は、銀版の下で燻らし、
銀版に付着した薫煙を使用します。
蛇の脳石は、粉砕して使用します。
厚朴、忍冬、天麻の根塊、連翹の実、
麻黄の地上茎、刺五加の根茎、猪苓の菌核、
毒蝇伞は、清い水で煎じます。

50751777-グランジ背景、eps10-のベクトル図にガラスのハート

備考欄
蛇の脳髄にある脳石は、かなり入手困難です。
中国の辺境地には、毒蛇の宝庫という地方があり、
そこから大量の毒蛇を仕入れて、
辛抱強く探したと言われています。
しかし、心がなくなるというのは、
人としてどうでしょうか。
人が人ならぬ何かになってしまうのでは?
記録によれば、まるで人形のように表情がなく、
ただ、淡々と言われるままに行動するとあります。
教えられた思考だけで生きていくとなれば、
たしかに、背信行為や逆賊的な行為は、
自ら働くことはないでしょう。
しかし、なんとも不気味ではありませんか。
感情がない、何も感じない、という様は。
阿経殷は、皇帝から、嫡子に薬を服用させるようにと、
命じられます。
玉座を譲った後にも、傀儡としていたかったからでしょう。
しかし、心を亡くした支配者は、
常に無表情で、冷酷極まりなく、
残忍であったそうです。
心ある家臣と数人の衛兵たちは、
皇帝の入浴時を狙って殺害し、
恐怖の時代を終わらせたのです。
心を亡くすという効果は、
薬ではなく、毒と言えるのかもしれませんね。

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