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紫陽花の季節、君はいない

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「紫陽花の季節」主人公の夏越の物語です。 「紫陽花の季節」か「夢見るそれいゆ」と一緒に読んでいただけると、もっと楽しめます。
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2021年11月の記事一覧

紫陽花の季節、君はいない 52

紫陽花の季節、君はいない 52

「…情けなくなんてないよ。」
あおいさんがぽつりと言った。
「そんな風に自分を責めるような笑い方しないで。夏越くんは疫病神じゃない。私達を思うなら、勝手にいなくなろうとしないで!」
あおいさんがまた泣き出してしまった。泣きじゃくる彼女の背中を柊司は大きな手でさすった。

「夏越、あおいは人に黙っていなくなられるのが一番嫌なんだよ。」
柊司が俺に訴えかける視線を送った。
あおいさんの両親は離婚してい

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紫陽花の季節、君はいない 51

紫陽花の季節、君はいない 51

俺の脳裡に、義母の冷たい眼差しがよぎった。
「そんなこと言ったら、嫌われるわよ。」とでも言いたげである。
でも、それは俺の心が見せている幻だ。

俺は紫陽の笑顔を思い浮かべた。
『──ナゴシ、微笑って』
かつての彼女の言葉が俺に勇気をくれる。

「柊司、あおいさん。俺の母親は俺が生まれたせいで死んだんだ。
二人と夕飯を食べたあの日の夜、夢の中で言われたんだ。『母親は俺のせいで死んだのに、あおいさん

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紫陽花の季節、君はいない 50

紫陽花の季節、君はいない 50

いくら「言いたくないことは言わなくて良い」といっても、黙って避けるようなことをされたら悲しいに決まっている。

紫陽が生まれ変わる為に精霊として死ぬことを言ってくれなかった時、俺は「何で言ってくれなかったんだ」って思っただろう?

紫陽と違って、柊司もあおいさんもまだ俺の前にいる。俺の気持ちを伝えられる。すべてを話す訳にはいかないけれど、聞いてもらいたい。
これからの為に──

「柊司…あおいさん

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紫陽花の季節、君はいない 49

紫陽花の季節、君はいない 49

「あおいさんを俺が嫌う?何でだ?」
はじめの頃は女の人というだけで苦手意識はあった。
だけど、いつもあおいさんは親切にしてくれているのに、俺が嫌う理由なんかない。

「あの日…私が無理にお腹を触らせたりしたから、夏越くん不愉快になったんでしょう?
あれから夏越くん、柊司くんや私を避けるようになったから…。
本当は、夏越くんの誕生日プレゼントも受け取ってもらえないかもって不安だったの。」
あおいさん

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紫陽花の季節、君はいない 48

紫陽花の季節、君はいない 48

俺はあおいさんが泣くのを呆然と見ていた。
「ごめんなさい、夏越くん。すぐに泣き止むから。」
あおいさんは、マタニティウェアのワンピースのポケットからハンドタオルを出して涙を拭った。

玄関で妊婦を立ちっぱなしにしてしまってることに気づいた俺は、柊司と一緒にあおいさんをキッチンに連れて行き、椅子に座らせた。
俺の家にはカフェインレスの温かい飲み物はないので、白湯を入れてあおいさんに渡した。
「夏越く

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