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紫陽花の季節、君はいない

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「紫陽花の季節」主人公の夏越の物語です。 「紫陽花の季節」か「夢見るそれいゆ」と一緒に読んでいただけると、もっと楽しめます。
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2022年4月の記事一覧

紫陽花の季節、君はいない 83

紫陽花の季節、君はいない 83

数日後、柊司がひなたを抱いて俺の部屋にやって来た。
「ひな。ここが俺の親友・夏越の部屋だ。」
赤ちゃんに説明してもわからないと思うのだけど、柊司は大真面目にルームツアーをした。

柊司が俺のデスクに置いてあるテキストに目をやった。

「『アロマテラピー検定』に『薬膳・漢方検定』、『ハーブ検定』?夏越、受けるのか?」
「まだどこに配属されるかは決まっていないけど、知識を付けたくてさ。」
俺の就職先は

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紫陽花の季節、君はいない sideあおい

紫陽花の季節、君はいない sideあおい

※あおいさん視点からの話です。

さっき娘の名前が決まったの。
「ひなた」っていうの。

夫の柊司くんと、夫の親友・夏越くんが考えてくれたわ。

夏越くんは命名の色紙まで書いてくれた。
平仮名はバランスとるのが難しいのに、かなり字が上手で驚いたわ。

お礼に柊司くんが夕御飯をふるまったわ。

「──ご馳走さまでした。」
夏越くんは、ひなちゃんにミルクを与えている柊司くんの代わりに食器を片付けてくれ

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紫陽花の季節、君はいない 82

紫陽花の季節、君はいない 82

赤ちゃんは確かに笑って見えた。
でも偶然ということもある。
もう一度、柊司と俺は名前候補を呼んでみた。
結果は同じだった。

「…これは、もう『ひなた』に決まりね。」
神妙な顔をしてあおいさんが言った。
「そうだな、お前の名前は『ひなた』だ!」
柊司が娘の頬を人差し指でむにむにつついた。

「『ひなた』、これからよろしくな?」
俺は赤ちゃんに優しく語りかけた。
すると不意に涙が溢れてきた。

「ど

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紫陽花の季節、君はいない 81

紫陽花の季節、君はいない 81

俺が叫んだので、柊司もあおいさんもびっくりしていた。
赤ちゃんは俺の声に反応したが、泣き出す様子はなかった。

「夏越、落ち着け。いきなり『名前はひなただ』って断定されても困るぞ。」
そうだった。決定権は親であるこの二人にある。

「じゃあ、娘本人に決めてもらいましょう。」
あおいさんがニッコリ微笑んだ。

「二人ともここに並んで。」
柊司と俺は横並びになった。すると赤ちゃんを抱いたあおいさんが俺

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紫陽花の季節、君はいない 80

紫陽花の季節、君はいない 80

検索を続けて、俺は向日葵と書いて「ひなた」と読ませるのを見つけた。

シャンッ!
頭の中で鈴の音が聞こえた。
御葉様が八幡神様と交信していた時に鳴らしていたあの音だ。

(この子の名前は、『ひなた』?)

俺は赤ちゃんの顔を再び見つめた。
『夏越殿、信じるか信じないかは貴方次第です。でも、出会えばきっと【その人】だと分かるでしょう。』
俺の心の中で、御葉様の言っていたことがリフレインする。

俺が

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紫陽花の季節、君はいない 79

紫陽花の季節、君はいない 79

柊司に聞かれて、俺は彼女の名前を付けたときのことを思い返した。

『私、生まれたての紫陽花の精霊だから名前無いの。私の名前、アナタが付けて!』
そう彼女に頼まれて、俺は紫陽花の精霊だから「紫陽」って名付けたんだ。

彼女は精霊だったから自分の名前を書くことはなかったけど、「紫」も「陽」も画数が多いと後々気づいたんだよな。

この子には、どんな名前が良いだろう。
俺は赤ちゃんの顔をじっと見つめた。

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紫陽花の季節、君はいない 78

紫陽花の季節、君はいない 78

赤ちゃんが落ち着いたところで、名前会議が始まった。

「二人とも、名前の候補はあるの?」
やはり親の意見は尊重したい。

「私は親しみやすい雰囲気の名前が良いと思うけど…。名前辞典を眺めていたら、逆に迷ってしまって…。
だから私は名前は二人に任せるわ。」
俺と柊司はあおいさんから命名を託された。

「俺は『向日葵』(ひまわり)が良いと思う。
夏生まれだし、あおいが名前につくからな。」
柊司は「向日

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