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2022.12.08. 『ファイナルガール・サポート・グループ』を読んだ

 殺人鬼が無辜の人々を殺戮していく様を描くスラッシャー映画で最後に生き残るヒロインをファイナルガールと呼ぶ。
 
 『ファイナルガール・サポート・グループ』はそんなファイナルガールたちを主人公に据えた小説だ。しかし、この小説は彼女たちが殺人鬼と対峙するその時ではなく、すべてが終わり生き残ったその後の物語である。

 この物語は殺人鬼の凶行とそれから生存したファイナルガールは実際に存在するものとされる設定となっている。劇中に存在するスラッシャー映画は実際にあった事件を基にした作品だという世界観になっている。

 タイトルの『ファイナルガール・サポート・グループ』は危機から辛くも生還したファイナルガールたちがお互いの傷を癒し合うグループセラピーのことだ。

(グループセラピーとはよく洋画で見る精神を病んでいたり何かの依存症になっていたりする人たちが部屋の中で輪になって椅子に座ってお互いの身の上を話し合うやつのことね)

 彼女たちは映画とは違って惨劇から無事生き残ったとはいえ、めでたしめでたしとはいかない。家族や友人、恋人たちが殺された中、自身も心身ともに傷を負ってその後の人生を生きることになるのである。

 当然、また平凡で幸せな生活に戻ることは困難だ。
 だから、サポートグループにてお互いを癒し合うのである。

 しかし、同じ被害者同士とはいえそれぞれの立場は大幅に異なる。

 殺人鬼により障害を負ってしまった者もいれば、事件のショックから逃げるようにアル中兼ヤク中になる者もいる。末期癌のパートナーと人里離れた場所でひっそり暮らす者もいれば、大金持ちの妻になり優雅な生活を送る者もいる。

 みんながみんな、同じ立場ではなく、大きな差異があるのだ。
 
 それ故、平和で穏やかでなければいけないはずのの互助会は、次第にお互いを憎しみ合う最悪な場所となってしまっていた。

 
 だが、彼女たちファイナルガールの大先輩であり、恩人のエイドリアンが何者かに殺されたところから大きな転機となる。

 語り手のファイナルガール、リネットは自宅のアパートを銃撃されたことから正体の知れぬ悪意が自分たちファイナルガールを再び恐怖に陥れようとしていることを察知するが。


 まず、この語り手のリネット自体が難のある主人公だ。
 自分を傷つけようとする存在を強迫的に怖れ、常に警戒心全開で生きている正直ヤバイ人間だ。
 かつての悲劇を二度と繰り返さないように、自宅を要塞のように改築して護身術やサバイバル術を身に着けた彼女はさぞタフな主人公かというと、違う。
 敵と対峙する肝心な瞬間でも身が竦んで決断的な行動ができないし、頭を使って行動しても必ず裏目に出る。
 正直、こいつは大丈夫なのかと読んでいて何度も心配になってしまった。

 それに、彼女は何か誰にも明かせない隠し事をしているようで、いわゆる信頼できない語り手となっている。

 そんな彼女が水面下で起こる危機に立ち向かおうとするのだから、全編ハラハラしっぱなしだ。

 だけど、この『ファイナルガール・サポート・グループ』はだからこそ読んでいて退屈することのない面白い小説だったと思う。


 それとストーリーとは別として、本書は作者がスラッシャー映画オタクだから作中のあちこちに実在する映画のオマージュがある。

 ファイナルガールたちの設定も『13日の金曜日』に『エルム街の悪夢』、『ハロウィン』から『スクリーム』のようなスラッシャー映画の名作群をオマージュしてできている。

 流石に『悪魔のサンタクロース』はマイナーじゃないかと思ったらきっちりその辺りをストーリーに組み込んでいるから侮れない。

 ストーリーを追っても面白いし、作中のネタの元をあれこれ考えてニヤリとするのも楽しい二つの味を楽しめる小説だ。

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