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火の玉の如く11(小説)

俺が河川敷に座りボーっとしていたら俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「蓮くーん!そんなところにいたの?さあ帰りましょう。ご飯もできてるわよ」

ほのかさんが俺にそう言ってきた。探してたのか?

「ほのかさん、俺を探してたんスか?」

ほのかさんは俺の横に座り、静かな表情で俺に話し始めた。

「父から聞いたわ。今日の試合負けたんだって。蓮くん、今までは父もメンバーのみなさんもわかりやすくチームと呼んでいたけど、これからはクラブと呼ぶわ」

俺はほのかさんの言葉の意味がわからない。ほのかさんはさらに続けて言った。

「チームは監督と選手が一つの目標に向かって進めばいいの。クラブはね、経営者の方も含めて、全てのスタッフの方々も含めて監督と選手が一つの目標に向かって進むの。蓮くんのプレー、一つ一つにもそのスタッフの方々の生活がかかっているわ。蓮くんの生活のためにもスタッフの方々は懸命になるわ」

俺は今まで思いもしなかった言葉をほのかさんから聞いた。スタッフの方々の生活まで……。

「生活がかかっているだけじゃないわ。みなさん、本当にサッカーに情熱を燃やしてるの。だからあんなに一生懸命に選手のため、いえ、サポーターの方々も含めてのクラブなのよ」

「サポーターの方々も……」

俺がそういうとほのかさんはうなずいた。

「そうよ。監督や選手だけじゃない。コーチやトレーナーや裏方のスタッフの方々、経営者の方、そして応援するサポーターの方々も含めてのクラブなの。その集まりに蓮くんは入ったの」

ほのかさんの言葉が俺の心にズシンと響く。
そう言えばサポーターの方々は時にはクラブの為にと寄付してくれる。

俺のプレー、一つ一つにスタッフやサポーターの方々の思いが重なっている……。そうだ、これがプロの世界だ。弱音を吐くほど甘い世界じゃない。俺は今まで自分がまだ素人だと甘えていた。俺はプロの世界に入ったんだ。

ほのかさんは話終わると静かに川を見つめていた。

「川っていいね。私達のクラブも1人1人は水玉みたいなものだけど、集まったら大きな塊になって一つの目的の為に流れていく。蓮くん、あなたもその目標の為に流れているんでしょ?優勝という目標の為に」

そういうとほのかさんは俺の顔を見つめた。すごく真剣なまなざしだ。
俺はボクシングで頂点を目指した。
しかし、今は同じスポーツでもサッカーで頂点を目指す。そうだ、スポーツで頂点を目指すことが俺の存在意義…!

結果がどうであろうと前に進まないといけない。

「私もサポーターとして蓮くんと一緒だよ。仲間だよ。クリムゾンウォーリアーズを優勝させるまで、私は蓮くんの一番のサポーターになる!こんなことでしょげてる蓮くんじゃなく、何があっても前に進む蓮くんの一番のサポーターだよ」

「ほのかさん……」

俺はほのかさんの言葉に言葉を失った。こんなにも大きなものを俺は背負っているのか。

「今日の試合で蓮くんは本当の意味でサッカー選手になったよ!私はこれからもずっと蓮くんの一番のサポーターとして蓮くんと一緒に闘うよ!あんなこと言っても父も蓮くんが成長したって本当は喜んでるんだから」

「ほのかさん、ありがとう。もう大丈夫。俺、必ずクリムゾンウォーリアーズを優勝させます。その為の一番の原動力になるように明日からまた頑張ります!」

俺の言葉にほのかさんはニコッと笑った。

「そうよ。蓮くんは"火の玉"でしょう。しょげて水っぽい火の玉は無いわ」

そういうとほのかさんはやさしく笑った。
その横顔が夕日に焼けている。

"火の玉"かオッサンに散々走らされた後、言われたな。やってやるぜ。今日は今川って奴が来た。他にもすごい奴がいるはずだ。

大学生に負けた汚名はリーグ戦で必ず返す!

「やっと蓮くんらしい顔になったわね。さあ、帰りましょう。たくさん作ったわよ。たくさんご飯食べてね、蓮くん」

「ええ、帰りましょう。たくさん食います」

「「はははははは」」

2人で笑って、そのまま河川敷を後にした。こんなところでくたばってなるものか!
やってやるよ。かじりついてでも!
ほのかさんのきれいな歌声が夕日の中響いていた。

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