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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
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2022年9月の記事一覧

さらぬわかれ 95

生前の楽しかった頃を、恒之新とさくらは懐かしそうに語った。

「こうやって実際に話を聞いていると、元は普通の人だったんだって思うね…」
栄子は恒太に耳打ちした。

「うん、そうだね。普通の恋人同士だ。」
恒太も栄子と同意見だった。

「でも、2人は心中してしまったんだよね。さくらだけが命を落として、恒之新様は生き残ったけど…。」
栄子は2人に起きた悲劇の理由が気になった。生き残った恒之新が祟りを起

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さらぬわかれ 96

「覚悟はしていた。私達は身分が違う。お互い好いていても、結ばれない。だから諦めようとした。」
さくらの顔が険しくなった。

「でも、諦められなかったんだよね?そうでなければ、心中なんてしようと思わなかったはずだもの…」

「栄子…私のせいなの。私が我慢すれば、恒之新様を巻き込むことはなかった!穏やかな一生を送ることが出来たはずなの!」
さくらは顔を手で覆った。

「…どうやら、僕らが思っているより

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さらぬわかれ 97

さくらは心中する前に、自分だけで死のうとしていたのだ。

「嫁いでも、結婚相手が酷い人間だって分かっているから、希望が見えないものね。死にたくもなるわ。」
波留日がさくらに寄り添った。

恒太は父親の恒孝に何か言いたげな視線を送った。

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さらぬわかれ 98

「山村の当主…父上に、さくらを山村家で保護してもらえるよう頭を下げた。妻として迎えることは出来ないけれど、さくらをあんな家に嫁がせるよりは良いと思った。しかし、父上は『その娘を保護して、山村家に何の得がある。食い扶持が増えるだけであろう。それに、その娘にお前が、懸想しておることは周りに知れておる。家の恥にしかならぬ。』と言って、聞き入れてもらえなかった。」
恒之新の顔が歪んだ。

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