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火の玉の如く13(小説)

リーグ戦直前の練習が始まった。俺はいつも以上に張り切った。負けるわけにはいかないんだ!俺を応援してくれる人の為にも!

あんな無様な試合をしたにもかかわらず矢野さんはあいかわらず俺を指導してくれる。

「上山!だいぶ上達したな!信じられないぐらいの成長だぜ!」

矢野さんが俺を教えながら言った。俺もあの練習試合の後、自分で反省した。何がたりないのか?俺の武器はなんなのか?
今、俺の中には俺なりの答えがある。あとはそれを実践するだけだ。

「みんな集まれ!」

オッサンがマネージャーの真由さんと一緒に現れた。真由さんはユニフォームを持っている。

「我々クリムゾンウォーリアーズは毎年、ユニフォームを1人1人に直接配る!学生じみてるみたいと笑う奴には笑わせろ!
同じように、カッコ悪いプレーと笑う奴も笑わせろ!俺たちの目標は"勝つ"!それだけだ!」

オッサンはそういうと1人1人にユニフォームを配り出した。まずレギュラーからだ。

「天野、谷内、上山」

「上山!いないのか!」

「あ、はい!」

俺は返事するとユニフォームを受け取った。背番号を見て驚いた!
8番じゃねーか。俺は本当に自分のユニフォームか確かめるように、もう一度見直した。

ちゃんと俺の名前が入っている。
[UEYAMA]と背番号の下に。

「おい!上山!何ぼーっとしてる。しっかりしろ!今日の合同練習はこれで解散。あとはクラブハウスで食事の後は自主練とする。以上!」

オッサンがそう言って、真由さんとクラブハウスに向かって行った。俺は"疾風のサムライ"と同じ背番号でびっくりしたが、この背番号を必ず俺のものにしてみせる。

そう思い、皆に遅れてクラブハウスに向かった。
クラブハウスに着き、下の階で何やら声が聞こえる。

「あなた、プロならクラブハウスで食事があること知ってるでしょ!何よ!その小学生の遠足みたいなお弁当は!」

よく見ると真由さんが、ほのかさんに詰め寄っている。俺は階段を駆け降りて2人の元に行った。

「どうしたんですか?なんかあったんスか?」

俺がそういうと真由さんは眉間にシワをよせて激しい口調で言った。まるで仇を見るかのような目で。

「どうもこうもないわよ!この人、あなたにお弁当作ったからって部外者のくせに勝手に上がり込んで。いい、選手の食事はきちんと栄養士が考えて作ってるの!こんな偏った食事じゃダメなのよ!」

そういうと真由さんはほのかさんの持っている弁当を手で叩きつけた。弁当箱が転がり、中が廊下に出てしまっている。

「きゃー!」

ほのかさんは手を押さえて顔を伏せた。目には涙も見える。俺はなんだか腹が立ってきた。
こぼれた弁当の中身を拾うとほのかさんに言った。

「大丈夫です。上のほうは食べられますから。
俺、よく食べるんでクラブハウスのメシも食べますが、ほのかさんのお弁当もあると助かるんですよ」

俺がそういうと真由さんは今度は俺をキッという顔で見て言った。

「上山くん、あなたこんな素人の肩をもつ気。
もういいわ。コンディション壊してもあなたの責任だから。それからほのかさんだったかしら。いくら監督の娘さんでもこれからは勝手なことはやめてちょうだい。私のことも馴れ馴れしく真由と呼ばないで増田さんとこれからは呼んで下さい」

そういうと真由さんは踵を返して部屋に戻って行った。俺は弁当の食べられそうなところを弁当箱に入れている。するとほのかさんが俺の手を押さえて顔を左右に振った。

「ありがとう蓮くん。もういいの。私が勝手なことして蓮くんに迷惑かけてしまって……」

「確かに迷惑だな。ほのか、これからは勝手にここにくるな」

オッサンがほのかさんの言葉を遮って言った。
オッサンは鋭い眼光で俺を睨む。

「上山。俺達は遊びでやってるんじゃねえんだ。メシはクラブハウスのを食え。ほのか、監督の娘と言えどお前は部外者だ。忘れるな」

「オッサン!ひどいじゃないですか!せっかくほのかさんが気をつかったのに!もっといたわりを持てないんですか!」

オッサンはさらに鋭い眼光で俺を睨む。俺は一瞬たじろいだ。くそ!こんなオッサンに気合い負けしてたまるか!俺もオッサンを睨む。なんだったら一発ぶっ飛ばしてやってもいいんだぜ!

「上山、他のクラブは知らんがここの連中はみんな選手じゃねえ。戦士だ。勝つ為に己を磨く戦士しかいない。女に媚び売る奴はいらん。そこのところ勘違いするな。ほのか、家のメシは構わない。しかしクラブハウスでは他の連中にも示しがつかん。お前もそのことはわきまえろ」

オッサンはそういうと踵を返して監督室に行った。

「オッサン!情ってもんないのか!」

「いえ、父のいう通りです。私がいけなかったんです。蓮くん、帰ります。すみませんでした」

ほのかさんはそういうとこぼれた弁当を弁当箱に入れ、床をきれいにするとトボトボと帰って行った。

しかし、オッサンの言った、『選手でなく戦士』という言葉がやけに頭に残った。
そうだ、選手じゃいけないんだ、戦士じゃないと。俺は戦士としてリーグ戦を活躍すると心に誓った。

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