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さくらゆき
2020年12月2日 18:05
きっと、実際は数分の出来事だったと思う。 でも、栄子にとってはずっと長い時間に感じた。「おーい、待たせたな!」 男の子は、大人を数人連れて戻ってきた。「チッ!何でこんなところに来たんだ。」駐在らしき男が舌打ちしながら言い捨てた。栄子には、何のことかわからなかった。「見かけない顔だから、こないだ越してきた家の子じゃないのか?」中年の男が栄子の顔をまじまじ見てきた。
2020年12月9日 12:46
桂は、大人たちによって診療所に運ばれた。「特に異常はありませんね。」と先生が抑揚なく言った。「そんなわけない!これのどこが異常じゃないっていうの?」栄子は先生のくたびれた白衣に掴みかかった。眼から涙があふれた。
2020年12月16日 21:36
次の日になっても、桂の状態はまったく変わらなかった。 村には精密検査の出来るような病院はなかったので、村の外の大きな病院で桂を診てもらった。 しかし、この病院の医者も原因を突き止めることは出来なかった。 何度も何度もいろんな病院で検査をしてもらったが、結果は変わらなかった。
2020年12月23日 23:23
結局、何の進展もないまま桂は家で静養することになった。意識がないのと成長しないこと以外はすべて【正常】だったからだ。
2020年12月30日 07:12
「ん…。ん~!」 栄子は目を覚ました。いつの間にか眠ってしまっていたのだ。「昔の夢見てたんだ。」 眠っている間にすっかり夜になってしまっていた。部屋に闇が立ちこめている。 聞こえているのは、時計の音と、桂の呼吸だけ。「私だけは、絶対忘れないからね。」 そう言って、栄子は桂の小さな手を握った。桂は反射で握り返した。ほとんど動かすことのないその手は恐ろしく冷たい。