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火の玉の如く20(小説)

俺は泣き続けるほのかさんの肩に手を置いて見つめているしかなかった。

しばらく沈黙があたりを覆った。ほのかさんの泣き声がただ響くだけだ。

ほのかさんは肩に置いた俺の手を強く握り搾り出すように声を出した。

「……私…ね、結婚するの」

「えっ?」

俺はその言葉に頭が真っ白になった。俺の顔を見てほのかさんはさらに涙を流しながら、そして強く俺の手を握った。

「私ね、スタリオンズの今川さんと結婚するの…」

さらに俺は言葉を失った。スタリオンズの今川と結婚……それってどういうことなんだ?「俺の一番のサポーター」って、俺とは友達ってことか?

表現できない思いが頭の中で渦巻いている時、続けてほのかさんは言った。

「私ね……蓮くんが好きよ…大好きよ。でもね、今川さんとは、お見合いをして決まったことなの」

「どういうことなんですか?」

俺がそういうとほのかさんは俺の手をさらに強く握って言った。何かにすがるように。

「蓮くん、あのね……1ヶ月前に……今川さんが私の父に私が好きだと言ってね…その後にお見合いをしたの……そしたらね、父が『今川は立派な男だ。お前に断る理由が無いならOKしろ』って…私、父には逆らえないから…私OKしてないんだけど、父が今川さんにOKって……」

俺はほのかさんのその言葉に心の底から何かわからない胸くそ悪いものを感じた。

「ほのかさんの気持ちはどうなんですか?」

「私は蓮くんが好き……でも父には逆らえない…」

ほのかさん何言ってんだよ。こんな大事なことを!オッサンは関係ないだろ!
俺はなんかめちゃくちゃ腹が立ってきた!
そして、ほのかさんに言った!

「ほのかさん!結婚するな!」

俺の一言にほのかさんは泣き止んだ。そして呆気にとられたような顔をして俺を見つめている。

「ほのかさん!俺と結婚してくれ!俺がほのかさんを守る!だから俺と結婚してくれ!」

「蓮くん、ありがとう……でも父には逆らえないわ。一度決めたら突き通す人だから」

再び涙がほのかさんの頬を伝う。オッサンに逆らえない?あのオッサン、自分の娘を脅迫でもしてるのか?

ほのかさんがここまで追い詰められるには余程のことがあるに違いない。俺がそんなことを考えてると、ほのかさんはまた涙を流しながら言った。

「蓮くんのことはずっと前から知っていたわ…将来、必ず世界を取るボクサー。私、ファンだったの……だからびっくりしたわ…家に来て一緒に住むこと。父のクラブの選手になること。そして…私のこと……好きだってことも…私嬉しい…」

「だったら、何も悩むことないじゃないっスか」

「ダメなの……父のいうことは絶対。私…私…」

煮え切らねー!俺はほのかさんの態度に本当にムカついてきた。いや、ほのかさんをそこまで思い悩むまで追い込んだオッサンや今川にムカついていた。

「ほのかさん!ほのかさんは俺の一番のサポーターになるって言ったよな!
だったら、ほのかさんもオッサンの言いなりにならずに、オッサンなんかほっといて自分の信じた道を選べよ!
今川が好きでも無いのに結婚するなんて、バカかよ!好きな奴とほのかさんは結婚すりゃいいんだ!」

ほのかさんはくちびるを噛みしめて、静かに言葉を発しようとしていた。

「……私」

「おっと、ここまで。俺の気持ちを最初に言うよ。俺はほのかさんが好きだ。だから俺と結婚して下さい。
だけど今すぐに応えなくていい。今川なんか俺が倒してやる。オッサンも場合によっては許さねー!
ほのかさん!俺は試合まで自分のアパートに帰る!もし、俺と結婚してくれるなら、今度の試合の後、河原の公園のサッカーグラウンドまで来てくれ!その時にほのかさんの答えを言って欲しい!YESかNOか!」

俺はそういうとほのかさんの涙を拭い、アパートに向けて駆け出した。俺はほのかさんに手を振り笑顔を見せて言った。

「ほのかさん!俺はほのかさんがどんな答えを出そうが受けとめる!俺は必ずクリムゾンウォリアーズを優勝させる!ほのかさん!俺を信じてくれ!俺もほのかさんを信じる!」

「蓮くん…」

ほのかさんの言葉はそこまで聞こえて、その後聞こえなくなった。俺は優勝を賭けた一戦にのみ、今は集中しようと、この瞬間決めた。
ほのかさんも自分の勝負に勝ってくれ。
何がなんでも勝つ!まだ終わってないんだ。俺の闘いは!

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