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紫陽花の季節、君はいない 48

俺はあおいさんが泣くのを呆然と見ていた。
「ごめんなさい、夏越くん。すぐに泣き止むから。」
あおいさんは、マタニティウェアのワンピースのポケットからハンドタオルを出して涙を拭った。

玄関で妊婦を立ちっぱなしにしてしまってることに気づいた俺は、柊司と一緒にあおいさんをキッチンに連れて行き、椅子に座らせた。
俺の家にはカフェインレスの温かい飲み物はないので、白湯を入れてあおいさんに渡した。
「夏越くん、ありがとう。」
あおいさんは白湯にゆっくり口をつけた。

「あおいさん険しい顔をしてたから、俺…気持ち悪がられていると思った。」
「違うの。すごく嬉しくて、涙を堪えていたの。だって夏越くんから誕生日を祝ってもらえるなんて思わなかったんだもの。」
そう言って、あおいさんはまた泣きそうになった。

「夏越、あおいはお前に嫌われたのかと思ってたんだって。」
「えっ?」
柊司の思わぬ言葉に俺は驚きを隠せなかった。

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