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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは。
「不思議な薬箱を開く時」です。
何かと変化の後は気が落ち着かないもの。
災禍が早く過ぎて欲しいですね。
心身ともにご試合ください。
さて、今日もお薬のご紹介です。
少しでもお気に留めていただけるとうれしいです。
では、お薬箱を開けてみましょう。

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「成長を早める薬」

現代においては、
昔ほどはうるさく言われなくなってはいるものの、
後継ぎ、後継者の存在は、待たれるようです。
王制、華やかなりし時代では、
もちろん、世継ぎの男子は必須。
女王が支配できる国家であっても、
なぜか、王子の誕生が期待されます。
男の子と女の子の産み分けのお薬は、
その内、また、ご紹介させていただくとしまして。
今回は、成長を早めるお薬をご紹介いたしましょう。
なんのために?
世継ぎの王子の誕生を待つあまり、
すっかり歳をとってしまった王としては、
あまりに幼い後継者だと、
摂政や、後見人が必要となり、
せっかくの後継者が、
傀儡と化してしまう危険もあります。
早く物心がついて、
相応の教育を受けられるくらいに成長してほしい。
そんな王の願いが、
このお薬を開発、製剤させました。
依頼者は、11世紀の初めより、
ガズナ朝を生きた北インドのマハラジャ、
タンガ・ディーウです。
気が遠くなりそうな資産と土地を
子々孫々に残し、伝えたく、
日頃から願っていましたが、
どういう神の悪戯か、
生まれる子供は、女の子ばかりです。
ようやく、男の子か誕生したのは、
タンガ・ディーウが、77歳の年でした。
歳を取ると偏狭になると言いますが、
忠実な臣下にさえ、可愛い一人息子を任せる気になれず、
自分が生きている内の即位に執着しました。
しかし、後継者はまだ、生まれたばかりの乳飲み子です。
後継者の母親は、正妻ではなく、
愛妾のナーガラーという、若い娘でしたから、
殊更に、タンガ・ディーウは心配しました。
隠遁の聖者、アウーラーンの噂を聞いたのは、
タンガ・ディーウが高齢のために、
倒れてしまった後でした。
アウーラーンには、不思議な力があり、
人里離れた険しい山間に暮らしながら、
訪ねてきた人々の病苦を癒しているとのことでした。
タンガ・ディーウは、何度も使者を送りましたが、
アウーラーンは、自らは聖域から出ることはしないと、
拒みつづけました。
そして、ついに、42人目の使者が
薬剤の処方が書かれた巻物を持ち帰りました。
巻物は、蝋で封印が施してあり、
添えられた手紙に、こう書かれていました。

「この薬は、神薬なり
この国の民草を不幸にする時、
猛毒となりて、服する者を殺さん」

つまり、良いことのために働く者でなければ、
薬はたちまち毒となると言うことでした。
長年、自分に忠義を尽くしたきた臣下を余所に、
聖者とはいえ、顔も見たことのない者が届けた薬を信じて、
後継者に飲ませる父親も父親ですね。
調剤の巻物は、北インドの大学の書庫に残されていました。
かなり古いものですから、
厳重に保管されています。
さて、お薬の効果はいかに。
では、巻物に書かれていた調剤料をご紹介しましょう。

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「成長を早める薬」処方


タガロの子袋(ウツボカズラの一種)・・・・・・・・3本
コブラ毒のエキス・・・・・・・・・・・・・・・・小匙3杯
ニクズク実・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5個
人の羊膜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3枚
初子の母乳の醍醐(醗酵物)・・・・・・・・・・・・・・・大匙5杯
眠り鮫の肝油・・・・・・・・・・・・・・・・・・大匙2杯
象の胎児の脂肪・・・・・・・・・・・・・・・・・小塊1個
牡山羊の睾丸末・・・・・・・・・・・・・・・・・小匙2杯
睡蓮の蜜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・小碗1杯
ラガ島の真珠末・・・・・・・・・・・・・・・・・大1個
カオカオの種子・・・・・・・・・・・・・・・・・10個
トケイソウの根汁・・・・・・・・・・・・・・・・大匙5杯

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諸注意
コブラの毒から蒸留して得られるエキスを
小匙3杯分を手に入れるためには、
約150~200匹のコブラが必要です。
母乳は、初めて妊娠した女性のものに限ります。
ラガ島は、南インドの西岸に位置しますが、
野生種の真珠ですから、
採集に多少の苦労は覚悟しておいてください。
カオカオの実は、実より種の方が大きい果実で、
すばらしく良い香りがしますが、
猛毒ですので、間違っても口にしないように。

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備考欄
記録によりますと、
タンガ・ディーウは、
調剤の完成を見ないまま、亡くなったとか。
乳飲み子であった王子、
ファイーリは、薬を服用させられたのでしょうか?
はい、記録では、服用させられたと記されています。
王子は、3か月と経たない内に、
青年にまで生育したようです。
ファイーリの母親であるナーガラーは、
タンガ・ディーウの疑いや不信を無駄にした、
素晴らしい養育者であり、
優秀な教師を揃えて、
ファイーリを厳しく教育したとあります。
純真そのもので、いたって正直、
神と母に忠実な、善き王であったとありますが、
残念なことに、跡継ぎにまったく恵まれませんでした。
30代だというのに、
老人のような様となり、
40歳になる前に、老衰で亡くなったからです。

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