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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは。
「不思議な薬箱を開く時」です。
さて、前回は、瞳の色を変える効果があるお薬でしたね。
今回は、そのお薬と併用したくなるお薬と言えます。
肌の色と言いますのは、
生まれた民族によって致し方ない色があります。
遺伝子の気紛れ、生命の神秘から、
予想外の肌の色で誕生する例もありますが、
いたって自然に、親の肌の色を受け継ぎます。
さて、そんな大自然の法則に逆らうには?
では、お薬箱を開けてみましょう。

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「肌の色を変える薬」

アフリカは、ニジェール川湾曲部を中心に、
西スーダンのほぼ全域を支配したソンガイ帝国の支配者、
アスンニ・アリ王は、栄華を誇る帝国らしく、
さまざまな国から、女たちを献上させ、
後宮に住まわせていました。
王の肌は、黒檀のように深く黒く、
黒豹のように精悍であったと伝えられていますが、
彼が心から愛した美女は、
カルタゴ生まれの黒い髪、白い肌の娘でした。
名をイディーシャ、白い峰と言われていたほどです。
イディーシャは、たしかに後宮では右に並ぶ者なき、
美しさでしたが、あまり良い教育は受けておらず、
アスンニ・アリ王の黒い肌を恐れていました。
王との間に子を設けると、
王のように、闇夜のような黒い肌になることを
嫌悪していたのです。
後宮中の女たちが羨むほどの贈り物を
王から受けていても、
婚姻を結ぶことは拒んでいたのです。
アスンニ・アリ王は、アラブから招いていた高名な学者、
イフリーカに、厳命を授けます。

「肌の色を変える薬を作るのだ」

これには、イフリーカも恐れるやら、呆れるやらでした。
もう、100年以上も黒い肌の支配者が、
黒い肌の国民を治めてきたというのに、
白い肌になる薬を所望など、
それが、この国にとって、どのような良いこととなるのか?
イフリーカは、王が寵愛している白い肌の娘のせいであることに、
心痛めながらも、自身の命を守らねばならず、
薬の製剤法を探しました。
薬種を探す旅に東奔西走し、
40代だというのに、髪は真っ白になってしまったらしく、
王の肌より先に、イフリーカの髪が白くなったと、
王宮では、陰で嘲笑の的になっていました。
その苦労の甲斐あってか、
東の果てにある国から、何巻かの薬事の巻物を入手することができました。
しかし、それに描かれてある絵や文字を解読しても、
薬種の殆どが、東の国々にあるものでした。
イフリーカは、その事実を王に報告しましたが、
なんと、王は、イフリーカに東の果てへの旅を命じたのです。
絶望しつつも、イフリーカは、
東へと向かう商人たちと共に旅立ちました。
旅慣れた商人たちは、
アラブからソンガイ王国への旅しか知らないイフリーカには、
厳しい旅路に耐えられるはずはないと忠告しましたが、
王の命令は絶対です。
行くも、留まるも、死が待ち構えていたのです。
しかし、商人たちに助けられながら、
幾度となく病にも倒れつつ、
どうにか、こうにかインドへと到着しました。
そこは学者です。
イフリーカは、見たこともない薬種や、
天文の知識に震えるほど感動し、
王からの厳命も忘れかかるほどであったとか。
薬事に記された薬種を搔き集めただけではなく、
さまざまな珍しい薬種や天文の知識が記された書を手に入れました。
3年半の月日をインドで過ごし、二度目に来訪した商人たちと、
ソンガイ王国へ帰国しました。
さて、薬は完成を見たのでしょうか?
では、薬事の巻物に記されていた、
調剤料をご紹介しましょう。

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「肌の色を白くする薬」処方

クンチュル樹皮・・・・・・・・・・掌大5枚
乾燥させたカプラガ・・・・・・・・4個
クレムパ・プチュ根・・・・・・・・3本
クンイル実・・・・・・・・・・・・5個
ジェニトゥリ実・・・・・・・・・・10個
デリマ・プティ子・・・・・・・・・100個
ジョクリム根・・・・・・・・・・・5本
サバラントゥ実・・・・・・・・・・5個
クベバ・・・・・・・・・・・・・・3本
スリガディン花部・・・・・・・・・20個
カユ・マニス樹皮・・・・・・・・・掌大5枚
একটি কুমারীর ঋতুস্রাব・・・・・・・・小匙2杯
羊の羊膜・・・・・・・・・・・・3頭分
ションケ・スワリ・・・・・・・・小4本

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諸注意
珍しいことに、毒素は殆どありません。
煎じる際にも、防毒用の支度は無用です。
しかし、イフリーカか訳せなかった調剤料が一つあります。
একটি কুমারীর ঋতুস্রাবです。
地元民が、イフリーカの求めに応じて持って来たのは、
とてもではないが、見るに、触るに耐えられない物であったと記されています。
敬虔なムスリムであったイフリーカには、
宗教的に、接触が不可能な薬種もあります。
多分ですが、豚の血肉などではないか、とも思われますが、
古書を紐解きますと、北インドのベンガル地方では、
処女の月経血とされているようです。

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備考欄
毒気がないというのは、
採集時、調剤時にとても助かりますね。
この薬は、塗り薬ではなく、服用する薬です。
もちろん、王が服用する前に、
何人もの被検体が、服用させられたようです。
記録には、何度も調剤のやり直しをしたとあります。
服用した被検体が、
日を追うごとに白くなっていくのはいいのですが、
アルビノのように瞳が赤くなり、
日に当たるだけで火傷のように皮膚が爛れました。
イフリーカは、王に、
この国の気候には、黒い肌が健康的で、
命を守るための色なのですと進言しましたが、
聞き入れられなかったようです。
さらに研究を続けさせられました。
肌は、白くすると弱くなり、
太陽の熱や光に耐えられない。
瞳は、兎のように赤くなり、
髪質も乾燥し、解いた麻のようになったそうです。
これでは、肌が白くなっても、
美しさを保つことは不可能です。
事の顛末は、薬の完成を見る前に、
始まりとなった愛妾イディーシャが病で亡くなり、
王は、白い肌に対する執着を急速に弱めていったとのこと。
しかし、イフリーカは密かに研究を続けていたのか、
11年後に、遂に完成した!と記録に記しています。
始めの書巻は、トルコの王宮の宝物庫で発見されましたが、
イフリーカの最後の記録書は、
イタリアの商人の館にありました。

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