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愚図でデブデブ主婦の大逆転!!


「ママ早く!早く!  遅刻したらクビになっちゃうよ!」

しっかり者の息子の拓が、わたしを心配して急かす。

この春から拓を保育園に入れて、スーパーマーケットで働きだしたのだ。

本心は家にいたい。 

でも、家計が厳しくて働かざるをえない。

小学生のお姉ちゃんの習い事代もかさむ。

ピアノの発表会、衣装代、先生への謝礼、来てくれた方へのお礼。

子供たちにはお友達と足並み揃えて、できるだけのことはしてあげたい。

一念発起してパートタイマーの仕事を探した。

デブで動きの鈍いわたしを雇ってくれるところは、なかなか見つからなかった。

ちょうど、新装開店したばかりのスーパーマーケットが多数募集していた。そこで引っかかって雇って貰えることになった。

猫の手も借りたいというだけあって目が回るほどの忙しさだ。

家事に子育てと仕事とフル回転してるのだから、痩せてもいいようなものなのに逆に仕事のストレスで太ってしまった。

はっきり言って食べることしか楽しみがないのだ。

仕事から帰る途中に和菓子屋があり、その魅力にいつも負けてしまう。

一個だけ買うのは、悪いからと言い訳しながら3,4個買って、結局全部食べてしまう毎日が続き、働く以前より太ってしまった。


保育園に、拓を預ける。

上品でかわいい保育士さんが出迎えてくれる。

こんな容姿に生まれていたら、どんなにすばらしくバラ色の人生なんだろう?

美人の保育士さんが本当にうらやましい。

いつも明るくて性格も良く、こどもたちにも大人気だ。

うわさでは家柄も良いらしく非の打ちどころがない。

それに比べてわたしは、この世はなんて不公平なんだろう。


スーパーに着き、ロッカールームで急いで着替える。

わたしの担当はバックヤードで食品のパック詰め作業だ。

ベテランのパートさんはみごとなくらい素早くパック詰めしていく。

わたしが入ると、ペースが乱れるのか、いい顔をしない。

昨日、パート長が主任にわたしを他の係りに替えてほしいと頼んでいるところを偶然に聞いてしまった。

ショックだった。

やっと作業に慣れたところなのに移動になるかもしれない。

でも、今は気持ちを切り替えて頑張るしかない!

みんなの迷惑にならないように必死で丁寧にパック詰めをする。


「ちょっと、これ誰がやったの!こんなんじゃ、お店に出せないでしょ!」

パート長が叫んだ。

みんな一斉にわたしの方を向いた。

わたしじゃない!!

心の中で叫んだが聞こえるはずもなく、

「誰がやったかは、本人が一番わかっているはずよ!!今後は気を付けて作業してください!!」

パート長がビシッと言い放った。


お昼休みに店舗でとんかつ弁当と大福餅を買って、休憩室で一気に食べた。

至福の時間はあっという間に終わってしまった。

仕事を始める前にトイレに行き、ブースでほっと一息する。

そこに、パートの女性たちが、ペチャクチャおしゃべりしながら歯磨きをするためにトイレにやって来た。

わたしがブースにいるとも知らず、

「ねぇ~彼女の食べっぷり見た~?あれは、育ち盛りのスポーツ男子のお弁当よね~揚げ物ばかりで見てるだけで胸やけしちゃった~」

「見た!見た!その後に大福まで食べていたわよ~あれじゃ、太るわけよね。 だから仕事も遅いし覚えも悪いんじゃない?」

「狭いところですれ違えないから、仕事の効率が悪くなるってパート長が嘆いていたって~」

「わかる~パート長は超完璧主義者だから、時間のロスになることは許せないのよね~」

「あっ、大変!時間よ!急ぎましょ!」

二人はそそくさとトイレから出て行った。

わたしも行かなければいけない。

でも、でも、行けない。

心臓を鷲掴みされたような痛み。

身体がふるえてきた。

もう、あの仕事場には戻りたくない!


しばらくトイレの便座に座ったまま動けなかった。

「大丈夫~?」

いつも何かと気にかけてくれる年配のパートさんが心配してきてくれたのだ。

彼女だけが唯一のオアシス的な存在だ。

お腹の調子が悪いので、このまま帰りたいと主任に伝えてもらうことにした。

親切なパートさんはお大事にねと疑いもしないで出て行った。

お迎えには少し早いが保育園に向かった。

早く拓の顔が見たい!

拓に癒されたい!

保育園に着くとお昼寝の時間で静まりかえっていた。

そっと、保育士さんを呼ぶ。

「拓ちゃんのおかあさん、こんな時間にどうしたんですか?顔いろ悪いですよ。大丈夫ですか?」

優しい保育士さんの言葉に、抑えていた感情が溢れ出しほろりと涙が知らずに流れてきてしまった。

「どうなさったんですか?」

こんなにきれいな保育士さんに話したところで、わたしの気持ちなんて絶対にわかるはずはないと思ったが、促されるままにポツリポツリと口から言葉が溢れ出す。

「そんなところ辞めたらいいですよ!」

保育士さんは、そんな無責任なことを言った。

でも、生活がかかっているから辞められない。

「拓ちゃんはこちらでみていますから、今からこのカフェに行ってください」

さらさらとメモに場所を書いて渡された。


カフェ???


「ここに行ったら、本当に幸せになれちゃうんです!怪しいところじゃなので、今からすぐに行ってみてください!!」

保育士さんがいい加減なことを言っているようには、みえない。

むしろ、誠実で真剣さが伝わってくる。

わたしは、そこに行こうと思った。

教えられた駅から数分歩くと、そのカフェはあった。

ドキドキしながら、扉を開けてみた。

「いらっしゃい。さあ、さあ、中に入って」

入った瞬間、コーヒーの良い香りが鼻をくすぐる。

何とも言えない不思議な空間、なぜか懐かしいような…。

わたしの気持ちはいっぺんにほぐれた。

「辛いときは、美味しいもの食べてほっとしましょ。今日のおすすめはアップルパイよ」

スイーツなんか食べたらもっと太ってしまう!

太っていなければあんな言われ方はしなかった。

頭の中で葛藤する。

でも、私はスイーツが大好き。特にアップルパイ!!

でも、ダメダメ!!また太ってしまう!!

「うちのアップルパイは、カロリーをすごく抑えてあるのよ。だから食べても大丈夫よ」

「えっ?本当ですか!?」

私はアップルパイとコーヒーを注文した。

そうして、運ばれてきたアップルパイを一口食べる。

お、おいし~い…美味しい!!

リンゴの甘さと酸味がちょうどいいわ!

「美味しいでしょ~ 幸せ感じちゃうでしょ? 食事制限だけして一時的に痩せても根本的な解決にはならないわ。くじけて、また食べてしまったら、もっと酷いリバウンドが待っているだけよ。
そして、そんな自分を責め、自己嫌悪になって、もっともっと自分のことが嫌いになっていく。悪循環の連鎖よ」

本当にそうだ。今だって自分のことが大嫌いなのに、挫折した自分なんて耐えられない。死にたくなるかもしれない。


「そもそも根本原因を手放さなければ、食べ物を一時的に制限しても対処療法でしかないから痩せることは難しいの」


根本原因?


「心の深いところで、不満や何かが不足しているといった欠乏感をうめるためにあなたの場合は食べることで満たそうとしているんじゃないかしら? 人によっては、お酒にドラッグ、買い物や他の人に執着したり。     とにかく、一時的でも心を満たしたいわけよ。

何か、目的があったり、目標がある人は、それに向けて力をそそいでいるでしょう?

あなたも夢中になるものが、あったら今のような異常な食欲にはならないはずよ」

なんだか耳が痛い。

 
「あなたは、何故自分のことが嫌いなの? 家族思いで、一生懸命子育てして、家庭をしっかり守っているんでしょ?               子供たちは、あなたのこと大好きなんじゃない?                           そんなあなたが自分のことが嫌いだったら子供たちに対して失礼じゃない?いい子たちに育てているのは、あなたなのよ」

この人には、嘘をつけないと思った。 

確かにそうだ。わたしは、あんなにいい子たちのママなんだ!


「あなた、保育士さんのことを見てかわいくて素敵なお嬢さんだと思わなかった?                               でもね、そんな彼女もすごく苦しんでいた時期があって今があるの。

人のことを、妬んだり、羨ましがったりしても、なんの解決にならない。 あなたが他の人になる努力をしても、けっしてその人になることはできない。

そもそも、あなたは何故嫌な思いをしてまで働いているの?

支出が増えたら収入を増やさなくちゃいけないわけ?
生活費にいくらかけているか、計算してみたことある?

無駄を省けば、あなたがパートで稼ぐお金ぐらい節約できるんじゃない?」

痛いところを突かれた。あればあるだけ使ってしまう今の私の金銭感覚をズバリ指摘されてしまった。

たしかに!!目から鱗だ!!

私は、家で子供たちの世話をしたり家事をする方が何倍も楽しい。

もうあそこでは働きたくない!!

働きたくない!!

そうか!!働かなくていいんだ!!

あんなに神経をすり減らして働くより節約する方にエネルギーを使おう。 その方が私には合っていると思う。

なんだか胸のつかえがすーっと取れた気がした。

最後の一口を頬張る。

幸せのアップルパイ!


「そのアップルパイは、市販されているものより、カロリーは、半分くらいなの。

リンゴ本来の甘みが美味しいでしょう?

パイ生地も小麦粉を減らして大豆粉を使っているの」

え~こんなに美味しいのに、カロリーも低いなんて。

「いろいろ工夫すれば、費用もカロリーも体重も落とせるものなのよ!

グラタンだって、ラーメンだって、パスタだって、食べていいのよ!

あなたには、時間があるんだから手間暇もかけられるし、なにより楽しんでできるんだから、こんないいことないでしょ。」

節約ダイエット料理!!いいかも!!

「身体にもいいし、経済的にもなるし、痩せてきれいにだってなれるわ」

外で働かなくてすむとなったら、もう断然はりきっちゃう!

「強制的にダイエットしなさいって言われると、辛くて苦しいでしょ?

でも、自分からヤル気が出れば、百人力よ!絶対成功するわ!」


半年後に成果をみせにくることを、約束して、拓を迎えに保育園に向かった。


ー6ヶ月後ー


私は再びカフェの扉を開けた。

「約束通り来たわね!あなた、痩せたわ~ すごい!すごい!」


そうなのだ。あの後、パートの仕事は辞めた。それから家計を見直して、無駄を省き、料理の研究をした。


その結果、すべてが変わった!


夫の体重も減り、健康診断の数値も良くなった。


なにより、わたしの生きがいが出来たのだ。
料理を作り、それをブログに載せたら、フォロワー数がドンドン伸びて、今では人気サイトになっている。


目的ができると、たしかに、食欲が抑えられるということがわかった。

もう、人のことを羨ましがったりしないし、嫌なことはしない。

ハッピーな気持ちで毎日を過ごしている。

おわり

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