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火の玉の如く16(小説)

試合はそのまま進み、やがてホイッスルがスタジアムに響いた。

「やったあ!勝ったぜ!」

足立さんがそう言って駆け寄る。
俺たち、みんな駆け寄り互いに抱き合う。

「上山、よくやった!監督の特訓の成果が出てきたな!」

矢野さんが俺の肩を叩き、そう言った。確かにあの無意味に見えた最初の頃の走り込みでスタミナもつき、動きも良くなった。
俺は元々速かったが、あの走り込みでさらに加速がついた。
テクニックも矢野さんやオッサンにしごかれて、それなりに加速を武器に点を取ることができた。俺は矢野さんに頭を下げた。

「ありがとうございます。次もがんばります!」

「おう!頼むぞ上山!」

そういうと皆から激しい祝福のハイタッチを受け、サンズの選手と握手を交わした。サンズの小沢が俺と握手を交わして言った。

「凄いライバルがあらわれたな。上山。またお前と闘うのが楽しみだ。次は負けないぜ。」

小沢の言葉に俺も応えた。

「俺も負けないぜ」

俺がそう言うと小沢は何やら嬉しそうに笑ってうなづいた。久保田とロペスも笑って俺に手を振ってベンチに戻っていった。新たなライバルの姿を見て俺はさらに闘志を心に秘めた。

オッサンが俺をめずらしく笑顔で見ている。

「上山、よくやった。そしてよくついてきた。これからも試合は続く。頼んだぞ」

そういうとオッサンは俺や他の選手と握手を交わすと踵を返して、ロッカーのほうに早々と引きあげた。

俺はオッサンを追いかけて、叫んだ。

「オッサン!いや、監督!待って下さい!」

オッサンがこちらを向いて気持ち悪そうな顔をして言った。

「上山、お前どうかしたのか?俺を監督と呼ぶとはおかしいぞ」

「いえ、そのう。俺、感謝してるんです。自分でも気づいてなかったんですが、サッカーが好きになっていて…そのう。お礼というか…」

俺がそこまで言った時、オッサンは満面の笑顔で俺の肩を思いっきり叩いて言った。

「俺のことはこれからもオッサンでいい。それよりも次も試合がある。俺はお前の速さをかったんだ。だがまだまだだ、足を手のように使えるように練習しろ。俺に感謝するなら優勝に貢献してからだ」

そういうとオッサンはロッカールームに向かって行った。

そうだ。まだ長いリーグ戦の1勝を取ったに過ぎない。これからも闘いは続く。俺はまだまだ未熟だ。
もっと技術的にも体力的にも磨かなくてはいけない。

俺はその後、報道陣に囲まれてインタビューを受けた。何を応えたのかは覚えていない。
その後、シャワーを浴びて家路についた。

「蓮くん、おめでとう!」

声のほうを振り向くとほのかさんが立っていた。

「ほのかさん、どうしたんですか?」

ほのかさんはすごくまぶしい笑顔で俺に言った。

「私は蓮くんの一番のサポーターだって言ったでしょ。応援にきたから待っていたの。一緒に帰りましょ。帰ったら、ご飯つくるね」

「ほのかさん、ありがとう。でもこれからだよ。まだまだ闘いは続くんだから」

俺がそういうとほのかさんは嬉しそうに笑みを浮かべて言った。

「そうね。でも一歩は踏み出したよ。頑張ろうね」

「ああ、帰ろうか」

俺は何やら恥ずかしくなり下を向いたまま、ほのかさんと歩き出した。

「蓮くん、今日は月がきれいね。月の光りっていいね。自分から輝いてるんじゃなく、お日様の光りを受けて輝いてるんだけど、こんなに心を打つんだね」

ほのかさんは月を見ながら目を輝かせていた。ほのかさんの瞳に映る月の光りが、何故か俺の心を癒す。

ほのかさんはそう言った後は黙って俺と家路についた。
月の光りか…俺は太陽のように自分1人だけ輝こうと今まで、もがいていた。でも1人の力じゃない。オッサンや仲間たち、そしてほのかさんの力があって、ここまで来た。これからもみんなと一緒だ。また明日から闘いは続くんだからな。

明日からの闘いも負けるわけにはいかない。すがりついてでも勝つ!俺はさらに熱く燃える闘志を胸の奥に秘め、ほのかさんと月明かりに輝く道を帰った。

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