見出し画像

紫陽花の季節、君はいない 51

俺の脳裡に、義母の冷たい眼差しがよぎった。
「そんなこと言ったら、嫌われるわよ。」とでも言いたげである。
でも、それは俺の心が見せている幻だ。

俺は紫陽の笑顔を思い浮かべた。
『──ナゴシ、微笑って』
かつての彼女の言葉が俺に勇気をくれる。

「柊司、あおいさん。俺の母親は俺が生まれたせいで死んだんだ。
二人と夕飯を食べたあの日の夜、夢の中で言われたんだ。『母親は俺のせいで死んだのに、あおいさんとお腹の子は、無事で済むのか?』って。
俺、怖くなったんだ。もしかしたら、俺は疫病神なんじゃないかって。」
俺の話を二人は黙って聞いている。

「だから、俺は二人から離れなくちゃいけないって思った。
就活も此処から遠くを受けたんだ。でも、全然上手くいかなくて…情けなくて…ますます二人に合わせる顔がなくなったんだ。」
俺は話していて、自嘲するしかなかった。

読んで下さり、ありがとうございます。いただいたサポートは、絵を描く画材に使わせていただきます。