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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
お薬には、内服薬と外用薬がありますね。
飲んで効く、貼って、または、塗って効く。
いえいえ、昔は、微粉状のお薬を
ストローのような管で、ふっ!と吹き付ける、
噴霧剤もありましたし、
液状のお薬で、神聖文字を書くという、
変わった方法もあります。
では、今日も、お薬箱を開けてみましょう。

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お薬番号・42

「自分をもう一人作る薬」

これは、俗に言いますところの、
ドッペルゲンガー現象とは違います。
お薬の効果によって、あなたと瓜二つの者を
作りだすのです。
ドッペルゲンガー現象は、
そういうものではありません。
このお薬は、アラビアの王侯貴族が、
暗殺の危険のある場所に、自分の代わりに登場してくれる、
影武者のような存在として、利用しました。
学者のインクは、殉教者の遅りも尊いと言われた、
イスラーム黄金時代。
ハーラービー・ハルドゥームという、
貴族出身の医師が、このお薬の配剤を発見しました。
スルタンの命を受けてのことですが、
成果を挙げられたのは、スルタンの死後でした。
約20年の歳月がかかったのです。
記録では、中国やインドからも、
密かに、薬剤を運ばせていたとか。
ギリシャの医学書を翻訳した、
カルタゴのコンスタンティヌス・アフリカヌスの著書にも、
ハーラービーの名前は、登場します。
スルタンの庇護の元、
お金に糸目をつけず、
効果な薬種を収集した結果、
このお薬は、完成しました。
ハーラービーは、お薬を依頼したスルタンの座を継いだ、
若き王子から、お薬を献上するように命じられました。
しかし、ハーラービーは、
王子の放蕩ぶりを見ていましたので、
善いスルタンになることはないであろうと絶望。
お薬の調剤法とともに、インドへと逃亡しました。
約種のやり取りを任せていた商人の館に匿われ、
亡くなるまで、インドで医者として働いたそうです。
調剤法を記した本は、ラジャスタンにある、
マハラジャの宝物庫から、発見されました。
では、調剤料をご紹介しましょう。

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「自分をもう一人作る薬」処方

ギレアドバルサムの根汁・・・・・・・・・小匙2杯
コブラの胆汁・・・・・・・・・・・・・・・・3匹分
ブラッドルート・・・・・・・・・・・・・5本
アサガオの種子・・・・・・・・・・・・・50粒
大ガランガル・・・・・・・・・・・・・・3本
阿片チンキ・・・・・・・・・・・・・・・小匙2杯
大麻油・・・・・・・・・・・・・・・・・小匙3杯
アクティモライト・・・・・・・・・・・・小粒1個
タランチュラの毒・・・・・・・・・・・・小匙1杯
ベラドンナ・チンキ・・・・・・・・・・・小匙2杯
ヒヨスの根汁・・・・・・・・・・・・・・小匙3杯
涙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一滴
髪の毛・・・・・・・・・・・・・・・・・3本

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諸注意
ブラッドルート、アサガオの種子は、よく磨り潰して使用してください。
アクティモライトは、微粉末になるまで砕きましょう。
コブラの胆汁は、新鮮さが命です。
もちろん、鉄や鉛などの武器は使用不可ですので、
プロの方に、押さえつけ方などを学ぶことをお勧めします。
素人が笛を吹いても、コブラは踊りません。
涙と髪の毛は、本人のものに限ります。

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備考欄
あなたが、あなたをもう一人登場させたいのであれば、
あなたの涙と髪の毛をお薬に入れてください。
このお薬は、いわば変身薬です。
誰かに飲ませれば、その誰かは、
上から下まで、あなたにそっくりになるのです。
忙しい日々に、つい、もう一人自分がいたらなぁ、なんて、
考えたことがあるなら、
それなりに役に立つかもしれませんね。
しかし、中身は、元の人間そのままですから、
才能や技能までは、生き移しにはなりません。
できるだけ、腕が良くて、頭もいい誰かを探すのが得策です。
あなたの代わりに、忙しく働いてくれるなら、
安楽に過ごせること間違いなしですね。
まあ、もう一人の自分の反乱が、
絶対に起こらないとは言えませんので、
それなりの利益や報酬をしっかりと考えましょう。
身代わりの人生を全うしてくれるなんて、
ご奇特な人は、滅多にいないでしょうから。
昔ではありませんから、
邪魔になったら、抹殺!とはいきませんよ。
自分の死体を見るなんて、
いい気持ちはしないでしょう。
あなたの存在をあなたが消してしまうのです。
哲学的な悲劇は、避けたいものですね。

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