見出し画像

紫陽花の季節、君はいない 81

俺が叫んだので、柊司もあおいさんもびっくりしていた。
赤ちゃんは俺の声に反応したが、泣き出す様子はなかった。

「夏越、落ち着け。いきなり『名前はひなただ』って断定されても困るぞ。」
そうだった。決定権は親であるこの二人にある。

「じゃあ、娘本人に決めてもらいましょう。」
あおいさんがニッコリ微笑んだ。

「二人ともここに並んで。」
柊司と俺は横並びになった。すると赤ちゃんを抱いたあおいさんが俺達の前に立った。

「まずは柊司くん、名前を呼んで。」
あおいさんに促され、柊司は「向日葵ひまわり」と赤ちゃんに呼び掛けた。
しかし赤ちゃんは無反応である。
そもそも、この子に名前という概念はないのではなかろうか。

「じゃあ、夏越くん。この子に名前を呼び掛けて。」
俺は「ひなた」と呼び掛けた。
瞬間、赤ちゃんの表情に変化が起きた。

「え、笑った?」
俺と柊司は顔を見合わせた。

読んで下さり、ありがとうございます。いただいたサポートは、絵を描く画材に使わせていただきます。