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入江貝塚にみる「縄文人」の精神性

 2021年7月、「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録された。
 縄文時代の代表的な遺跡として名高い青森県の三内丸山遺跡や、秋田県の大湯環状列石など、大学入試でもおなじみの遺跡群を含む17遺跡が登録された。

  掲げた写真は三内丸山遺跡である(筆者撮影)。

 さて、その新しい世界文化遺産を構成する一つ、北海道洞爺湖町の入江貝塚(登録名は「入江・高砂貝塚」)に興味深い発見がある。

 入江貝塚は縄文時代前期末葉から後期までを含む貝塚遺跡である。ここで1966年から翌年にかけて行われた考古学的調査で発見された人骨のうち、「入江9号」とされた人骨について、その四肢骨に顕著な形態異常が認められたのである。発見当初、この人骨は、思春期後半の女性のもので、「病魔」によって四肢骨の発育が遅れ、死を迎えるまでの少なくとも数年間は寝たきりであったとされた。そしてその「病魔」はポリオ、すなわち小児麻痺であろうとされた。その報告はインターネットでも読むことができる(*1)。

 発見当初、この人骨は頭の形が細かったことなどから「女性」であろうとされたが、近年、国立科学博物館のDNA鑑定によって「成人男性」であること、小児麻痺や筋ジストロフィーを原因とする筋萎縮症にかかっていたということまで判明したらしい。

 現時点での報道レベルでは、「女性」「男性」それぞれの説が混在しているが、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の公式ホームページでは「筋萎縮症に罹患した成人男性の人骨」としている(*2)。

 具体的な病名・性別については争いがあるものの、少なくとも近代的医療が未発達であった縄文時代において、重篤な病を患った人が成人するまで生き延びているということはゆるぎない事実である。当然、食料の調達など身の回りの介護もあったろう。


 こうした発見は、縄文時代には「身分の上下関係や貧富の差はなかった」(山川出版社『詳説日本史B』p.14)とする教科書の記述に、よりリアリティを与えてくれる。

 「時代」はニンゲンが創ったもの、これは原始であっても、現代であってもかわらない。

 文字通り名もなき人たちの生きざまを念頭において勉強すれば、面白いし、元来〈歴史〉とはそういうものだろう(今回は「原始」時代の話題だが)。

いつの時代であっても〈人間〉の存在に対する想像力を働かせたいものである。最近は特にそう思う。


【参考資料】
*1
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ase1911/92/2/92_2_87/_pdf 
*2
https://jomon-japan.jp/learn/jomon-sites/irie 




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