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ひねくれイケメンミュージシャン、謎の改心


マスコミってやつは、巨大な亡霊をどんどん作りあげていきやがる。

本人をまったく無視しやがって。

俺は、マスコミに踊らされている憐れなミュージシャン。

音楽が好きとか哲学があるわけでは無い。

こんな人間失格みたいな俺が、テレビやライブでキャーキャー騒がれてほんとアホくさ。

そもそもの発端は親父だ。

俺の親父は、とんでもない悪(ワル)で借金まみれのクソ親父だ。

背が高くハーフのような顔立ちをしているのが災いして女とのトラブルで人生を棒にふった哀れな男だ。

そんな親父に容姿がそっくりだったために、スカウトされたのが運のツキだ。

もちろん断ったが、やつらはあきらめなかった。

俺の弱みに付け込み、家族のことを持ち出し説得にかかった。

まだ、学校に通っている弟のこと。苦労している母親のことを武器に執拗に迫ってきた。

たしかに、借金を返すのは手っ取り早い。

金銭的にはありがたかったのかもしれない。

いや、むしろそれが俺の自由を奪っているんだ。

事務所にはひとつだけ俺の要望を聞いてもらった。

マスコミやファンたちといっさい接触をしないことだ。

こんな俺が彼らと接触したら、どんな態度をとってしまうかわからないからだ。

事務所側もそれだけは神経を使っている。

でも、それがかえって人気に火をつけてしまった。

何も語らなければ勝手に俺の人物像を作ってしまうのだ。

実家のことも美談になって、一人歩きしている。

笑ちゃうよな。



この小さな森の公園に来ることが、今の俺にとって自分に戻れる唯一の場所だ。

爆発寸前でもここに来れば気持ちが落ち着く。

このままこの場所に埋もれていたい。

ふと、木々の間を見ると何か揺れてる。

目を凝らしてみると人がいる。女性??

何をしているんだろう?

近くに寄ってみた。

土を掘って何かを埋めてる?

手で土をかぶせている。

俺の気配に気が付いてこちらを振り向いた。

「何してるんすか?」

やべっ! つい、声をかけてしまった。

「あっ、見られちゃいました?」

見たところ、俺と同じ年くらいの普通の女の子だ。

「何を埋めたか、知りたい?」

「いや、べつに……」

なんか面倒くさそうな感じがしたので立ち去ろうとしたら、

「人に質問しておいてにげるのかい!!」

質問し返したのはそっちだろが!!

と言いたかったが、本当に面倒くさそうなので無視した。

「無視するんかい!!」

「いや、もう答えてくれなくて大丈夫ですので……」

関わりたくなかったので立ち去ろうとすると、

「卑怯者!!逃げるんかい!!」

「別に逃げるわけではな…ぃ…」

突然、彼女が俺の顔をじーっと見つめた。

ヤバイ、正体ばれたか!

「あのさ、今日、生ものは絶対に食べないでね!」

「はあっ?」

「私、もう行かなきゃ!! この中に埋めていたものは、三つあるの。

知りたくなったら、またここに来てね! じゃあね、バイバイ」

彼女は、そのまま走って行ってしまった。

あっけに取られていると、セットしておいたタイマーが鳴った。



事務所に戻り、スタッフとの打ち合わせを済ませた後に皆で食事をしてから帰ろうということになった。

メニューを見ている時にあの彼女の言葉を思い出した。

生ものは、食べるなって言ってたな。

間に受けるのもシャクだが、今日は天ぷらが食べたい気分なので結果的に生ものは食べなかった。


次の日、マネージャーから電話があり、昨日食事に行った何人かが下痢と嘔吐で大変らしいということだ。

俺も当然そうなっていると思っていたらしく、スケジュール調整をどうしようか心配していたらしい。

俺はなま物を食べなかったので助かったのだ。

森であったあの彼女の顔が浮かんだ。

好奇心がムクムクと湧き上がってきて、あの場所に行きたくてウズウズしていたが、仕事が忙しくてなかなか行くことが出来なかった。

二週間が過ぎた。

久しぶりに少し時間が取れたので、森の公園のあの場所に行ってみた。

2週間前、彼女は土の中に何を埋めたか知りたければ、ここに来てと言っていたが、日時を約束したわけではないので会えるわけがない。

木々の中を歩いていると、自然と癒されてくる。

たしか、この辺だったな。

「やっと、来たわね」

振り向くと、この前の彼女が立っていた。

いつの間に……。

「私の名前は、ショウコ、笑う子と書いて笑子よ。よろしくね!     あなたは?」

「ソラ。空のソラ…」

「ソラか~いい名前ね…」

「クソ親父がつけた名前だから、いい名前なんて思ったことねえけどな」

「ところで、今日は、何を埋めたか知りたくて来たんでしょ?じゃ、そこを掘ってくれる?」

小さなスコップを渡された。

「えっ、俺が掘るの?」

「あたりまえでしょ~ さあ、さあ、掘って!!」

「なんだよ、人使い荒いな」

今までの人生で、友達からこんな扱いをされたことがなかった。

そうさせない雰囲気が俺にあるからだ。

いつも、しかめっつらをして殺気だってるからだ。

喧嘩しても負けたことがない俺をみんな怖がっていた。

それでも、バレンタインデーには山ほど包みが届いた。

親父を見てて、女が面倒なことを知っている俺は完全無視だ。

土に触るなんて記憶にないくらい遠い。

しばらく掘り進めていくと何かに当たった。箱のようだ。

10センチ四方の土まみれの箱を取り出した。

「蓋を開けてみて…」

生唾を飲み込んで、恐る恐る蓋を開けてみた。

すると、あたりが急に真っ白になり、身体がなくなってしまったような感覚に襲われた。

白いもやが薄れてきて、視界が戻ってきた。

身体の感覚がない。

どこだろう?

映画で観た大正、昭和のような家並み。

小さな3歳くらいの男の子がいる。小汚い服を着ている。

「たけお!何回言ったらわかるんだ!」

凄い形相の男が男の子を殴っている。

たけお?俺の親父の名前と一緒だ。

目鼻立ちのはっきりした西洋風の顔立ちをしている。

男はあの子の父親なのか? いや、違う。浅黒い団子鼻の男とは似ても似つかない。

そこへ、母親らしい女が現れて男の子をかばった。

母親も殴られている。

あれっ?

あの母親どこかで見たことあるような……???

「トキ!何やってんだ!ばかやろう!」

男が怒鳴り散らしている。

トキ??ばあちゃん!!

ばあちゃんだ!!

えっ、じゃあ、あの粗悪で乱暴な男が俺のじいちゃんか?

「なんだ!その目は! こんな誰の子かわからねーモヤシみてえなクソガキの飯食わせてやってんだからよ!ありがたいと思え!」

誰の子かわからない?

やっぱりあの男は、親父の本当の父親じゃないんだ。

親父はあんな奴と一緒に暮らしてたのか。

親父は小さいながらも必死に母親をかばっている。

そのとき、男が親父を投げ飛ばした。

見ると、額から血が流れている。

そうか……。

親父の額の傷跡は、このときのものだったんだ!

流すつもりのない涙が頬を伝う。

そのしずくが流れ落ちたその瞬間、もとの公園に戻っていた。

「あなたのお父さんの傷は母親をかばったためについたものなのよ。

でもね、もっと悲惨なのはあの義理の父親なの。壮絶な環境で育ったためにあんな粗暴な人になってしまったの。

もちろん、その行いを肯定しているわけではないわよ。

でもね、それを受け入れて赦す(ゆるす)ことができたら、あなたは自分のことも赦せるのよ。自分を赦すと人生がすごく楽になるってこと。     あなた、相当しんどいでしょ?」

「偉そうに言ってるけど、あんた、なんなんだよ!!」

「わたし? 私は、天使よ」

「天使??ブファ……、天使ってさ、もっと美人で、神々しいんじゃねえの?」

「それは、イメージ!!実際はこんなもんなのよ!!」

涙が出るほど、笑った。

「天使だから人を改心させてなんぼなの。私、まだノルマ達成できてないから必死なんだからね~協力してよね」

笑いが治まったとき、モヤが晴れたようにすっきりした。

笑うとこんなに気持ちがいいんだな。

「よし!次の箱いくよ! はい、続けて 掘って!掘って!」

再び、スコップを手渡され、2個目の箱を掘りはじめた。

2個目の箱は、すぐに見つかると思ったのになかなか見つからなかった。

もう少し深く掘ってみよう。

いつしか夢中で土を掘っていた。

「アハハ・・・ ソラの顔、泥だらけ」

ショウ子が俺の顔をみて、ゲラゲラ笑っている。

つられて俺も笑った。

「あったぞ!」

土まみれの箱を取り出す。

「おめでとう!!それでは…蓋を…オープン!」

ショウ子がおちゃらけてポーズをとった。


蓋を開けた途端、真っ白になり身体の感覚がなくなる。

もやが晴れてきた。

どこだろう?

会社かな? 会議室……?

そこに、親父?…と若い女性だ。

まったく、親父には困ったもんだ。

ん?でもなんか様子が違う?

「相談って何でしょうか?」

親父が、若い女性に訊ねた。

「私、あなたのことが好きです。奥さんがいても関係ありません!

好きで好きで、気が狂いそうなんです!結婚なんて望んでないの。

あなたがいるだけで幸せなんです!!だから、わたしとお付き合いしてください!!」

美人だがどこか神経質そうなとがった感じの女性だ。

「相談というのは、このことですか?それでしたらごめんなさい。

その気は、ありませんので失礼します」

親父が部屋を出ようとしたそのとき、髪の毛と服をワザと乱し、

「キャー、たすけて~」

突然大声を張り上げた。

そこへ、社員が何人かバタバタとかけつけてきて、あたりは騒然となった。

女性が、泣きながら、

「ここに呼び出されて、部屋に入った途端、急に襲われたんです」

親父は、何が起きたかわからず放心状態になっていた。

再び、白いもやがかかった。

もやが消える。そこは俺の家だ。

親父が、何か書いている。

書き終えた封筒をみると、「遺書」とある。

傍らには、睡眠薬。

…親父…、死ぬ気だ。

そこへ、おふくろが外出先から戻ったきた。

「おまえ、なんで帰ってきたんだ?」

「忘れ物を取りにきたの」

状況を察したおふくろが、

「何、考えてるの!死んで解決するとでも思ってるの?」

普段は優しい大人しいおふくろが、すごい剣幕で怒っている。

「会社をクビになったのは、あなたのせいじゃない! 私は、あなたを信じているから!借金だって、働いて返せばいいんだから。          地獄に行くのは、あなたじゃない!あの女よ!!            あなたは、何も悪いことしてないんでしょ!!             だったら、胸をはって、堂々と生きて!」

親父が、声を殺して泣いている。


再び、白いもや。

晴れると、そこには数人の下校中の生徒。

その中に弟の海(カイ)がいる。

大人しい弟には、友達があまりいないんじゃないかと思っていたが、あんなに大勢いたんだな。

イヤ、でもなんか様子が違うぞ。

「おい!おまえの兄貴のせいでうちの姉貴がすごく傷ついてんだよ!」

「そうだ!そうだ!おまえの兄貴は、冷酷人間だ!!」

周りのやつらは、面白がって騒ぎ立てている。

俺のせい? ふざけんじゃないよ!言いがかりじゃねえか!

「おまえの兄貴のせいで、迷惑してるやつがいっぱいいるんだぞ!」

「そうだ!そうだ! おまえが替わりに謝れ!」

カイが袋叩きにあっている。

「なんだ、こいつ弱っちい~兄貴にパワーを全部吸い取られてんじゃね」

「おまえさ~ユキが好きなんだろ~? もし、兄貴に告げ口したら、ユキがどうなるかよーく考えろよ! じゃあな 弱虫やろう」

カイに、彼女がいたんだ。

彼女を守るために、俺に何も言わなかったのか。


再び、白いもや。

目を凝らしてみると、そこは家の近所の神社。

親父とおふくろが二人で、手を合わせている。

「神様、いつもソラをお見守りくださり、ありがとうございます」

「どうか、ソラがみんなに愛されるミュージシャンになれますように」

…ったく…なんだよ、ふたりして神頼みか。 


涙が流れおちた瞬間、再び公園に戻っていた。

俺は、そこに茫然と立ち尽くしていた。


「ちゃんちゃらおかしいよな。強がって息巻いて、かっこつけてる場合じゃねえんだよな。 馬鹿じゃん、俺」

「やっとわかった? バカだってこと。 あなたのお父さんはクソ親父なんかじゃなかったでしょ?」

カイ君はあんな風にいじめられていたけれど、あなたのことが大好きなのよ。自慢のお兄ちゃんなんだから」

そういえば、カイが他の奴に嫌がらせされてるところに、偶然出くわしたことがあった。

俺は、そいつらをボコボコにしてやった覚えがある。

今思えば、それがかえってカイを苦しめていたってことなのか。

カイには兄らしいことは何もしてない。

「あなたは、自分の殻に閉じこもって心を開こうとしなかった。     誰のことも信じられなかった。でも、一番信じることができないのが自分自身なのよね? もう、そんな殻から出なさいよ! 殻の外の世界は、自由なの。しあわせになるのも不幸になるのも自分次第だってこと。すべて自分の心が作りだしてるんだもの」

家族、いや、自分のことすら何もわかっていなかってことなのか?


「さあ!最後!3個目の箱に行くわよ!」

ショウ子は、当然のように俺にスコップを手渡した。

3個めの箱を掘り始めた。

箱は、すぐに見つかった。

あれっ、この箱の下にもう一つ埋まっている。

「ショウ子、箱がひとつ多いぞ。4個ある」

「いいの、いいの4個で。4個目も取り出しちゃってくれる?」

いつしか俺は、ショウ子の言われるままに行動していた。

「最後の2個は、選択してもらうから」

「洗濯?これを洗うのか?」

ショウ子がゲラゲラ大声で笑いだした。

「もう~ソラ笑わせないでよ~洗う方じゃなくて、選ぶってこと」

俺がアホなのも笑えるが、

ショウ子の笑い顔はマジでおかしい。

これが天使の顔なんて誰が信じるかっての!

そして、俺もつられて笑ってしまった。

泣いたり、笑ったり、こんなに忙しいのは人生で初めてかもしれない。

「先にどっちを開ける?こっち? それとも こっち?」

俺は、最初に黒っぽい方の箱を開けることにした。

「さあ、覚悟はいい?蓋をオープン!」

蓋を開けた途端、今までとは感じが違う。

あたりは、真っ暗だ。

身体の感覚はない。

だんだんと視界が開けてきたが、相変わらず暗い。

どこだろう?

タバコの煙、酒の匂い。

場末のキャバレー。 

小さなな舞台にマイクが置いてある。

スピーカーやアンプもあるのでこれから演奏が始まるのか?

控室には、中年の男が出番を待っている。

タバコを忙しく吸っている。

イライラしているのが伝わってくる。

あの中年の男、親父に似ているが親父ではない。

ほくろがある。

俺と同じ位置に。

そこにしゃがれ声の中年女が入ってきて、

「ソラ…そろそろ出番よ。 くれぐれも短気をおこさないでね。あのおばちゃんたちのおかげでご飯が食べられるんだから。            傷害事件を起こしたにもかかわらず、今でもずっとファンでいてくれてるんだから」

傷害事件?

あれは俺なのか?

あんなに人相が悪くてふてくされている奴が?


再び黒いもやがかかった。

古びた狭い部屋の中に年老いた老婆がいる。

見覚えのある顔。

おふくろ?

鈍い動作から病気を患っているのかもしれない。

小さな仏壇に親父の遺影が収まっている。

親父死んじまったのか。

そのとき、あっ! あぶない!

何かにつまずいておふくろが転んだ!!

家具に頭を打ち、起き上がれないでいる。

誰かいないのか?

カイはどこにいるんだ?

おふくろが動かなくなった。

だれか!!

誰かいないのか!!

頬には、涙が……、

流れ落ちたとたん、再び公園に戻ってきた。

俺の心は、打ちのめされていた。

なんだ、これは俺の未来なのか?

「ソラ、がっかりしないで。もうひとつ、箱が残っているから」

ショウ子が、優しくもうひとつの箱を手渡してくれた。

でも、俺は、それを払いのけた。

絶望的な未来の俺を見てしまったのだ。

あんなみじめな未来が待ってるなら、俺は生きてなんかいたくない。

「ソラ!  このドアホ!!」

「!!!」

「そう!ド、ド、ド、ドアホ!!!」

ショウ子が耳元に寄って大声で叫んだ。

「ソラ、よく考えてみて。未来って何?」

「未来は、未来だろ? 何っていう意味がわかんね~よ」

「未来って、今は実態のないものよね? 今現在、まだ何も起こってない!

ないものを恐れてどうするのよ?」

「じゃあ、さっき見たものは、何だよ?」

「私たちは、今にしか生きられない。今の連続がずっと続いてるの。

だから、ソラが今まで通り自分を赦すことができず、自分を信頼することができず、自分の殻に閉じこもったままでひねくれて生きていけばどうなると思う? 想像してみて? ねっ、わかるでしょ?            あの中年男のようになってしまうかもしれないってこと。

でも、未来は変えられるのよ!

ソラの意識が変われば、未来は変えられるのよ!」

俺の意識が変われば未来が変わる。

「どうする?このまま帰る? それとも、4個目の箱を開ける?       ソラが決めて!」

「わかった!! 4個目を開ける」

ショウ子がにこっと笑って、箱を優しく手渡してくれた。

これが本当に最後の箱だ。

俺は、大きな深呼吸をした。

「大丈夫? 落ち着いた? それでは、最後の箱をオープン!」

ドキドキしながら明るい方の蓋を開けた。

今度は、きらきらと輝いているもやがあたりを包んだ。

どこだろう?

子供たちが大勢いる。

でも、日本の子供ではないみたいだ。

学校なのか?

着ているものは質素ではだしの子もいる。

勉強できるのが本当に楽しいのか、みんなイキイキとしている。

中年の男がいる。日本人?子供たちに囲まれて幸せそうだ。

さっき見た場末のキャバレーにいた俺にそっくりだ。

でも、目の輝きが違う。

キラキラと子供たちと同じ目をしている。

顔の表情、あれはもうひとりの俺だ!

発展途上国で何をしてるんだろう?


また、キラキラのもやがかかった。

目を凝らすと、

大きなコンサートホール。

舞台では、俺が歌っている。

随分、うまくなったな。

それに、歌に心がこもっている。

なんだか泣けてくるぜ。

歌が終わった。

われんばかりの拍手。

深々とお辞儀をしている。

今の俺とは、ずいぶん違う。

MCが始まった。

「今日は本当にありがとうございます。

先日のテレビのドキュメンタリーで放送されてご存じの方も多いと思いますが、お陰さまで、ついに現地に学校が建ちました。

子供たちも大喜びで、学校で一生懸命勉強しています。

しかし、家が貧し過ぎるために、学校に通えない子供たちもまだ大勢います。

今日のチケット代は、その子たちへの寄付が含まれています。

みなさまには、こころから感謝申し上げます。本当にありがとうございました」

俺、すごくいいことしてるんだな。

なんだか、くすぐったいような……。

心の中が温かい想いでいっぱいになった。


再び、キラキラのもやの中……。

結婚式、誰の?

バージンロード、 俺が花嫁をエスコートして花婿にバトンタッチ。

俺には娘がいるのか?

結婚なんてする奴の気がしれないと思っている俺だが、気が変わるほど愛した女ができたということなのか?

心なしか、ショウ子に似ている?

あっ、親父とおふくろ。

おふくろが幸せそうにハンカチで目を抑えてる。

親父なんかあんなに目じりを下げて。

娘が俺と妻に感謝の言葉を述べている。

未来の俺が、人前で涙を流している。

こらっ、男が、泣くな!

言葉とは、裏腹に柄にもなく、俺の目には涙がこみ上げてきた。

頬に流れた瞬間、もとの公園に戻っていた。


「どう?こんな人生も満更悪くないでしょ?」

「今の俺からは想像もつかない」

照れ隠しにわざと乱暴な口調で言ったが、ショウ子には俺の心の中はもうお見通しだ。

「さっき、言ってたよな? これは、未来のことでまだ何も起こってないって」

「そう、ひとはいつでも今にしか生きることができないから。

毎日毎日、不平不満ばかり言っているひとの未来は、不満だらけの未来に。

希望を持って、毎日毎日、自分を磨いている人は希望がいつしか現実になる。

あたりまえのことよね。

ソラ、二つの未来を見たでしょ?

あなたはどちらを選ぶの?

「俺は、ショウ子に会わなければ、間違いなく先に見たあのイライラした中年男になっていると思うよ。

でも、もう過去の甘ったれた俺にはうんざりだ。 明るい箱を選ぶよ!」

「ソラには、大勢のひとたちを幸せに導くことができる力がある。

あなたは、その力を使って大勢のひとを救えるのよ」

「こんなクズみたいな俺にそんな力なんてないよ」

「さっきのライブを観たでしょ?あれは、誰?

あなたのファンたちが、あなたの呼びかけで寄付をしてくれたお金で、学校まで建ててしまったのよ!                      これは、すごいことよ! あなただから出来るのよ!」

「俺が…人を救う… 嘘みてえだ。 俺にできるってことか?」

「そうよ!あなただから出来るの!!

それに関われる人たちみんなが、温かい心で満たされるの!       すばらしいことよ!

あなたにとって、お金は、忌まわしいものっていうイメージがあったんじゃない?

でも、お金も使い方によって、こんなにもひとを幸せにできるのよ!

でもね、お金であなたがしあわせになったんじゃない。

自分を幸せにしたのは自分自身なのよ!!

ただの売名行為の寄付とあなたの愛が溢れ出した寄付とでは同じ行為でも全然違う。

だから、そこを間違えないでね!

それから、けっして俺様ってすごいだろう~なんて思ちゃダメよ!」

「わかったよ。 ショウ子にこれだけアホ、アホ言われて、俺様は、偉い!なんて思えねえよ」

「アハハ… ソラも謙虚になったもんだ」

「でも、まじめに言うけどこんな短い時間で、よくこれだけ改心できたね!ソラ、あんたはすごい! さすが、私が見込んだだけあるわ!」

「ショウ子は、俺を見込んできたのか?」

「当たり前でしょ!! 私は、天使なのよ!!!」

「あの~さっき謙虚になれって言っていませんでしたか?」

「コリャ、一本取られました!」

ショウ子は自分のおでこをポンと叩いた。芸人の才能あり。

ありがとうって言いたかったけれど、こっ恥ずかしくて、やっぱり言えねえや。

でも、ショウ子は天使だから、言わなくてもわかってくれてるよな?

「ん?何?なに? 口で言って!!」

「吉元に推薦します!!」

「このドアホ!!」

       おわり

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