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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
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2021年2月の記事一覧

さらぬわかれ 13

(もしも恒太がいなかったら、私は誰も信じられないで生きてたんだろう。)
15歳になった今でも一緒にいてくれる恒太に、栄子は感謝の気持ちでいっぱいになった。

恒太と栄子は、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。
「いただきます。」
先ほど出来上がったばかりの肉じゃがは、とても優しい味がした。

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さらぬわかれ 14

外に出ると、空気が生ぬるかった。

「普通、こういう時って男が送っていく方じゃないかな。」
恒太はそう言ったが、栄子の寂しさを察したのか、それ以上は突っ込んでこなかった。

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さらぬわかれ 15

帰り道、栄子はなんとなく「あの木」のある丘の前を通ってみることにした。
恒太が言った「また明日」という言葉が無敵な気持ちにさせたのかもしれない。
あるいは、桜の木が栄子を呼んだのかもしれない。
今日は、「あの出来事」からちょうど8年なのだから…。

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さらぬわかれ 16

栄子が異変に気付いたのは、桜の木に近付いた時だった。

「あれ…?夜なのに木がはっきり見える。」
丘の下の方には歩道があって、そこには電灯がともっているのだが、桜の近くには祟りを怖れて人が近付かないゆえに灯りなどはない。
天気は良いが、月もない。

どうやら、桜の木自体がほの暗い光を放っているようだった。

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