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2022年3月に見たもの読んだもの

①宮澤伊織『裏世界ピクニック』シリーズ

 百合をテーマにした作品だが、俺はそちらへの造詣は全く深くないので言及しない。

 我々の生きる現実世界からふとしたきっかけで転移することのできる裏世界。これはふとしたきっかけで現実世界と裏世界を行き来できるようになった少女空魚と鳥子の物語だ。

 この作品はその謎めいた裏世界を探索することが主題のひとつだが、それがオープンワールドゲームを思わせて良い。全く見知らぬ世界を冒険、探索していき、知らないことだらけだった世界を徐々に自分の知っている馴染みの場所に変えていく過程はまさにオープンワールドゲームの醍醐味といっていい。初めて訪れた土地で不安になりながらも野宿したり、手ごろな場所を自分たちだけの拠点に改装したりとね。

 しかし、裏世界はただ楽しく過ごせる秘密の場所ではなくて、時には世界そのものが悪意を持っているかのように空魚たちに牙を剥く。それは例えば「くねくね」や「八尺様」のようなネットの実話怪談の似姿を借りて襲ってくるのだ。そうした脅威に彼女たちがどのように対処して乗り越えていくかもこの作品の醍醐味だ。

 また、今回はこのネット怪談のネタを使うのか!というサプライズ感があって良い。俺のような貴重な学生時代をネットで無駄に浪費した人間にはたまらない仕掛けだ。作者の詳しい文化人類学的観点からのネット怪談への所見が語られるのも面白い。

 最新の7巻で物語に一区切りされたが、今後の展開も楽しみだ。

 アニメとコミカライズがあるので機会があったら見てみたい。

②神薫『静岡怪談』

 竹書房怪談文庫が最近力を入れている各都道府県のローカルな怪談集の静岡版だ。地元の本屋では平積みにされていた。怪談の蒐集、執筆は静岡在住のしている女医の方で、扱う怪談の範囲は静岡全域に渡る。

 わりかし自分の近所を舞台にした怪談がそれなりにあったのでヒヤヒヤしながら読んでいた。

 つまりは、実話怪談で語られるような不思議で奇妙な体験というのは自分にとって全く無関係ではない。偶然遭遇してしまう可能性もあるのだと思い知らされる戦慄の読書体験だった。


③雨宮純『あなたを陰謀論者にする言葉』

 最近、他人事ではなくなってきた陰謀論とそれを信じる陰謀論者。

 あなたの家族、親しい友人、彼氏彼女、職場の上司に同僚と近しい人たちがいつ陰謀論に罹患し、喧伝するようになるのかわからない怖ろしい時代になってきた。
 身近な人ではなくても、例えば応援しているクリエイターがSNSで陰謀論をぶちまけてショックを受けた経験のある人もいることだろう。

 本書はそうした巷で蔓延する陰謀論のルーツについて膨大な文献を紐解きながら、その危険性に警鐘を鳴らす。

 現代人必読の一冊だ。

映画

①THE BATMAN

このビジュアルではヴィランの一角っぽいペンギンがただの巻き込まれ被害者だったのが面白過ぎる


 本作に関してはダイハのレビューを読めばいいのだが自分からも言いたいことをひとつ。

 腐敗した犯罪都市を舞台にした狂人(バットマン)と狂人(リドラー)の血みどろの謎解き合戦というどう考えても救いのないストーリーなのに鑑賞後は爽やか気分で劇場を後にできたのが不思議だった。

 それはやはり、今の時代に(いや今の時代だからだろうか)希望の象徴としてのヒーロー像を活写する製作者の堂々と態度があるからだと思う。その姿勢に俺はもう感服するばかりだった。

 だが、演出や脚本が凝っていて何回も見返したくなる作品なだけに3時間もランニングタイムがあるのがネックか。それでも長尺なのに退屈になるシーンがそんなにないのが救いか。

②仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル

 あの傑作『仮面ライダーオーズ』の記念すべき10周年作品だが、個人的にはう~~~~~~~~~~~~~んこれは…………という出来だった。

 いつもの東映特撮特有の貧弱すぎるレジスタンス描写にスケールの狭い世界存亡の危機と予算のなさを如実に感じてきつい。

 そして、肝心のストーリーがあまりにも暗すぎるのだ。

 正直10周年同窓会企画ならもっと能天気にしても良かったんじゃないの?

 しかし、オーズの『いつかの明日』をテーマにしているからか制作陣もなんか真面目になってしまったんだろうな。もっと春映画とかの、過去作への冒涜的なまでの態度をこっちにも持ってたら案外いい塩梅になったのではないかと勝手に思っている。

 オーズのいいところって重々しい背景の設定に反した作品自体の明るいノリなんだけどなぁ……。

 ここ数年の現実のあれこれを吹き飛ばすような希望を感じる作品にして欲しかったのだけどなぁ……。


③アンビュランス

 マイケル・ベイの放った快作。

 ガバガバすぎる銀行強盗が失敗し追い詰められた主人公兄弟が、ちょうど現場にあった、怪我人を乗せた救急車をインターセプトし逃亡するという筋書きだ。追って追われてのシンプルなプロットはもう清々しさすら感じる。

 カーチェイス! 爆発! 動き回るカメラワーク! といつものマイケル・ベイは今作でも健在だ。

 近頃クソコテ狂人演技が板についてきたようなジェイク・ギレンホールもノリノリな演技でそれをサポートしている。

 ド派手な作風の様で実は職人的で手堅いマイケル・ベイの一面が見れる一作だ。


④北京原人の逆襲

 Huluで鑑賞。ギラーミン版キングコング(未見)のバッタモノ企画だがこれが思わぬ快作。

 序盤からヒマラヤ奥地に棲む巨大北京原人(15メートル)を訪ねてやってきた探検隊を襲う象の大群に人食いトラ、底なし沼に断崖絶壁への登攀。次々と続出する脱落者とハラハラさせてくれる。

 中盤は主人公と金髪美女ターザンのラブストーリーで画面に華を添える。

 そしてクライマックスは香港を暴れまわる巨大北京原人と飽きさせない作りになっている。

 なにより、日本の大映と東宝のスタッフが関わっているから特撮が豪華で見応えがあるのだ。終盤の北京原人が香港で破壊の限りを尽くすシークエンスはその特撮の素晴らしさを味わえる。それだけでも一見の価値のある作品だ。

⑤中国超人インフラマン

 Huluで鑑賞。こちらは昭和の仮面ライダーのパチモノ企画だ。

 アクション自体は香港映画らしくカンフーを取り入れていて元ネタと顕色のない出来になっている。人が死にまくっているがどこか牧歌的な雰囲気が元ネタなどの昭和特撮を思わせていて良い。

 ちなみに『北京原人~』『中国超人インフラマン』のどちらも主演もダニー・リーという俳優だ。フィルモグラフィーが香ばしくないか?



⑥CYBER CITY OEDO 808

 サイバーパンク都市OEDOを舞台にしたOVAアニメだ。

 一級犯罪者センゴク、ベンテン、ゴーグルが刑期短縮を引き換えに日本の中心都市「OEDO」を守る機動刑事となって日夜凶悪事件の解決に奔走する。

 どんなピンチでも減らず口を忘れない伊達男のセンゴク、クールな二枚目かつ鋼糸(ワイヤー)使いで歌舞伎の獅子の精を思わせるような奇抜な髪形が特徴的なベンテン、筋肉ムキムキマッチョな大男でありながら特技はハッキングやクラッキングのような電子戦のゴーグルの三人が主人公だ。

 アニメは全3話だが、この設定と座組なら無限に話が作れるだろうな~と思った。

 こってりしたセル画のアニメにハードボイルドでシリアスなストーリーだが、重くなり過ぎないバランスの良い作りになっている。

 今では大御所の声優陣の名演技も注目だ。


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