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火の玉の如く4(小説)

俺はその後も休むことなく走り続けた。途中で少しでも動きが鈍るとオッサンが俺のケツに容赦なく棒を叩きこむ。

「おい!ダッシュだ!なにジョックしてんだ!」

オッサン怒号の中、俺は頭がぼーっとしてきた。喉が渇き、唾を飲み込もうとしてもガムのようになり、飲み込めない。体が変に冷えてくる。歯がガタガタ鳴り始める。

「おら!ダッシュがダッシュでなくなってるぞ!」

オッサンの怒号と共に棒がケツに叩き込まれる。遠慮なく叩き込みやがるから、ケツの感覚がない。

しまいには口の中、血の味がしてきた。息ができない。過呼吸か?
このイかれたオッサン、何考えてやがんだ。
どこまで走れって言うんだ?
昔のスポ根じゃねえぞ。アホくさ。
俺は走るの辞めた。

「どうした。走らんのか?走れ!こら!」

「なんで棒で叩くんですか?休憩無しでドリンクも飲まないなんて聞いたことありません」

俺がそういうとオッサンはしらけた顔をした。

「なんだ?お前、スポーツで頂点取りたいんじゃないのか?ここにいる奴らはみんな子供の頃からサッカーをやってる連中だ。お前みたいな初心者が普通にやって頂点取れると思ってるのか?嫌なら帰れ」

オッサンの言葉に俺はまた走り出した。いくら初心者でも、こいつはやりすぎだ。
しかし、俺はオッサンに一泡吹かせてやると自分に誓ったんだ。負けてたまるか!この野郎!

さらに俺はオッサンの指示に従って走っている。ちらっと他の選手を見るとみんな驚いた顔で俺を見つめている。

「おい!スピードが落ちてるぞ!もっと早く走れ!」

くそ!ふざけるな!どれだけ走ってると思ってんだ。

急に俺は気持ち悪くなってきた。

「う。うえー。おえー」

俺はその場に胃液を吐き出した。今朝食ったもんも一緒に吐き出している。

「はっ、はっ、吐くもん吐いたらスッキリしたぜ!オッサン!いいって言うまで走ってやるぜ!」

俺はすっぱい味を口の中で感じながら、さらに走りだした。何故かオッサンが嬉しそうに笑う。

オッサンはロッカールームのほうに行った。
それでも俺は走った。
まだオッサンは辞めろと言ってないしな。
ここで辞めたら俺の負けだ。

オッサンが戻ってきた。手には棒はない。
オッサンが叫ぶ。

「よし、あとは軽く流して走れ、グラウンド10周したら終わりだ」

グラウンド10周?おいおい、何が軽く流せだ。
しかし、俺は負けない。
俺はさらにグラウンドを走った。
意識が朦朧として何周走ったのかわからない。

「上山。もういい。10周だ。おい!もう終わりだ」

オッサンはそういうと俺の肩を抱いて俺が走るのを止めた。

俺は朦朧とする意識の中、オッサンが嬉しそうに笑っているのを見た。このサディストが。
俺がそう心の中で言った時オッサンが俺に言った。

「上山、お前、火の玉だな。だが調子に乗るな。まだまだこんなもんじゃねぇぜ!ここはプロの集まりだ!実力の無い奴は消えていく!
覚悟決めて練習しろ」

オッサンはそういうと俺を抱えてロッカールームのほうに歩き出した。

他の選手の視線を感じた。皆驚いている。

矢野さんが、俺に近づきてきて言った。

「上山!ナイスガッツ!サッカーのことは俺もサポートしてやるぜ!」

俺は矢野さんに。ニヤッとだけ笑った。
矢野さんも俺を抱えてロッカールームに向う。

「上山。根性は認めてやる。しかし、サッカーはお前が思うほど甘くない!お前は今日は走っただけだ。サッカーをなめるなよ!」

村上が凄んで俺に叫ぶ。俺は顔を伏せたまま目は村上を睨みつけた。

「ハハハ。村上、初心者に本気になることもないだろう。それより皆はきちんとクールダウンしろ」

オッサンがそういうと皆一斉にクールダウンを始めた。

ふらふらの俺はロッカールームの長いすに横にならされた。

「上山、飲め!4本用意した。好きなだけ飲め!」

オッサンはそういうとロッカールームを後にした。俺は勢いよく体を起こすとむさぼるように、水を飲み出した。1.5リットルのボトルが全て一気に無くなった。

こんなもんじゃない。こんなもんじゃ。
俺はまだサッカーの技術を知らない。
俺はいかにしてサッカーの技術を自分のものにするか考えていた。

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